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Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

大量生産ビオ商品市場で

2012-08-26 | 試飲百景
承前)ビオ商品が大量生産商品となってその本来の価値が消え失せてしまった。同様な事象は、同じ農産物であるワインでも生じることはありえるだ。当然のことながらその前提には葡萄が育つ環境や長い時間が掛かる土壌のビオ化や栽培の手間の掛け方があって、更に商品構成への戦略の中での選択など栽培と醸造の両面からの優れた総合マネージメントがそこには欠かせない。

特に50ヘクタールにも迫ろうかという土地を有する大手の醸造所となると、高品質をモットーとして掲げる一方で、その大量なワインを無駄なく、価値を下げずに瓶詰めしていく必要が生じる。それは最終的な小売の段階となっても、例えば同じエチケットの張られているものでも、瓶詰めの時期つまり公的検査機関でその瓶詰め度に内容が検査されて与えられるAP番号によって、中身が異なるということもそうしたマネージメントの一つである。

必ずしも大量に卸す卸屋さんに悪い商品が回されるわけではないが、高級ブランド商品が日本や中国など極東や合衆国に販売されるとき、纏った数の発注とその供給が保障されなければいけないので、どうしても高級大量生産品とならざる得ないのである。だから、顧客などの特定の小売客へと質を問うような商品とはどうしても内容が異なってくる。特に、早い時期の瓶詰めと配給は、天然酵母などを活かしたビオ高級醸造ワインでは否定的な要素しか生じないのは自明のことであり、それはこの醸造所でも遅い時期の瓶詰めが逆にアナウンスされるという逆証となっていたのである。

高級リースリングにおいては、所謂裾物としてのベーシックなグーツリースリングからオルツリースリング、プリュミエクリュ、グランクリュへの格付けの中で対処するというのがまさしくドイツ高級ワイン協会VDPの打ち出した方針なのである。しかし厳密には、土地土地の事情などがあって、ここザールでも若干の保留がされていることは今回の試飲でも確認された。

さて最もベーシックな「シーファーリースリング」は、その意味からも販売価格からすると少々高価である。なるほど天然酵母を使いビオ醸造をしていることも分るのだが、ロベルト・ヴァイル並みの価格を突きつけるにはミネラル風味などが貧弱で、拮抗する酸とアルコールのバランスの良さしかない。この価格ならば、なにも最高に格安のシェンレーバー醸造所のそれを出すまでも無く、ヴァッヘンハイマーリースリングでも十分に美味い。そのように考えると反対にレープホルツ醸造所のべーシック商品が売れないのも当然である。

しかし、その次の「ザールリースリング」となると急に拮抗が複雑な力学となっていて軋みや緩みさえも想像させて、飲み甲斐のあるワインとなっている。双方ともアルコールは12%であるから、決して低くないと思いきや、抑えているというのである。なるほど果実の糖比重を90エクスレから100の間にしているとなると、レープホルツのそれよりも5スカラーほど高いことになる。

それがアルコールの高さになって表れているが、巷で言われているような重心の低いリースリングとはなっていないのだ。寧ろ天然酵母ワインとしては軽やかで、その酸も肌理は細かい。ただし2011年特有の酢酸系のそれはいくらか感じる。苦味も甘みも分らないほどにバランスが取れていて、時間をおいてから瓶詰めしているだけに酵母臭などもない。モーゼル流域の辛口リースリングとしての質としては既に一級である。因みに、瓶詰め番号は2512である。

ヴィルティンガー・ブランウンフェルツにおける千枚岩系の味はまさしく、ラインガウのそれを思い起こさせるのだが、土壌が変わると、漸く構成的なミネラル感などを表現していて立派である。その上級商品となるフォルツも同じで、なるほど素晴らしいのだが、敢えてこうしたリースリングをザールで購入する必要は感じない。そして「アルテレーベン」の50年以上古い葡萄からのワインとなると、コクが出ていて美味いのであるが、同時にどうしてもその旨みにシルエットが暈けてくるのである。その傾向は上級の「ゴルトベルク」の鉄分の多い赤スレート土壌となると顕著になる。なるほど美味いのであるが高級リースリングとしては限界が見える。糖も12gほどあるので半辛口である。

いよいよ期待せずに「シャルツホーフベルガー」を試すと、嘗て飲んだエゴンミューラ醸造所の甘口も思い出すが、そこでは清涼感としか感じなかった酸やミネラルが、この辛口では繊細な構築感として細やかな襞が感じられて、初めてこの地所の良質を知ることとなる。斜面の中間ぐらいの地所であるらしいが中々どうしてその特徴は明白である。

グランクリュクラスは、半分ほどが瓶詰めされたところであったので、あと三種類の「シャルツホーフベルガー・ペルゲンツクノップ」と「アルテンベルク」と「ゴッテスフース」は試せなかった。それでもつめたばかりのものを試飲購入できて幸運であった。

質に関しては文句の付けようも無いが、その広報の揺らぎ方の原因である十年足らずの醸造所の安定度は、先ずは地所や葡萄の手入れや年季で安定してくるだろう。醸造法も雑誌などによると改良されてきているようで、十分に狙えるリースリングを排出している。なるほど「残糖を残した辛口」には、たとえ温度を下げながらの醗酵を停止を行っていてもどうしても亜硫酸の影響を感じてしまうのであるが、そうした面の質を考えてしまうとプファルツの雑食砂岩縁のリースリングの方が遥かに優れている。しかし、旨みと言うことではスレートであり、残糖感を残さないザールのリースリングの存在価値を明白に感じさせた。

写真に撮ったように、一世紀ほど前の時点では、このフォルクセンのリースリングは、マルゴーなどと同じ価格でドイツ帝国の高級レストランやホテルでは供されていた。それを復活させようというのが、ビットブルガーから財産分けで購入したこの醸造所のオーナーの意志である。その高い意志と、投資先行の中長期的な視点に立った壮大な試みは、我々がドイツのリースリングに期待するものそのものなのである。



参照:
ザール渓谷の文化の質 2012-08-18 | 文化一般
本当に価値のある商品とは 2012-08-25 | アウトドーア・環境
とても小さい万単位の需要 2012-04-30 | 女

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4 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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全ては試せませんでしたが (Saar Weine )
2012-08-30 02:26:09
pfaelzerwein様、こんばんは。


やはり僕的にはシャルツホーフベルクのエゴンミュラーとは違った次元の魅力が確認出来た試飲でした。


確かペルグンクノッフの表示は厳密にはワイン法違反のようですがそれでもきちんとテロワールを表現したいという強い意志が感じられました。
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「エゴンミュラーとは違った次元の魅力」 (pfaelzerwein)
2012-08-30 14:14:09
そうですか。エゴンミュラーはもらい物として三十年ほど前に確か七十年代物を呑んだ印象しかありません。ですから記憶は薄いですが、甘口に於けるミネラル風味というのは限られていて、今回感じたような切子のような繊細さは所詮表現出来ませんね。その違いは?

その意味からもこの地所の質の高さには驚きました。恐らくエゴンミュラーは自らも言うようにそれほどのよさを自覚していないかもしれません。スレート土壌においてああした銀細工のような細やかさをほかには知りません。ただしワインとしては糖を残す方法でどれだけ将来的な熟成が計算されているかは未知数です。だからフォルクセンにそれは保留すると伝えたのです。2010年を飲んだ感じでは除酸に苦労した痕が見えました。

ワイン法に違反という意味では合併された地所を、再び昔のように改めて別けて名乗るのは極普通の傾向です。家の近所でも数え切れないほどあります。もしかしてあなたワイン省の方ですか?

ですからそれをして意志と言うのは明らかにこじつけでしかありません。テロワールの相違よりも葡萄の樹齢やクローンや手間の掛け方なども関わっており、選別された葡萄の果実が使われるということの方が、味や品質の違いに大きく影響するのです。それこそ現地を見て形状や土壌などを照査して見なければ分りませんが、テロワー自体の差は瓶詰の差ぐらいしかないのではないでしょうか?

PS.先ほどお写真を送らせて頂きましたがお受け取り頂きましたでしょうか?
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お手数ですが (Saar Weine )
2012-08-31 08:48:24
pfaelzerwein様、おはようございます。

僕が今まで飲んだエゴンミュラーのシャルツホーフベルクの中では(まだ先代の4世氏が指揮を執っていらした頃です)80年代のが見事な残糖が殆ど感じられないカビネットを飲んだ事があってびっくりした事がありました。


今使っている携帯電話が壊れてしまい修理に出しておりましてお手数ですがもう1回ご送信頂けますでしょうか。
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二十年待つ必要は無くて、五年位で結論が出る (pfaelzerwein)
2012-08-31 15:02:58
エゴンミュラーの歴史的な変遷は知りませんが、戦後の成功は甘口の筈です。下にも書いたようにリースリング専科になったのは最近のことで、それこそワイン法の悪化で甘さの度合いつまり糖比重が価格に結びつくのを実践した醸造所です。

http://blog.goo.ne.jp/pfaelzerwein/e/40a19d3f331176608e2f14599e71d722

つまり、残糖が感じられないというのはベーシックなQbAかカビネットが経年変化で糖が落ちた状態かと思います。

それと現在ドイツの高級リースリングで進めている、過去に遡る辛口化はクラシックとか呼ばれるものでもありますが、醸造法も進化してきているので必ずしも糖を残した醸造とは限りません。

VDPのグローセスゲヴェックスには異議を唱えながら、グランクリュとして残糖を残すフォルクセンのような遣り方が、本当に二十年後の価値を定めるのかどうかは未知数だというのです。しかしそれは二十年待つ必要は無くて、五年位で結論が出るのです。そうした示唆は先日の試飲の際にも与えておきましたので、今後試飲会などへの招待の節に引き続き話題となると思います。

既に触れましたようにビオ化も完了していない新興の醸造所ですから進行形なので安定しないのは致し方ないでしょう ― レープホルツ醸造所なども。現在辛口の長期保存の可能性を実証しているのはビュルクリン・ヴォルフ醸造所の1997年以降のグローセスゲヴェックスのみです。

写真は携帯でなくて、GOOのアドレスに送りました。
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