Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

想像し乍ら反芻する響き

2007-10-06 | 文学・思想
水曜日からトーマス・マン作「ファウストュス博士」のラジオドラマが始まった。ヘッセンとバイエルンの其々文化放送波とフランクフルトのアンサンブル・モデルンのアカデミーの共同制作である。

十回続きで、原典全文の四割がそのまま読まれる。朗読ではなくラジオ劇となっているので、効果音や音楽、そして作曲家の主人公レーファークーンの唯一の幼馴染の友人でフライジングの神学者ツァイトブロムが語り手となって原作どおりに進む。つまり、直説法で話すところや間接法で語るところを取捨選択して、本人に喋らせたり語り手に語らせたりと、対話や特に悪魔との交渉やその内面劇のモノローグはその配役に工夫しているようだ。

第一回目をネットのストリームで聞いた。九十分番組の中で、やはり自身で読んで印象に残っている「蝶の観察」などのシーンは息飲む思いで聞きこんだ。その他、読み直したく思わせたのは、ライプチッヒ近郊のニッチェの生家をモデルにしていると言われるナウベルクの情景や町並みが目に浮かんで素晴らしかった部分である。

父親の化学実験に歓声を上げる子供たちの声が、イメージしたものよりも甲高かったり、その割に親父の声が老けていたりと意外に思ったところは読み返して情報を収集し直したくなる。

毎週一回の放送で、先は長いが、古フランキッシュなどの言葉遣いが聞けるのも楽しみである。何よりも、自らではイメージ仕切れない百年前の中部ドイツの雰囲気をよりよく伝えて貰えると助かる。物語の進行する、その時代や社会背景が身に沁みて居ないと随分と退屈すると言うか、理解出来ないことが多いからである。

この作品は音楽文化が大きな位置を占めるが、それ自体もそうした背景が前提となって尚且つそれを映し出すことでは、物語の理解とそれほど変わりない。それが記録されている楽譜は、そうした町の広場に面したホールや教会に無造作に置かれているのが、元来のその情景である。

そして、今我々は世界中から、そうした楽譜のコピーをクリック一つで自らのコンピューターにダウンロード出来るようになっている。それを、インクと紙代を投資(特価品購入と同様な額を)すれば従来の楽譜のように使える。

ピアノ曲をその指運びの数字に出来るだけ従って、机の上を叩くだけで、誰の迷惑にもならずそれどころか不味い音を聞いて自らの心を乱されることも無く、古典的な楽曲に触れる事が出来る。管弦楽曲にも「棒振り」と言うジャンルが、YouTubeにもあるが、各々の楽器にもそのようなものがあっても面白い。そして、ヴィーン古典派などの古典曲の 演 奏 や 鑑 賞 行 為 には、今日限られた芸術的な意味合いしかないことであり、こうして気楽に楽しめる事がなによりも素晴らしいのである。

上のラジオ劇場のストリームの録音を試みて失敗した。長尺のダウンロードと記録が出来るフリーソフトを日曜日の再放送に向けて探している。今月の下旬にはそのCDも発売されると言うから、ドイツ語の上級者の好事家には関心あるところだろう。


追記:SDP Downloaderと称するフリーソフトを見つけた。長尺のラジオも録音出来そうである。



参照:
International Music Score Library Project
 Category:Composers (IMSLP)
Thomas Mann: Doktor Faustus (hr2 kultur)
Live-Streaming (hr2 online hören)
兄弟の弁証法的反定立 [ マスメディア批評 ] / 2007-08-22
詩的な問いかけにみる [ 文化一般 ] / 2007-07-09
暖冬の末に灯火親しむ [ アウトドーア・環境 ] / 2007-02-18
でも、それ折らないでよ [ 文学・思想 ] / 2007-01-26
川下へと語り継ぐ文芸 [ 文学・思想 ] / 2007-01-21
明けぬ思惟のエロス [ 文学・思想 ] / 2007-01-01
ザーレ河の狭間を辿る [ 文学・思想 ] / 2006-12-25
自由システム構築の弁証 [ 雑感 ] / 2006-12-16
ファウスト博士の錬金術 [ 音 ] / 2006-12-11
世にも豊穣な持続と減衰 [ 音 ] / 2006-12-09
在京ポーランド系ユダヤ [ 雑感 ] / 2006-10-08
言葉の意味と響きの束縛 [ 音 ] / 2006-04-15
吐き気を催させる教養と常識 [ 文化一般 ] / 2005-08-18
否定の中で-モーゼとアロン(1) [ 文学・思想 ] / 2005-05-02
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする