古い本 その62 Harlan 1834・1835
ここからは研究の資料として複写した化石関連の古い論文などを紹介する。基準は、ほぼ100年以上経ったもので、なんらかの参考にしたもの。当然外国のものが多いから、全て読んだとはとても言えない。コピーなので図版などの状態が悪いことをおわびする。主に大学院時代に教室の図書室に入り浸って探したもの。一部はコピーではない本と関連があってすでに紹介したものもある。内容を簡単に紹介して、バックグラウンドを記すつもりだが、どのように記すかは書いてみないと分からない。なるべく年代の古いものから進めたい。まず1900年までのものは、20件以上ある。大半が外国のもの。
最初のコピーは、Harlanの鯨類化石に関するもの。出版年は1834年から数年間である。これらについては、すでに「古い本 その11」(2020年6月10日掲載)の、Kellogg, 1936に関連して記したが、そのブログ記事を作成するときにネットからダウンロードして読んだ。すでに公表されてから180年以上経った古い文献。今回の内容はそれと一部重複する。
鯨類化石の中で最も古い属名は、Basilosaurus (Harlan, 1834) で、その名でわかるように鯨類としてではなく爬虫類という考えで記録された。アメリカで発表したのがここで取り上げる二つの論文。これに対してOwen が鯨類として公表した論文にも触れる。
最初の論文は「Notice of Fossil Bones found in the Tertiary of the State of Louisiana」(ルイジアナ州の第三紀層から発見された化石骨についての知見)という7ページのもの。1832年10月19日に講演を行った記録として1834年発行のAmerican Philosophical Society のTransactionに掲載されている。
166 Harlan, 1834 タイトル
この論文でHarlanは属名を提唱したが、模式種は命名しなかった。たしかに1834年の論文の最後に「Basilosaurusと名付ける」としているが、種名は書いてない。そして文中では多くの爬虫類(中生代の)、とくに海生の種類と比較していて、哺乳類だと考えていないようだ。このことは、-saurusという言葉からも推測できる。属名の提唱が出てくるのは最後の文章である。「If future discoveries of the extremities (paddles) and of the jaws and teeth of this reptile, should confirm the indications I have pointed out, we may suppose that the genus to which it belonged, will take the name, by acclamation, of “Basilosaurus.”」要するに、「この判定が確認できれば」としつつ、属名を付けておこう、というもの。属名だけの提唱で、種小名の提示はないから、リンネの二名法に従っているとは言い難い。標本は1個の脊椎骨で、図版がないのは時代的に仕方ないのかもしれないが。その意味では、Owenが1839にZeuglodonという属名を提唱したのも当然と思うのだが。
Richard Harlan (1796-1843) は、アメリカの博物学者・古生物学者。「アメリカの動物誌」などの著書がある。
二番目の論文は、同じHarlanが「Description of the Remains of the “Basilosaurus” a Large Fossil marine Animal, recently discovered in the Horizontal Limestone of Alabama」(アラバマ州のHorizontal 石灰岩から最近発見されたBasilosaurus、巨大な海生の動物の記載)(Transactions of the Geological Society of Pennsylvania)というもの。 1835年の出版。何しろアメリカが現在の合衆国の東半分くらいしかなかった時代だから、ずいぶん古い印象を受けるが、それでも同時代の日本の文献を読むのとは雲泥の差。明治維新で活躍した近藤 勇や土方才蔵が生まれた頃である。
文中では、この動物の分類群についてはほとんど何も述べていない。学名の提唱については、またしても二名法ではなく、また「proposed to name the animal provisionally “Basilosaurus”」(予備的に命名した)としているから、現在の命名規約なら確実に無効名であろう。改善された点は、標本が図示されていることで、3枚の図(Plates 22-24)がある。なお、コピーの紹介では、画像が十分に見えないが、ご容赦を。図版は多分リトグラフで、元になったスケッチがあまりうまくないので、何を描いているのかわかりにくいものもある。
167 Harlan, 1835 pl. 22
この論文では、図版の説明をキャプションとしておらず、本文中に順不同で書いている。Pl. 22の一番上は右上顎骨で、4本の歯と二つの歯槽がある。幾つかの歯は歯根が二つある。コピーが鮮明でないのでよく見えないが、実は歯と歯槽から下方に向かって平行な引き出し線が6本引いてある。その右下にあるのは抜け落ちた歯。左下の小さいものは、歯を歯冠側から見たところらしい。中央は脊椎骨であるが、別の動物かもしれない。下は上腕骨。
168 Harlan, 1835 pl. 23
Plate 23 の下は下顎骨。上は肋骨や脛骨?となっている
169 Harlan, 1835 pl. 24
Plate 24 の上は脊椎骨、ほかは歯の断片だろう。化石の出てきた地層について、表題に全大文字で「HOLIZONTAL LIMESTONE」となっているが、本文の351ページに「horizountal limestone」と小文字で表記しているから、固有名詞ではなく、ただ「水平な」ということらしい。
これに関してまだいろいろあるので、次回続きを記す。
ここからは研究の資料として複写した化石関連の古い論文などを紹介する。基準は、ほぼ100年以上経ったもので、なんらかの参考にしたもの。当然外国のものが多いから、全て読んだとはとても言えない。コピーなので図版などの状態が悪いことをおわびする。主に大学院時代に教室の図書室に入り浸って探したもの。一部はコピーではない本と関連があってすでに紹介したものもある。内容を簡単に紹介して、バックグラウンドを記すつもりだが、どのように記すかは書いてみないと分からない。なるべく年代の古いものから進めたい。まず1900年までのものは、20件以上ある。大半が外国のもの。
最初のコピーは、Harlanの鯨類化石に関するもの。出版年は1834年から数年間である。これらについては、すでに「古い本 その11」(2020年6月10日掲載)の、Kellogg, 1936に関連して記したが、そのブログ記事を作成するときにネットからダウンロードして読んだ。すでに公表されてから180年以上経った古い文献。今回の内容はそれと一部重複する。
鯨類化石の中で最も古い属名は、Basilosaurus (Harlan, 1834) で、その名でわかるように鯨類としてではなく爬虫類という考えで記録された。アメリカで発表したのがここで取り上げる二つの論文。これに対してOwen が鯨類として公表した論文にも触れる。
最初の論文は「Notice of Fossil Bones found in the Tertiary of the State of Louisiana」(ルイジアナ州の第三紀層から発見された化石骨についての知見)という7ページのもの。1832年10月19日に講演を行った記録として1834年発行のAmerican Philosophical Society のTransactionに掲載されている。
166 Harlan, 1834 タイトル
この論文でHarlanは属名を提唱したが、模式種は命名しなかった。たしかに1834年の論文の最後に「Basilosaurusと名付ける」としているが、種名は書いてない。そして文中では多くの爬虫類(中生代の)、とくに海生の種類と比較していて、哺乳類だと考えていないようだ。このことは、-saurusという言葉からも推測できる。属名の提唱が出てくるのは最後の文章である。「If future discoveries of the extremities (paddles) and of the jaws and teeth of this reptile, should confirm the indications I have pointed out, we may suppose that the genus to which it belonged, will take the name, by acclamation, of “Basilosaurus.”」要するに、「この判定が確認できれば」としつつ、属名を付けておこう、というもの。属名だけの提唱で、種小名の提示はないから、リンネの二名法に従っているとは言い難い。標本は1個の脊椎骨で、図版がないのは時代的に仕方ないのかもしれないが。その意味では、Owenが1839にZeuglodonという属名を提唱したのも当然と思うのだが。
Richard Harlan (1796-1843) は、アメリカの博物学者・古生物学者。「アメリカの動物誌」などの著書がある。
二番目の論文は、同じHarlanが「Description of the Remains of the “Basilosaurus” a Large Fossil marine Animal, recently discovered in the Horizontal Limestone of Alabama」(アラバマ州のHorizontal 石灰岩から最近発見されたBasilosaurus、巨大な海生の動物の記載)(Transactions of the Geological Society of Pennsylvania)というもの。 1835年の出版。何しろアメリカが現在の合衆国の東半分くらいしかなかった時代だから、ずいぶん古い印象を受けるが、それでも同時代の日本の文献を読むのとは雲泥の差。明治維新で活躍した近藤 勇や土方才蔵が生まれた頃である。
文中では、この動物の分類群についてはほとんど何も述べていない。学名の提唱については、またしても二名法ではなく、また「proposed to name the animal provisionally “Basilosaurus”」(予備的に命名した)としているから、現在の命名規約なら確実に無効名であろう。改善された点は、標本が図示されていることで、3枚の図(Plates 22-24)がある。なお、コピーの紹介では、画像が十分に見えないが、ご容赦を。図版は多分リトグラフで、元になったスケッチがあまりうまくないので、何を描いているのかわかりにくいものもある。
167 Harlan, 1835 pl. 22
この論文では、図版の説明をキャプションとしておらず、本文中に順不同で書いている。Pl. 22の一番上は右上顎骨で、4本の歯と二つの歯槽がある。幾つかの歯は歯根が二つある。コピーが鮮明でないのでよく見えないが、実は歯と歯槽から下方に向かって平行な引き出し線が6本引いてある。その右下にあるのは抜け落ちた歯。左下の小さいものは、歯を歯冠側から見たところらしい。中央は脊椎骨であるが、別の動物かもしれない。下は上腕骨。
168 Harlan, 1835 pl. 23
Plate 23 の下は下顎骨。上は肋骨や脛骨?となっている
169 Harlan, 1835 pl. 24
Plate 24 の上は脊椎骨、ほかは歯の断片だろう。化石の出てきた地層について、表題に全大文字で「HOLIZONTAL LIMESTONE」となっているが、本文の351ページに「horizountal limestone」と小文字で表記しているから、固有名詞ではなく、ただ「水平な」ということらしい。
これに関してまだいろいろあるので、次回続きを記す。
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