写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

度外れ

2020年04月03日 | 生活・ニュース

 桜が満開を迎え、例年であれば人の心も華やいでくる季節であるにもかかわらず、新聞もテレビも連日、先の見えないコロナウイルスのニュースで明け暮れていて、外出もままならずで鬱陶しい毎日を過ごしている。

 そんな朝、いつもの時間に起き出してダイニングルームに座り、いつものようにメガネをかけた。すると、どうしたことだろう。目の前に座っている奥さんの顔が二重に見える。そればかりか、壁に掛けた時計を見ても、食器棚の中に並べてある皿を見ても大きく二重に見え、軽いめまいのような感じがするではないか。

 こんなことは今まで経験したことがない。メガネをかけたまま片目を手で覆い、左右それぞれの視力をチェックしてみると、右目は問題ないが、左目のピントがいつもと違って合わない。

 この年にもなると、ちょっとした体の異変に対して敏感になってくる。ひょっとして脳に異常が
起きたのではないか。不安げな表情をしてメガネをはずしたりかけたりしていると「さっきから一体なにをしているの?」と奥さんが聞く。 

 一連の事情を説明すると「あははは…」と笑い「メガネの左目のレンズが外れているからよ」というではないか。メガネの左側を指で触ってみると、お笑いタレントの伊達メガネのようにレンズが入っていない。一体どうしたことか。

 今朝、私が2階のベッドで春眠をむさぼっているときに、奥さんが掃除機をかけている音が心地よく聞こえて来ていた。奥さんがテーブルを少し動かしたとき、置いていたメガネが床の上に落ちたという。その時、レンズが外れたので拾い上げておいたと言いながら、外れたレンズを手渡してくれた。

 「おいおいおい、それを早く言ってくれよ。脳に異常が起きたのかと思ったぞ」と、原因が分かったので笑い話で一件落着した。10時の開店を待ってメガネ屋に行くと、サービスで取り付けてくれた。それにしても、レンズが外れていることにすぐ気がつかなかったという「度外れ」な感性に我ながら呆れている。私も頭の回転は悪くなってきたが、焼きは確実に回って来たようだ