写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

万平ホテル

2007年09月01日 | 旅・スポット・行事
 8月も残すところあと数日という日、郵便受けに絵葉書が1枚送られて来た。見覚えのある万平ホテルの写真の袖に「緑に囲まれた万平ホテル 軽井沢 土屋写真館」と書いてある。

 ひっくり返して表を見た。送り主はエッセイの同好会仲間の女性・Iさんからであった。8月の末、東京にいる友人と3人で初めての軽井沢に行って来ると聞いていた。

 私が横浜に住んでいた頃、夏といわず秋にも冬にも良く遊びに行っていたことを話すと、見所はどこかと訊かれた。古いるるぶを数冊持ち出し、私のお気に入りの場所に印をつけてその本を貸してあげた。

 文面には「憧れの万平ホテルに行ってきました。美しいカラマツの並木を涼しい風が吹き抜けて素晴らしい処でした。万平ホテルではお茶をしました」と書かれている。

 万平ホテルとはカラマツ林の中にある、避暑地軽井沢を代表するクラシックなホテルである。明治27年に開業した木造3階建てで、古き良き軽井沢をしのばせる作りになっている。玄関を入ると直ぐ左手にカフェがあり、近年ではジョン・レノンが好物のロイヤルミルクティーを注文したという。

 シーズン中の宿泊は値段が高騰するだけでなく、予約は不可能なほどだ。私も宿泊したことはないが、このカフェで何度かお茶をしたことはある。そんなことをしただけで、軽井沢を十分満喫したような気にさせてくれる憩いの場所だったと今も思っている。

 そしてこの絵葉書に書いてある「土屋写真館」とは、軽井沢銀座にある写真屋さんで、かつての軽井沢の様子を写した多くの写真が買える店である。婚約時代の美智子妃殿下と皇太子の写真も飾られていた。昔ながらの写真屋さんだ。

 こんなことを書いていると、15年も前、軽井沢の「ノームの森」というお洒落なペンションに泊まった時のことを思い出した。軽井沢からのIさんの絵葉書を読んでいたとき、何でも見てやろうやって見ようを実践していた元気な頃の私の顔が、夏の終わりの崩れかけた入道雲の中に浮かんで消えた。
(写真は、1度は泊まってみたい「万平ホテル」)