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マツタケ菌根の人為的形成―マツタケシートによる接種が奏功

2005年06月21日 |  マツタケの林地栽培 
マツタケ菌根の人為的形成―マツタケシートによる接種が奏功
マツタケの子実体(キノコ)が人為的に得られたということが、ときどき大きなニュースになる.いやそれに止まらず人工栽培に一歩近づいたことすら取り上げられることもある.しかし、残念なことに、いつの間にか忘れられている.「一見性」の高い事実にも興味をもたれる材料であることを意味する.それは、言い換えると、マツタケと宿主(寄主)との互いの認識機構、感染の成立過程、栄養生長から生殖生長への代謝の切り替わり、子実体原基の形成メカニズムやその生長についても不明な点が多いことによる.
また、マツタケの胞子発芽から2核菌糸の感染にいたるステージにおいても、あるいは、マツタケの菌根が一定量を越えるとその菌根集団は、マツタケ主導の独特のシステム=シロを作り、そこにおいても、さまざまな微生物とのインタラクションを持つが、ここにも分からないことが多い.土壌中にも、我々がその存在を実体的に捕らえることが非常に難しい(viable but non-culturable)微生物群が多く、ことをより複雑にしている.
マツタケを栽培しようとするとき、林地であろうと人工環境下であろうと、接種源として胞子、培養菌糸、子実体最下部の菌根(石突部)、シロの一部、マツタケが感染しているアカマツ(それ以外の宿主、人為感染苗を含む)が考えられる.その中で、培養菌糸は年中得られることや扱い易いなどの利点がある.飢餓培養したマツタケの培養菌糸を林地のアカマツ細根に接種しても感染に成功した例がない.しかし、容器内で、アカマツ実生苗の根にマツタケ培養菌糸を接種すると感染が成立し、菌根は容易に得られ、マツタケ特有の共生機能である微生物排除能も示される.この微生物排除物質は、抗菌スペクトルが幅広く有用に思えるが、まだ単離されていない.この感染苗をアカマツ林地に移植すると、訓育に成功しても多くの場合には、根の表皮が剥れると共にやがてマツタケの菌根も消失するが、南部アカマツの系統(岩手県のアカマツを指す)とその地域のマツタケで試みると毎年伸張する根にマツタケの菌根が形成されている.形成された菌根が早期に脱落するケースとそうでないケースが生じるが、アカマツの系統とマツタケの系統との親和性が関与しているかもしれない.しかし、現在4年を経過したが、根量不足で、シロの形成にはいたっていない.
そこで、マツタケ接種用の苗として、多量の細根が得やすい齢のアカマツを利用することを考えた. 2~4年生のアカマツやネズミサシ(マツタケが感染する)を鉢植えにする.鉢底が土に触れないように棚上で5年ほど育てると、菌根菌に感染していない細根を大量に持った7~9年生の苗が得られる. 発根作用を有するホルモン処理を施すと1~2年で十分量の細根となる.
続いて、接種源の準備であるが、接種用のマツタケとしてはやはり培養菌糸を、しかも大量に接種できるように工夫を施した.マツタケの菌糸は液体中で培養すると底に沈み酸素不足のため生長が悪くなるが、適当なフロートを菌糸の下にあてがって培養すると生長が良くなる.水に浮きやすい材質の不織布上にホモジナイズした菌糸を置き、回転培養して菌糸をマット状に育てる.
更に、マツタケを接種した苗を保育するには、マツタケが生活できる土壌条件を有したアカマツ林を準備する必要がある.その作業は、本来の里山林の姿に倣って、高等植物の密度調整と土壌微生物群のコントロールを目的とした地表の落葉落枝層の除去や腐植層の厚みを制禦することである.
マツタケ接種用のアカマツとネズの根を水洗して土を落とし、根にマツタケシートを巻きつけ、手入れ済みのアカマツ林で、マツタケの発生が無い西斜面に移植した.1年後に根を掘りあげて感染の有無を確認すると、マツタケ接種部位を中心にしてその付近の表皮細胞の間隙にハルティッヒ ネットが形成されており、微生物排除能力も確認された.この接種源マツタケはリボソームDNAのITS領域の一部に、移植したアカマツ林に発生するマツタケにはない塩基のダブりを有しているが、形成された菌根から分離したカビにも同じ塩基配列が見られた.したがって接種したマツタケの菌根である可能性が極めて高いと考えられるが、目下、個体識別を試みている.
最近、マツタケの人工栽培に成功したという報告とマツタケゲノムの80%の塩基配列を解読し菌床栽培に道がついたという新聞報道があった.
前者は、硫酸パルプ廃液を800℃で処理した粉末とアカマツ林内の心土とマツタケの培養菌糸を混合して種菌とする.それをマツタケが発生しているシロの外側に空けた穴に埋めたところ、3年後にマツタケが発生したものである.実験方法の記載が不十分なために、科学的検証がしにくいが、マツタケのシロの外側に種菌を埋めているため、やがてマツタケが発生しても不思議ではない.また、発生したキノコは、リボソームDNAのITS領域の塩基配列からマツタケであるといえるに過ぎないとのことである(DNA解読担当者私信).
後者は、マツタケの遺伝子の機能が解明されたら、その結果は、マツタケの林地栽培にも応用でき、歓迎すべきことである.しかし、遺伝学のセントラルドグマが揺らいでいて、腐生性のキノコから進化したと考えられる菌根性キノコであるマツタケでは、たんぱく質をコードしていない部分(ジャンクDNA)に、子実体形成を支配する遺伝子がないと言い切れない不安を覚えるのである.
大量の細根を持ったアカマツ苗にマツタケシートを接種するという方法で、培養菌糸がホストの根に野外で感染し、菌根が人為的に形成された.これを応用して、シロを人為的に形成できると考えられる.初年度の春に、多数のアカマツの苗を発根処理してを鉢植えにする.2年目に、苗の細根にマツタケシートを接種し、山に植える.3年目に、マツタケ菌根が形成された苗を掘り起し、直径30cmほどの円周(初めてマツタケを発生するシロの大きさである)上に植えなおす.気温の上昇につれて、マツタケは、伸張するアカマツの根にどんどん感染して菌根を増やし、それらは人為的なシロになる.すると、その秋にはマツタケ子実体が発生するのではないだろうか.(詳しくは、化学と生物5月号を見てください.)
6月25日の京都・岩倉でのマツタケ十字軍運動で、マツタケ菌糸マット接種実験を準備中

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