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『ハンナ・アーレント』(読書メモ)

矢野久美子『ハンナ・アーレント:「戦争の世紀」を生きた政治哲学者』中公新書

以前、「ハンナ・アーレント」という映画を観たので、読んでみた。たいへんクオリティの高い本で、アーレントの生きざまや考え方が理解できた。

ドイツで生まれたユダヤ人のアーレントの研究テーマは「全体主義」を解明すること。その特徴として「思考の欠如」を挙げている。

思考の欠如とは、「疑いをいれない一つの世界観にのっとって自動的に進む思考停止の精神状態」(p.174)である。ナチス下のドイツ国民は、まさにこの状態になったといえる。

では「思考」とは何を指すのか?

半時間前に自分に起こったことについてストーリーを語る者はみな、このストーリーを形にしなければなりません。このストーリーを形にすることは思考の一つの形態です」(p. 222-223)

著者の矢野さんによれば、アーレントは「思考の対象は経験にほかならない」「思考とは後から考えることである」「考えたいときは、世界から引っこむものだ」「思考は孤独な営みであり、自分との対話である」と言っているらしい(p. 223)。

まさに「経験の内省(振り返り)」である。

ドナルド・ショーンは、内省を「行為の中の内省」と「行為の後の内省」に分けているが、アーレントは「行為の後の内省」、しかも、他者との対話による内省よりも、自己内省を重視しているようだ。

また、アーレントは、このような自己との対話だけでなく、友情や愛情で結ばれた人間同士の関係も重視していて、両者を合わせて「オアシス」と呼び、「人間的な生」のために必要な条件としている(p. 138)。

なお、アーレントは1975年、自宅で友人と夕食をとり、食後のコーヒーを淹れている最中に倒れ、心臓発作で亡くなっている。孤独の中で著作を執筆すると同時に、最後に友人に看取られながら亡くなったアーレントの生き方にも感銘を受けた。








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