ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)

映画、旅、その他について語らせていただきます。
タイトルの由来は、ライプツィヒが私の1番好きな街だからです。

生きることが、だんだん難しくなってきているところもある

2010-12-08 07:42:21 | Weblog
人間が生きるってことは、むろんいろいろな状況の改善で容易になっている部分が大きいと思います。移動手段、医療アクセス、栄養状態の改善、上下水道、電気、ガスその他の整備、その他、その他。人間の平均寿命がのびたのも、要はこのおかげです。

しかし、なーんだか生きていくのが難しいところもいろいろでてきました。そして皮肉なことに(といいますか、むしろ必然というべきでしょう)、これは上の状態の改善と表裏一体です。たとえば義務教育によって、字を読むこと、四則演算ができることが生きることに必要なスキルになってきました。昔は、字が読めなくったって簡単な算数が出来なくったって、簡単に生きていけましたが、いまの社会はそうはいきません。

で、世の中残酷な話ですが、どうしても字が覚えられない人、加減乗除も出来ない人が存在します。昔はこれでもまだ良かったわけです。第一次産業や、第二次産業が盛んでしたから。しかし社会が第三次産業化するにつれて、事務作業その他の仕事が大幅に増えて収入も多くなってくると、字が読めないとか四則演算ができないというのでは社会で生きていくのがとても厳しくなってきます。

私は小中学校まで地域の普通の学校に通っていたので、実際普通学級にいるにもかかわらずまるっきり知的障害だった人間を知っています。前に書いたことをくりかえしますと、ある中学2年生の男子は、毎日学校に通っているにもかかわらず助詞の「は」も「へ」も書けませんでした。具体的には

しんじゅくえいく

とか

おれわ

みたいな文章を書く。こんな奴に英語なんか勉強させたってかわいそうなだけです。この男はおまけに精神障害もわずらっていたみたいだし、家庭環境も悪かったので(極貧の母子家庭でしたが、どうもいまにして考えてみると、母親も知的障害その他があったみたいです)、しまいには学校に通わなくなってしまいました。その後のこの男の消息を私は知りませんが、刑務所に出入りしていなくても、まあまともな暮らしは出来ていないと思います。聞いた話によると肉体労働で生活していたみたいですが、たしかにほかにこの人物が暮らしていける方法はなさそうです。それこそアウトローになるかもしれない。でも頭が悪いから、えらくはなれなさそうだし。こんな男がいまの日本でまともな暮らしが出来るとは考えにくい。そしてそれは社会の厳しさでもあります。たとえば車の免許はどうでしょうか。世の中、身体に欠損があるから運転がどうにも出来ない人がいて、それは仕方ないでしょうが、性格的にどうしても車の運転が苦手な人がいます。しかし仕事をするにも車が乗れないのでは対応できない場合も多々あるわけで、そういった人はこれまたなかなか社会に対応するのが難しいということになるでしょう。

といいつつ、私も車の運転は大嫌いなんですけどね。運転免許は持っていますよ。でも運転は嫌いです。

あなたや私がいま見ているパソコンはどうですかね。おそらくあなたは、エクセルで簡単な表を作ることぐらいは容易に出来るでしょうし、私も出来ます。でもこれもどうにもできない人がいるんですよね。努力不足とかそういうことではなく、どうにもだめな人がいるんです。

いまの世の中、パソコンも使えないのではかなり仕事は厳しいですよね。

知的障害も学習障害もいわゆる認知症も、昔の社会だったらさほど問題とならなかったところもあったのでしょう。しかしいまの時代は、社会を生きるためのスキルのレベルが格段に上がっている。文字を読むこと、かんたんな計算をすること、そんな程度のたいして難しそうでもないことがものすごく苦手な人間たちがいます。私たちはそういった人たちが周辺にたくさんいるということも考えていかなければならないと思います。
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8 コメント

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Unknown (通行人A)
2010-12-08 11:54:37
普通な人も生活するのが大変な時代になってしまいました。真面目に働いても報われない時代です。本来ならば労組や政党が頑張らなければいけないのですが、社民党や共産党の勢力が伸びないし、労使協調路線の労組が圧倒的に多いです。将来の世の中はアメリカみたいな弱肉強食の社会になってしまうのでしょうか?
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Unknown (読者)
2010-12-08 17:29:18
いつも楽しく拝読させて頂いております。
今日のコラムにおいてもBill様が持つ社会的見識と
深い洞察力、そして寛容さに改めて感銘を受けました。

人それぞれの適性と能力を社会構造の観点から見直して生存権を問う
Bill様が提議されたこの深刻な問題についても、
所謂「愛国者」達―産経および周辺の保守派論客―は何も考えようとせず
努力不足・自己責任の理屈で一蹴するのは明らかですので
本当にこの国の「愛国心」とは何なのか疑問に感じます。
やはり日本に健全な愛国心が生まれる余地は全くありません。
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正論保守(笑) (Elekt_ra)
2010-12-08 18:27:03
皆が皆アナログの中で暮らしていた時代は、ある意味社会の中でも
「持たざる者同士でも共助共演、出せるものを出しあって乗り切る」といった考え方は
一定程度浸透していたと思いますね。
 
それが持てるものと持たざる者が挽回不可能なまでに差が広がり、
「先富論」で言えば持たざる者を引き揚げる社会づくりへの努力が一層求められる筈なのに、
持てるものは徹底して搾取することしか考えなくなったのが今の日本社会でしょう。
 
私自身はサヨクと言われますが、こうなってしまったのは自民党政権の途中から
健全な保守主義が破壊されてしまったのが一因なのかなとも思っています。
 
我らが櫻井よしこ大先生が産経の正論大賞(笑)に受賞され、「日本の誇り回復へ」と主張されていますが、
彼女らの「保守」って早い話嫌中従米の先軍思想でしょう?
保守の根本って地域主義からのボトムアップだと思っているんですが、
正論(笑)で出てくる保守って日本の郷土性とか地域性がまるっきり落ちているんですよね。
一体何を保守しようとしているのか分からない時があります。
いや、「ある意味」分かりやすいのでしょうか(笑)
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Unknown (coucou)
2010-12-09 12:35:30
こんにちわ。
帰国しました。
おばあ様のご逝去、遅ればせながら、お悔やみ申し上げます。

資本制経済の「発展」は(投機的資本主義は「腐敗」でもあります)、限りなく差別を助長させ雇用での選別を行っています。ブルデューは、「国家は、『経済』に対抗して、『社会』(人々の共同体)を守る機関であり、すぐれた発明品」と言うようなとことを述べています。マルクス主義者は怒るでしょうが、革命で国家を作り変えてきた、フランス人の「感想」だと思います。

日本、アメリカは、本来ならば社会防衛サービス(医療・住宅・社会福祉など)も、金儲けのための「商品」と化しています(米のサブプライムローンが良い例でしょう)。貧乏人はさらに困窮し、顕著な不平等社会に成り果てました。日本の右翼が「保守」ではなく、第一の性格がアメリカ追従なのは、「憂国派」ではなく、新自由主義者だからでしょう。

フランスも(90年代末の)社会党政権も新自由主義におかされたと言われています。サルコジと大統領選で争ったロワイヤル女史の敗北の原因も、このあたりにあります。しかし、昨年の書記長選では中道派ロワイヤルを破って、「本来の左翼に戻る」とのべたオブリ女史が就任しました。どちらが、社会党の大統領候補になるのか?
それに今期の年金ストでは、労組も健在なところを見せ付けました(この20年で350万人は最大規模だそうです)。そもそも、この20年来、失業率は10%です。しかし貧困率は日本の半分以下の7%です。衰退した「福祉国家」といわれても、友人たち(失業者も精神障害者もいます)の生活は、社会保障に守られて、豊かさ・安定を感じます。

日本の「左翼」は、国民生活を防衛するという「政策」を持つべきです。切れ切れの施策(批判)ではなく、国民を守るというグローバルな政策です。「清く正しく、頼りない」存在から脱して欲しい。日本社会の脱出みえない閉塞状況に、人々の「疲れ」に、改めて驚愕して、えらそうなことを書きました。すみません。
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>通行人Aさん (Bill McCreary)
2010-12-09 18:22:56
>社民党や共産党の勢力が伸びないし、労使協調路線の労組が圧倒的に多いです。将来の世の中はアメリカみたいな弱肉強食の社会になってしまうのでしょうか?

これはどうなのでしょうね。米国流の弱肉強食社会というのは、やはり米国だから可能なものであって、日本があのようにはなかなかならないんじゃないかというふうに個人的には思いますが、実際のところは何もわかりませんね。ただ、移民が少なく、文化がわりと均等な日本では、そうなるためのハードルは高いだろうなと考えます。
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>読者さん (Bill McCreary)
2010-12-09 18:27:23
どうもはじめまして。私のブログをいつ頃からお読みなのかは存じ上げませんが、これからもよろしくお願いします。

>社会的見識と
深い洞察力、そして寛容さに改めて感銘を受けました。

過分なおほめのお言葉ありがとうございます。私もとくに何ができるわけではないので、このようにブログその他を通して自分の考えを社会に提起しているわけです。

>所謂「愛国者」達―産経および周辺の保守派論客―は何も考えようとせず
努力不足・自己責任の理屈で一蹴するのは明らかですので
本当にこの国の「愛国心」とは何なのか疑問に感じます。


仰せのとおり、産経その他は、このような問題について見て見ぬふりをするという態度に徹しています。自称保守なら、こういった問題に少しはとりくめよ(そうすれば社会も見直すよ)と思いますが、あとで記事にしますけど、櫻井よしこに賞をあげる始末、これではどうにもなりません。

わけのわからぬブログですが、これからもよろしくおねがいします。

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> Elekt_raさん (Bill McCreary)
2010-12-09 18:34:37
>それが持てるものと持たざる者が挽回不可能なまでに差が広がり、
「先富論」で言えば持たざる者を引き揚げる社会づくりへの努力が一層求められる筈なのに、
持てるものは徹底して搾取することしか考えなくなったのが今の日本社会でしょう。
 
私自身はサヨクと言われますが、こうなってしまったのは自民党政権の途中から


そうですね、あんまりむかしはよかったみたいなことを書くのは嫌いなんですけど、自民党もかつてはそれなりに良識があったし、弱者に対するまなざしもそれなりにあり、それが長きにわたって自民党が与党だった理由の大きな一つなのですが、やはり日本が成長が見込めなくなってから、愚にもつかない右翼シフトになってしまい、おかげで有権者から見放されるという状況です。民主党もどうかと思いますが、この辺りを改善しないと自民党に明日はなかなかないでしょうね。

>保守の根本って地域主義からのボトムアップだと思っているんですが、
正論(笑)で出てくる保守って日本の郷土性とか地域性がまるっきり落ちているんですよね。
一体何を保守しようとしているのか分からない時があります。

産経新聞とかの沖縄への差別意識を見ていると、お前らほんとに保守で右翼なんかよというところです。残念ながら、彼(女)らの「保守」「右翼」なんてそんな程度のものだということです。
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>coucouさん (Bill McCreary)
2010-12-09 19:14:53
>おばあ様のご逝去、遅ればせながら、お悔やみ申し上げます。

どうもありがとうございます。見ず知らずの私に対して暖かいお言葉大変恐縮です。祖母も読者の皆さまのお悔みを喜んでいると思います。

>ブルデューは、「国家は、『経済』に対抗して、『社会』(人々の共同体)を守る機関であり、すぐれた発明品」と言うようなとことを述べています。マルクス主義者は怒るでしょうが、革命で国家を作り変えてきた、フランス人の「感想」だと思います。

ブルデューなんて名前しか知りませんが、彼自身は反グローバリゼーションの人物ですから、今日の世界の姿を彼自身の言葉で切り取ってほしかったなと思います。そういえばフランス革命の本をいま読んでいまして、あらためてフランスという国に興味を感じています。

>日本の右翼が「保守」ではなく、第一の性格がアメリカ追従なのは、「憂国派」ではなく、新自由主義者だからでしょう。

まさにおっしゃる通りですね。上のコメントにも書きましたが、沖縄への態度などはとても「憂国」には思えません。

>昨年の書記長選では中道派ロワイヤルを破って、「本来の左翼に戻る」とのべたオブリ女史が就任しました。どちらが、社会党の大統領候補になるのか?
それに今期の年金ストでは、労組も健在なところを見せ付けました(この20年で350万人は最大規模だそうです)。そもそも、この20年来、失業率は10%です。しかし貧困率は日本の半分以下の7%です。衰退した「福祉国家」といわれても、友人たち(失業者も精神障害者もいます)の生活は、社会保障に守られて、豊かさ・安定を感じます。

ええ、やはりフランスの社会保障はうらやましいですね。かつて消防士がデモをして警官隊と争っている映像を見まして、団結権すらみとめられていない日本の消防職員の現状を考えました。それにしても、次はフランスも女性大統領が生まれる可能性もありそうです。

>清く正しく、頼りない

このへん、ほんと日本の左翼はだめですね。右翼はそのあたりは左翼よりうまいと思います。

>すみません。

とんでもございません。正直coucouさんからコメントをいただくたびに、私はcoucouさんのコメントを正面から受け止めてお返しできるかと冷や冷やです。ぜひこれからも適宜コメントをしていただければと思います。私もがんばってコメント返しをいたします。
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