ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)

映画、旅、その他について語らせていただきます。
タイトルの由来は、ライプツィヒが私の1番好きな街だからです。

新潟へ遠征して、北朝鮮人権映画祭を観てきた(初日のみ)(絶唱母を呼ぶ歌 鳥よ翼をかして)(追記あり)

2021-12-09 00:00:00 | 映画

前にこんな記事を書きました。ポスターの写真は再掲ということで。

新潟で、北朝鮮・拉致問題・北朝鮮への帰国(帰還)問題に関する映画の上映会がある(都合をつけて、行ってみようかと思う)(追記あり)

その記事で私は、

>4日のほうの映画はぜひ見てみたいですね。特に井上梅次監督の『絶唱母を呼ぶ歌 鳥よ翼をかして』と望月優子監督の『海を渡る友情』は非常に興味があります。

と書きました。それで、都合をつけて4日のみ観に行きました。新幹線往復で金もかかりましたが、しかし予想以上に興味深いものではありました。記事を。写真も同じ記事からです。

>新潟市民プラザ(新潟市中央区)で北朝鮮の人権について考える映画上映会が開催
2021-12-04 3日前 下越, 拉致問題, 社会


3Dアニメーション作品「トゥルーノース」上映後のトークの様子

特定失踪者家族有志の会や、北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会などが主催する「北朝鮮に自由を! 人権映画祭」が4日から5日まで、新潟市民プラザ(新潟市中央区)で開催されている。北朝鮮を主題に描いた映画作品が上映されるイベントで、入場は無料。4日は、主に帰還事業や脱北を題材とした4作品が上映され、来場者の胸を打った。

同イベントは2019年、東京都での開催に始まり、その後2020年には大阪府で、そして今回の新潟開催で3回目を数える。

特定失踪者問題調査会の代表などを務める拓殖大学海外事情研究所の荒木和博教授によると、近年、韓国では北朝鮮の人権への関心の高まりから、こうした映画の鑑賞会が行われるようになってきており「それを日本でもできないか」と始まったものであるという。

そして、横田めぐみさんたち拉致被害について言及するとともに「在日朝鮮人とその日本人家族、約9万3,000人が北朝鮮へ帰った『帰還事業』の玄関となったのが新潟港である」(荒木教授)ことも今回の新潟開催の理由だと話す。

それで4本観ました。まずは、この日のメインである『絶唱母を呼ぶ歌 鳥よ翼をかして』から。ポスターの写真も再掲です。

感想を書きますと、これは井上監督は、青春映画という体裁で、どちらかというと在日差別の問題に力点を置いた映画にしているように思いますね。

上のポスターの写真でだいたいのアウトラインはご理解いただけるかと思いますが、つまり沖田浩之と抱き合っている二木てるみが沖田の実母で、北朝鮮に渡った日本人妻という設定で、当地で苦労しているというわけです。彼女は、在日の男性と結婚して帰国(帰還。反北朝鮮の人は、「帰還」という)するのですが、出発直前に沖田が高熱を出して(これは子どもの時代ですので、演じているのは当然子役です)渡航できなくなり、彼は日本に残るというものでした。その後なかなか連絡もおぼつかない状況になっているというわけです。なお私二木てるみと話をしたことがあり、この映画のことを知っていれば、ちょっとその件についても話をすればよかったなと少し後悔しています。

渋谷で「氷雪の門」を見て、二木てるみからサインをもらい握手をしてもらう

一方かつて北朝鮮礼賛本を書いた学者(柳生博)はその件を悔やみ、大学をやめて日本人妻自由往来運動の活動家(たぶん原作者の池田文子がモデル。演じているのは萩尾みどり)と協力して日本人妻の親(が、まだ生きていた時代なわけです。1985年の映画です)を訪れたりします。ポスターにもそのシーンのスチール写真があります。なおこの学者というのは寺尾五郎をモデルにしているかと思いますが、実際の寺尾はこういうことをしていたわけではありません。

それで、映画は沖田-二木のラインと、柳生-萩尾のライン、さらに、短大を卒業して自分の人生を考え出している坂上味和藤巻潤の娘と父の関係がもう1つのラインとなっています。実は、坂上は、藤巻の実の娘ではなく、彼女の実母(藤巻の妹)も日本人妻として北朝鮮に渡ったのです。その際に、柳生の本を読んで感銘を受けたのが、北朝鮮へ渡るきっかけの1つだったので、藤巻は柳生を責めます。そのくだりが、柳生と藤巻が写っているポスターの写真です。

それで柳生と藤巻がなぜ相対しているかというと、沖田に柳生が殴られた(だから治療の跡があるわけです。殴った理由は、藤巻と同じ理由)ので警察に行き、そこで刑事をしている藤巻が路上に落ちていた柳生本をみて事情を察した(昔の北朝鮮帰国者の関係者から恨まれたかあるいはその後柳生がその運動に反する活動したので逆に敵視されたか)というわけです。

沖田と坂上の出会いとかもありますが、そのあたりは割愛して、ミュージシャンとして沖田は、在日コリアン(一応韓国人という設定らしい)2人が所属する3人組のバンドに参加して、商業的に成功しますが、沖田が在日であるという記事を出されてしまい、ライヴ会場で非難をされますが、「そんなことに何の問題もないじゃないか!」と宣言して拍手を得ます。最後は、これもあまり長々と書いてもしょうがないのでやめますが、沖田が韓国人(正確には、日韓の血をひいている)であることで、過去のいきさつから娘の結婚に難色を示す藤巻ですが、ようやく吹っ切れて結婚を認めるに至ります。ラスト、日本海に浮かぶ船で、北朝鮮にいる母に向かって沖田が歌を熱唱し、映画は終わります。「お母さーん」という坂上と一緒の叫びとともに。

いろいろ違和感の多い部分もある映画ですが(詳細は後述)、思ったよりイデオロギーバリバリの映画というものでなく、わりとまともな映画だったとおもいます。上にも書いたように、この映画で監督を任され、しかも脚本も執筆した井上監督は、たぶんプロデューサーの期待を損ねない範囲で、在日差別の問題とか最大限イデオロギーとは関係ない人権やヒューマニズムといった方面で映画を作ろうと腐心したのではないですかね。もちろん日本人妻の問題は、この映画の最大のテーマですが、そういったところだけでなく、あえて在日差別の問題に相当に力点が置かれているのがこの映画のポイントであり、やはり井上監督も露骨に統一協会の宣伝の映画を作るのは気がすすまなかったところがあったのだろうなという気がします。

さてほかに、この映画で「?」と思ったところをちょっと書いてみます。

1つは、あえて「北朝鮮」という呼称を避けているのかと思いますが、「北鮮」という表現で北朝鮮が呼ばれています。1985年の時点では、さすがに「北鮮」といういい方はすでに一般的ではなかったのではないかと思うのですが、どうなのか。ここは無難に「北朝鮮」で良かったんじゃないのという気はします。

2つ目は、現役の政治家がその名前でご当人が画面に登場することです。後に民社党の委員長も務めた永末英一です。フロントクレジットで「特別出演」とあり、え、そんな人が出るのと思っていたら、本当に出てきたのでけっこう本気で驚きました。それでエンドクレジットで、この映画に協力した政治家や文化人ほかの名前が出ます。詳細は、国立映画アーカイブの表をご確認ください。

やはり自民党と民社党の政治家の名前が目立ちますが、田代富士のような公明党の政治家の名前もありました。田代氏は、のちに受託収賄で起訴、執行猶予付き有罪判決(懲役刑)を受けています。ほかに民社党支持(?)と思われる文化人の名前も。草柳大蔵などはそうでしょう。ほかにも清水幾太郎俵孝太郎、またこれは統一協会のからみでしょう、筑波大学学長の福田信之なんて人の名前もあります。法眼晋作の名前もありますね。彼は、外務省の名門の出で、外務事務次官も務めました。日中国交回復時の事務次官でしたが、かなり強い反共イデオロギーの持ち主であった彼は、Wikipediaにも

>反共の観点から中華民国との国交を維持することを強く主張していた。

とあるくらいです。参考に、この映画に関するツイートをご紹介。

最後に、真夏竜はどこに出ていたのかなです。バンドのメンバー? 刑事? よく確認できませんでした。

だいぶ記事が長くなったので、次の映画はまた別の記事で取り上げます。来週以降の発表になりますので乞うご期待。

12月10日の追記:bogus-simotukareさんからこの記事を紹介する記事を書いていただきました。ありがとうございます。

映画「絶唱母を呼ぶ歌、鳥よ翼をかして」

>> 商業的に成功しますが、沖田が在日であるという記事を出されてしまい、ライヴ会場で非難をされますが、「そんなことに何の問題もないじゃないか!」と宣言して拍手を得ます。

>まあ、なかなかそうも行かないでしょうね。「うろ覚え」ですが、以前、朝日新聞記事で「松田優作」が「差別を恐れて」在日であることをひた隠しにしていたという記事を読んだことがあります。
 あるいは、これも「うろ覚え」ですが、以前読んだ、野村進『コリアン世界の旅』(講談社文庫) にはカミングアウトした在日芸能人として「にしきのあきら」が登場しますが、彼は「カミングアウトしない在日芸能人はたくさんいる。だって差別が怖いから」と言う趣旨のことを語っていたかと思います。

でこのあと和田アキ子の事例が紹介されています。

全くの偶然ですが、本日このような記事を読みました。

中村ゆり、南果歩「カミングアウト」 「在日」隠す芸能界に異変

この記事が執筆されたのが2007年ですので、やはりそのくらいの時期でないとなかなか在日の芸能人が自分から自分の出自がコリアンであると公表することは難しかったのかもですね。映画の公開から20年くらいは必要だったのかもしれません。


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6 コメント

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Unknown (bogus-simotukare)
2021-12-10 05:43:23
 記事紹介ありがとうございます。
 なお、https://www.j-cast.com/2007/05/29008004.html?p=allに名前が出てくる人間のうち、南果歩はデビュー作『伽耶子のために』で、中村ゆりは『パッチギ!LOVE&PEACE』で「在日朝鮮人女性」を演じてますので「ファン層にそもそも差別者が少ない」つう要素はあるかもしれません。
返信する
>bogus-simotukareさん (Bill McCreary)
2021-12-13 18:45:48
どうも、しばらく留守にしていてコメント返しが遅れたことをおわびいたします。

>南果歩はデビュー作『伽耶子のために』で、中村ゆりは『パッチギ!LOVE&PEACE』で「在日朝鮮人女性」を演じてますので「ファン層にそもそも差別者が少ない」つう要素はあるかもしれません。

そうなんですよね。たぶん彼女らもそれ相応の覚悟をしていたのでしょうからね。そう考えると、松田優作らの時代とはまた違ったところもあるのでしょうね。
返信する
Unknown (アンドリュー・バルトフェルド)
2023-06-28 21:10:23
>エンドロール
私が小中学生の頃に国会議員だったメンツがゾロゾロ出ていて苦笑しました。

小宮山重四郎の名前は数十年ぶりに見ました。今は娘(名前は忘れました)が引き継いでいて、政界渡り鳥ぶりに呆れています。
埼玉も世襲がまあまあ多い(県議会もですが)ので、「誰かの身内」と言われたら「そうそう」と思い出せます。
元知事の土屋の娘も国会議員だった気がします。
返信する
Unknown (bogus-simotukare)
2023-06-29 20:00:33
>今は娘

 小宮山泰子(埼玉7区:川越市、富士見市)ですね。

>政界渡り鳥

 とはいえ「自由党→民主党→国民の生活が第一→日本未来の党→生活の党→民主党→民進党→希望の党→旧国民民主党→立憲民主党(小沢グループ)」ということで「親分・小沢の後に続く」と言う意味では今のところ一貫しています。

>埼玉も世襲がまあまあ多い

 知事の大野も「祖父が元川口市長」ですからね。

>元知事の土屋の娘

 土屋品子ですね。
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Unknown (アンドリュー・バルトフェルド)
2023-06-30 21:43:13
>bogus-simotukareさん
フォローのほどありがとうございます。
自分で世襲に関心を持っておいて忘れてしまうのは、まずかったと思います。

世襲ではありませんが、議員或いはそのパートナーが「おいおい」と思うこともあります。
元議員も含めて。
返信する
Unknown (Bill McCreary)
2023-06-30 23:17:06
>bogus-simotukareさん

補足ありがとうございます。昨今国政だけでなく、地方政治もほんと世襲が多く、これまたどうしたものかいなです。

>アンドリュー・バルトフェルドさん

野田聖子の夫とか、いくら何でもどうかですよね。
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