ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)

映画、旅、その他について語らせていただきます。
タイトルの由来は、ライプツィヒが私の1番好きな街だからです。

語るに落ちる記事だ

2013-10-15 00:00:00 | 社会時評

過日産経新聞でとても興味深い記事が出ました。例によって引用します(こちらこちら魚拓魚拓)。

【新帝国時代 第6部(3)1】

島根県議会で可決された慰安婦決議

2013.10.8 08:07

■自民までも賛成 危機感なし

身内の対応憤り 

「特定の社だけの取材は受けられない。これから本会議だから…」

 島根県議会が開会した9月12日。議長の五百川純寿(いおがわ・すみひさ)(64)=自民=は言葉を濁して議長室へ消えた。

 同県議会では6月26日に「日本軍『慰安婦』問題への誠実な対応を求める意見書」を賛成多数で可決した。竹島(同県隠岐の島町)問題を抱え、国際問題には敏感であるはずの島根県で、なぜ自民までも賛成に回ったのか。記者の問いに五百川は答えようとしなかった。

 根拠もなく旧日本軍による慰安婦募集の強制性を認めた河野洋平官房長官(当時)談話を基にした意見書は超党派によって提案され、民主、共産などに加え、自民も1人を除き賛成し可決された。

 《日本政府は1993(平成5)年『河野談話』によって『慰安婦』への旧日本軍の関与を認めて、歴史研究、歴史教育によってこの事実を次世代に引き継ぐと表明しました。(中略)日本政府がこの問題に誠実に対応することが、国際社会に対するわが国の責任であり、誠意ある対応となるものと信じます》

 採決の際に退席した自民党県議、小沢秀多(ひでかず)(63)は、「われわれ自民党はいわれのない批判に対し敢然と立ち向かい、日本人は強制連行をやっていないと言わなければならないのに、危機感がなさすぎる」と、身内の対応に憤りを隠せない。

当初、小沢は本会議で反対討論をしようとしたが、自民会派の幹部から止められた。

 「異議を唱えるなら、ペナルティーを科さねばならない」

 小沢は幹部の冷たい言葉を次期県議選で公認しないという脅しと受け取った。心配した支援者らから説得を受け、小沢は反対討論を断念した。議場退席はせめてもの抵抗だった。

議長選バーター説 

 議会関係者の間では「意見書」議案に自民党が賛成した理由について「議長選とのバーターだったのでは」といった噂がまことしやかにささやかれる。6月議会で五百川が議長に選出された際、民主会派は賛成票を投じた。自民と歩調を合わせたのは異例の対応だった。

 民主会派の会長、和田章一郎(66)は「そんなひきょうな話はない」と「バーター説」を一蹴したが、ただ一人反対した無所属の成相安信(なりあい・やすのぶ)(61)は「民主との水面下の根回しが優先されたに違いない」といぶかる。

 成相は議案の本会議提出を決めた総務委員会でこう訴えていた。

 「『河野談話』を追認すれば間違った歴史認識が独り歩きすることに島根県議会が手を貸すことになる」

 懸念する事態はすでに起こっている。

 慰安婦像を設置した米カリフォルニア州グレンデール市議会で7月9日、設置推進派の市議はこう発言した。

 「日本でも多くの市議会が慰安婦問題で決議している。私たちは正しいことをしているのだ」(敬称略)

 帝国の時代って、この記事のなにのどこが「帝国」なのよという気がしますが、それはさておき・・・。

 いろいろ書いていますが、つまりようするに、島根県の自民党県議団の多くは、「河野談話破棄」なんてことに何の興味もない、あるいは現実性がない、有権者のニーズと関係ないと考えている、ということでしょう。

記事では

>議長選とのバーターだったのでは

と書かれていますが、仮にそうであっても(この記事を読んだ限りでは、そうなのかどうか断定はできません)、この件がどうしても譲れないものであると認識していれば、バーターなんかの取引材料にするはずもありません。そもそも、島根県という自他ともに認める保守王国で、議長選において少数野党とのバーターが必要なのかどうかというのも疑問が残ります。どっちにしたって、自民党県議団が本気で河野談話をでたらめだ、破棄せねばと考えていればこのような事態になるわけがない。

>小沢は反対討論を断念した。議場退席はせめてもの抵抗だった。

つまりそれくらいしかできないくらいどうしようもなかったということでしょう。この人に賛同する人間もいなかったということです。

けっきょくのところ自民党一部極右議員がほざくような、河野談話によって日本の名誉云々なんて、すくなくとも島根県の自民党県議団にとってはぜんぜんどうでもいい話だったということです。で、決議をするとまではいわずとも、大体において自民党の地方議員(たぶん国会議員も)たちの大多数も自民党に票を入れている人のほとんども、河野談話破棄なんて実現性がないと思っているんじゃないんですかね。議員たちがあいまいな態度、あるいは否定論を主張するのは、たぶん極右支持層におもねっている部分が大きいんじゃないんですか。

それにしても、こういう記事は産経新聞だからこそかける記事ですね。他紙(朝日新聞とか)がこのような記事を書けば(朝日のスタンスからすると、少なくとも自民党の決議賛成を批判するということはないでしょう)、たぶん右翼から文句が来ます。しかし産経だと、記事の目的は、河野談話について強硬な態度を取ろうとしない自民党県議団を批判、あるいは叱咤激励しようということになります。そうなると記事の趣旨といい、産経との関係といい、右翼も批判できないし批判しようともしない。だからかえって内情を書いてしまう記事が出てしまうわけです。島根県議会が、このような議決をしたなんてニュースは、たぶんそれなりに河野談話とか従軍慰安婦関係に着目している人でないと知らないでしょうが、産経はこういったことをむしかえして世間にあらためてその実情を知らしめてくれるわけです。語るに落ちるとはこのことです。面白い新聞です。なかなかのグッドジョブです。

そう考えると、なんとなくこれは靖国神社の件とも似ていますね。愛媛県知事として靖国神社・護国神社への玉ぐし料公費支出をつづけた白石春樹は、知事退任後に次のように語っています。これは、愛媛県靖国神社玉串訴訟の控訴審における証言です。なお、下の引用した本の著者は、この訴訟の原告団長です。

>「靖国神社の国家護持は悲願」であると、愛媛県主催の戦没者追悼式(78年8月15日)であいさつしたのは、「遺族の方々が希望しておるから」であって、じつは、「靖国神社国家護持ということは、できんことだと思うておりました」と証言しているんです。「私は絶対に見込みがないと思うとりましたそれはどうしてかと言ったら、再々中央のほうへも出掛けよりましたが、そうような話は全然出たことございませなんだ」と証言しているんです。ようするに、「国家護持の悲願達成」をぶちあげたのは、遺族向けのリップサービスだといわんばかりのいいかたをしている。しかも、「できん」ことを「できる」ように「叫び続けておる」のは、「政治家のあわれさ」である、と弁解しているんです。(「浄土の回復」安西賢誠著p.248より)

白石という人は、きわめて現実的な政治家でしたから、しょせんできないことはできないと割り切っていた人間だったのだと思います。もっとも「河野談話破棄」などというのは、靖国神社における遺族会のような力の強い圧力集団がいるわけでもないですから、ずっと筋は悪いでしょう。

また産経新聞の自民党批判の筆致がきわめて腰が引けているのも興味深いですね。民主党が与党だったらすさまじいまでの罵詈讒謗を投げかけているくせにね。また現在安倍政権であることも産経が批判を微温的にしている理由かと思います。いまが 福田康夫政権や谷垣政権だったら、こんなものではすまないでしょう。現金というか、わかりやすい新聞です。いや、たぶん石破政権や石原の息子の政権でもいまよりは批判するんじゃないの?

で、上のようなことを書いていてつくづく思うのは、安倍政権というのは、右翼と産経新聞と自民党の徹底的な安倍への配慮(=甘さ)で成り立っているということです。それは当然な話で、そうでなければあそこまで無様な辞任をした人物が首相に返り咲くなんてことはありまえせん。

ところでちょっと面白い発言を。極右の島田洋一のブログとツイートです。

「未熟」で「幼稚」な朴槿恵の攻勢を前に河野談話を修正しない政治的リスク

>島田洋一 ‏@ProfShimada 10月11日

日本政府はまた事実に踏み込んだ反論から逃げたようだ。国連での対応は安倍政権になってからも何ら変わっていない。@韓国、3年連続で慰安婦問題に言及…

>島田洋一 ‏@ProfShimada 4時間

安倍政権にとり、河野談話を修正しないことのリスクは、パックネのおかげで日々高まっている。■「未熟」で「幼稚」な朴槿恵の攻勢を前に河野談話を修正しない政治的リスク

島田はいろいろ書いていますが、つまりは従軍慰安婦問題で安倍政権が撤回をしないことにいらだっているわけです。あからさまな批判はしないが、しかしこのままでは・・・というところでしょう。

また、こんな記事(1234,魚拓1,魚拓2,魚拓3,魚拓4)も産経新聞に掲載されました。

>首相、秋の例大祭が待ってます 国学院大学名誉教授・大原康男

記事の趣旨は、安倍はぜひ秋の例大祭に靖国神社参拝をという極右の狂信学者と産経からのメッセージです。報道によれば安倍は靖国参拝を見送るようですが。米国政府高官が2人(国務長官と国防長官)が千鳥ヶ淵に行ったのは、かなり露骨な日本政府というか安倍への「靖国には行くな」というメッセージなわけで、これは安倍も無視するわけにもいかないでしょう。

島田も大原も、表面では安倍絶対支持の人間ですが、正直なところ安倍のことを当てにならん男だと思っているんでしょうね。でなければ、上のような記事やツイートは発表しないでしょう。

当初から、日本政府の河野談話破棄も首相になっての靖国参拝も、できっこない、あるいは実行きわめて困難なことであり、安倍が自民党野党時代に無責任に「やる」と言って、それを一部右翼が本気にしたのかどうかは知りませんが、実際に首相になってみたら非常に困難な壁にぶつかったというわけで、こうなること自体はだいたい予想できたことでしょう。そもそも安倍は、この件に関しては2006年~07年の第一次安倍政権時代に挫折しているわけで、もともと無理筋な話だったわけです。右翼や産経新聞からすれば、あからさまな批判はしなくても「安倍はいざというときは逃げるやつだ」というところでしょう。だから私何回も書いているじゃん、安倍は口先だけの男だって。

私個人の考えとしては、安倍に対する右翼や産経新聞の配慮(=甘さ)はつづくでしょうが、しかし彼らの不満もまたたまっていくのは確実でしょう。それがどう安倍にマイナスになるか、あるいは安倍がそれにどう対処するかが興味深いですね。私の立場としては、安倍なんかさっさと首相を辞任しろですが、そうでないのなら、最大限安倍が右翼をいらだたせてくれるとうれしいですね。それはつまり、安倍があんまりめちゃくちゃなことはできないということにつながります。

いずれにせよ、記事にもあるとおり、竹島問題で韓国と問題を抱えている島根県の県議会でこのような決議が採択されるというのは面白いですね。島根といえば、竹下登元首相の地元だし、現在も細田博之氏のような大物政治家の地元であり、まさに自民党が盤石の強さをほこる県です。もっともWikipediaによると細田氏は

>2004年12月3日 - 日本の閣僚として初めて、第二次世界大戦中に「従軍慰安婦」であったとされる女性らと面会した

のだそうですから、こういったことには理解がある人なのかもしれません。

bogus-simotukareさんの記事にヒントを受けました。感謝を申し上げます。

同じ日の追記:上に紹介した島田のブログ記事から興味深いところを引用しましょう。

>「たたみかけるような言葉の攻勢」で日本を侮辱し続ける朴槿恵に反省の兆はない。

「未熟」で「幼稚」な人間は、大人が厳しく叱正せねばならない。河野談話の修正に始まるそれが、安倍政権の歴史的使命だ。

 パックネ政権が国際場裡で攻勢をエスカレートさせていく以上、日本側が動かなければ、その分、安倍政権に対する日本国民のフラストレーションは高まらざるを得ない。まず、集団的自衛権の解釈変更を片付けてからと考えるなら、相当な期間、フラストレーションの蓄積を放置することになろう。

 その政治的リスクは相当大きいと思う。

政治的リスクは大きいって、安倍が河野談話を破棄したほうがよっぽど政治的リスクは大きいでしょうが、それは島田と私の考えの違いとして、相当島田が安倍とその周辺にいらだっていることはこのくだりからもわかりますね。安倍だからこんな程度の表現ですが、実際には安倍への異議申し立てでしょ、これ。

島田なんかから異議申し立てされたって、実際問題として安倍だって何がどうこうできる話でもないでしょうが、このような動きは今後も強くなると私は予想します。

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2 コメント

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Unknown (bogus-simotukare)
2013-10-15 21:22:09
>米国政府高官2人(国務長官と国防長官)が千鳥ヶ淵に行ったのは、かなり露骨な日本政府というか安倍への「靖国には行くな」というメッセージ

これは正直びっくりでした。
「靖国じゃなくて千鳥ヶ淵に行けばいい(千鳥ヶ淵には政教分離原則問題やA級戦犯問題が生じないので)」という批判は良く指摘されることですが米国高官がそれを実際にやるとは。米国はよほど安倍に腹を立ててるし、かつ安倍を信用してないと言うことでしょう。電話で要請したくらいでは安倍は懲りないと思ってるんでしょう。

>安倍はいざというときは逃げるやつだ

ただこの件では稲田とか安倍以外の人間も完全に逃げてますけどね。
誰かの妄想・はてな版『逃げる稲田、追う平山』(http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20130607/1370613274)での稲田の逃げ腰ぶりは呆れますね。
「国家基本問題研究所の河野談話批判広告に連名した人間として橋下市長の慰安婦暴言をどう思うか」と記者に聞かれて、「慰安婦は重大な女性の人権侵害だと思います、橋下発言は問題だと思いますby稲田」ですからねえ(苦笑)。
稲田の立場なら待ってましたとばかり「慰安婦は何ら問題ないと思うから広告に名を連ねました」というべきところでしょうがさすがにそれをやったら大臣を更迭されかねませんからね。とはいえ「人権侵害」だの「橋下市長は間違ってる」だのどの口でそういうことを言えるのかと思う。
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>bogus-simotukareさん (Bill McCreary)
2013-10-16 18:26:10
国務長官と国防長官が両方で出かけるというのはすさまじいですね。ほかの首相ならこんなことはしないわけで、この件では米国は安倍を要注意人物とマークしているということでしょう。

>ただこの件では稲田とか安倍以外の人間も完全に逃げてますけどね。

安倍でなければ今の段階で稲田を入閣させることはしないでしょうが、やはり慰安婦問題は筋が悪いと思っているのでしょう。ブレーンその他からもきつく注意されているんじゃないんですか。当然といえば当然でしょうが。お前慰安婦のことなんか何にも考えていないんだろ、なんて挑発したってしょうがないですが、稲田レベルの右翼でもそんなに非常識なことはできないということで、大変結構なことです。
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