暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

和楽庵の茶事に招かれて・・・(1)

2019年12月08日 | 茶事・茶会(2015年~他会記録)

    「大有宗甫之文」(書き捨ての文)
     宗甫(小堀遠州)が書き残した文で、十五代宗匠・小堀宗通氏の御筆)


11月22日(金)にRさまの「和楽庵の茶事」にお招きいただきました。
Rさまは小堀遠州流、東京駒場で「和楽庵」という茶室で、内外の方のおもてなしをされ、茶道教室を主宰されています。
先だって、小堀遠州流Yさまの「長月の茶事」でお目にかかったのが嬉しいご縁になりました。

その日は今にも雨が降り出しそうな天気でしたが、KTさんと颯爽と出かけました。
玄関を入ると、客迎えの花(竜胆、赤い実、黄菊)がダイナミックな花器に生けられていて、和楽庵ワールドの始まりでした・・・。
「祥雲」と書かれた短冊が掛けられ、宗園(小堀遠州流当代家元)とありました。

待合で三島の茶碗セットで香煎を頂戴しました。
奥様の宗明さま(三客)がご亭主に代わって、いろいろお話してくださるので、すぐに打ち解けて、ご亭主のこだわりぶりが分かりやすかったです。
古い鰐口が掛けられていて、それが合図でした。 
詰Fさまが鰐口を4つ打って水屋へ知らせ、玄関小上がりの腰掛待合へ移動しました。






まもなく白い羽箒を手にし、袴姿のご亭主が迎え付けに現われ、無言で礼を交わしました。
昼まで持つかしら? と案じていた雨が降り出したのは残念でしたが、露がキラキラ光る苔を横目に蹲を使い、席入りしました。

座が静かになると、お詰のFさまが「エッヘン」と合図を送ります。
ご亭主が袴姿も凛々しくお出ましになり、挨拶を交わし、床のお軸のことなどお話しいただきました。

お軸は「大有宗甫之文」(書き捨ての文)

宗甫(小堀遠州)が書き残した文で、小堀遠州流の十五代宗匠・小堀宗通氏の御筆です。
「書き捨ての文」と呼ばれているようですが、さらさらと三段に分かれて文がいっぱい書かれていました。

内容は、茶の湯の心得、茶の湯の奥義とも言えるもので、その中にも暮らしの中にこそ茶の湯の本質がある、古い道具だけでなく新しい道具も使うように・・・など、先例にとらわれない柔軟さを身につけ、自分の茶の湯を目指して精進せよ・・・と言っていらっしゃるように、勝手ながら思いました。ゆっくりきちんと読んでみたい書でした。

お軸の下の金継ぎのある陶器の台、台に置かれた李朝の美しい小壷を一瞥したとたん、心惹かれました。
模様と形が斬新な陶器の台は、韓国の陶芸作家・李禹煥(リ・ウファン)作で、祭器を形作っているそうです。
・・・見るもの、伺うもの、ワクワクしてなかなか先に進みませんが、丁寧に説明してくださって嬉しかったです。
点前座へ廻ると、品川棚に青磁太鼓銅の水指が置かれています。
釜は遠州お好みの糸目肩衝釜、炉縁は真塗、面に七宝繋ぎの蒔絵がありました。



     遠州お好みの糸目肩衝釜

初炭は詰のFさまがなさいました。
小堀遠州流の炉の炭手前は初めてで、興味津々です。
唐物炭斗に炭が入っているのですが、炭の大きさや長さ、炭斗中の置き方が裏千家流とは全く違い、たしか枝炭は黒、しかも一本だけなのが驚きです。
孔雀の小さな羽箒が垂涎ものでしたが、こちらも先代・小堀宗通さま自作だとか。

花筏を思わせるような炭の置き方が興味深く、順々に火がついていくように工夫されていると伺い、大いに納得し、最後に黒の枝炭1本が導火線のように置かれました。
すぐにぱちぱちという音がして一安心です。

懐石になり、水屋でYさまとKTさまが腕まくりして料理してくださった懐石の数々、御出汁がしっかりとしたお味で、しかも薄味、美味しく夢中で頂戴しました。
特に一文字のご飯が最初は熱々の炊き立てが出され、次にふっくらと、「御飯だけで美味しいわね」という声が飛び交いました。
煮物椀の蟹真蒸の柔らかさと美味しさが今でも思い出されます。
白みそ仕立ての汁も美味しかったのですが、最初は蕪、次は焼豆腐と中身が変わり、参考と刺激になりました。ご馳走様でした。



織部の鉢に銀杏を思わせる淡い色調の主菓子が運び出され、皆で嘆声を上げて賞味しました。
中立で雨が激しくなっていたので、露地を通らず待合へ直行しました。 (つづく)


      和楽庵の茶事に招かれて・・・(2)へつづく



魂のコルトレーン茶会へ

2019年12月04日 | 茶事・茶会(2015年~他会記録)



11月20日、播磨在住のKさんの茶会へお招き頂きました。

1年ぶり・・・7回目の訪問です。
今年1月にKさんに不幸があり、お見舞いに伺いたいと思っていたところ、「車で四国遍路」へ出掛ける直前にメールが届きました。
「よろしかったら四国遍路の帰りに播磨へお寄りくださいませんか?」
ツレが一緒だったし、2人とも疲れ切っていると思うので、別の機会に伺うことにしました。
・・・そして、この度やっと「偲ぶ茶会」へ伺うことができ、「魂のコルトレーン茶会」と名付けました。


10時過ぎの電車に乗り、Kさん宅へ10時30分頃に到着しました。
Kさん宅は紅葉の真っ盛り、きれいに掃き清められたアプローチには水がたっぷり打たれ、一歩一歩石畳を踏みしめ、目の覚めるような庭木を鑑賞しながら玄関へ。
中へ入ると待合が調えられ、俳句が書かれた短冊と花が掛けられていました。

   石段の落ち葉上より掃き下ろす



     紅葉が真っ盛りのアプローチ


ご亭主Kさんが汲出しを持って現われ、
「白湯をお飲みになりましたら、庭へ出ていただき、石のテーブルの椅子に腰かけてお待ち下さい」

お気に入りの石のテーブルに木を刳り貫いた盆が置かれ、灰皿とJAZと書かれたマッチ・・・いつもの変わらぬ佇まいに安堵感を覚えます。
落ち葉の季節なのに、きれいに掃き清められた庭や瑞々しい緑苔にKさんの心意気を感じます・・・。
最初に来た時も12月初めで、まだ木々の紅葉が残っていたことを思い出しながら、天蓋の紅葉の下の椅子に座り、気をいっぱい浴びながら迎え付けを待ちました。
 
水桶を持ったKさんが現れ、蹲を清め、迎え付けです。
いつもと同じように、無言の挨拶を交わし、Kさんを見送りました。




席入りすると真っ暗な茶室、手燭と燭台の灯が床や点前座へ誘います。
床にかわいらしい子供の写真(5歳の時の写真だそうです)が掛けられ、香が焚かれていました。
数珠を持つ手を合わせ、亡き魂の安らかならんことを祈ります。
点前座に廻り、湯気を上げている手取り釜や炉中を拝見してから床前の席へ座りました。

この頃になって、暗い茶室にコルトレーンの曲が流れているのに気が付きました。
閑かに厳かに魂が清められるような・・・
「なんて、この場、この茶室にぴったりなんだろう・・・」
しばし目を閉じて、コルトレーンの演奏に耳を傾けていると、涙がにじんできました・・・・
Kさんの息子さんへの想いであり、魂の慟哭のようであり、あの世との会話であり、全身全霊の祈りのようでもありました。

Kさんがいつものように炉の流し点てで薄茶を点ててくださいました。
白い茶碗で薄茶を頂戴し、黒い茶碗でもう一服が点てられ、写真の前に供えられました。
1年間は供養のため、毎日、献茶し、息子さんと会話をしているとか・・・。
「能好きの親友から「もの狂い」と言われたけれど、その段階は済んだみたい・・・」
きっとその時は「もの狂い」の時間がKさんにとって必要だったのだ・・・と頷いていました。



     黄色いツワブキに冬の到来を感じます


「先ほどの石のテーブルで薄茶か珈琲を差し上げたいのですが、どちらにいたしましょうか?」
「珈琲にも惹かれますが、薄茶を頂きます」と私。

躙口から外へ出ると、待っていたかのように1匹の黄蝶が現われ、石のテーブルへ誘います。
石のベンチには暖かな座布団やひざ掛けが用意されていました。
盆略点前で薄茶を点ててくださいました。
茶碗、薄器(池川みどり作)、茶杓などの茶道具は全部前席のもので、さりげないおもてなしがシンプルで素敵です。
益々、無駄なものを削ぎ落し、シンプルな中にもコルトレーンの演奏のように魂を清められるKさんのお茶。
紅葉の美しい林間の一服は、忘れられない至福の一服になりました。ありがとうございます。





「こちらで少し休息していただいてから、待合の荷物を持って、裏のゲスト棟へお入りください。
 そちらでお昼のお好み焼きを差し上げます。電車の時間までおくつろぎください」

言われるままに、別荘のような素敵なゲスト棟でお好み焼きをたっぷりご馳走になりました。
珈琲(Kさんの珈琲はvery good!なの・・)も淹れてくださってニコニコでした。

帰りの電車の時間が迫っており、また再会を約して重たい腰を上げました。
関西旅行・最終日のその日は、姫路から新幹線で京都へ行き、京都国立博物館で閉館ぎりぎりまで「佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」を見てから横浜へ帰るという、私にしては強行スケジュールでした。


      駅近くの変わらぬ風景が嬉しい・・・

初回に駅で出迎えてくれた、あの笑顔を思い出しながら、駅まで見送ってくださったKさんとお別れです。
また来年、きっと来るからね! 元気でお会いしましょう!  



(忘備録)この度で7回、Kさんの茶会へお邪魔しています。その感動を忘れないようにブログに一部書き留めています。よろしかったらお読みください。

  1.思い出の茶事  一客一亭 2008年12月
  2.あこがれのJAZZ茶会(一客一亭) 2010年11月
  3.Jazz茶会ー2  Moon Bow  2013年10月11日
  4.「どくだみ茶会」-1  2014年6月6日 
  5.夕去りのたけのこ茶会・・・播磨にて  2016年4月19日
  6.播磨・コルトレーン茶会・・・その1   2018年11月2日
  7.魂のコルトレーン茶会    2019年11月20日  



竜田姫の茶事へ

2019年12月02日 | 茶事・茶会(2015年~他会記録)



11月19日、Mさまから嬉しい茶事のお招きを受け、竜田姫の茶事と名付けました。

奈良からJR関西線で大阪へ、姫路行きへ乗り換え、芦屋で下車しました。
芦屋はほぼ初めてで、谷崎純一郎の細雪の舞台であり、高級住宅が立ち並ぶ街らしいという知識しかありません。
タクシーの運転手さんに住所を告げると、すぐ門前まで運んでくれました。
途中、欅の街路樹の紅葉がハラハラと舞い散るさまは美しく儚げで、竜田姫の古歌を思い出しました。

   
     竜田姫たむくる神のあればこそ
        秋の木の葉の幣と散るらめ
     兼覧王(古今集)

待合へ入ると、「竜田姫」の掛物が目に飛び込んできました。

煙草盆の設えが珍しく、楽しく拝見していると、相客のMさまが到着しました。
香煎が運ばれ、青白磁の汲出し茶碗を持つと、指が透けて見えて、なんとも美しい景色を生み出しています。あとで深川製磁と伺いました。



小春日和の陽光の中、外腰掛でご亭主の迎え付けを待ちました。
水桶を持ったご亭主が出てこられ、ザァッと蹲へ水が注がれました。
いつも思うのですが、心中の余計なものを洗い流してしまう、爽快な水音でした。
クリーム色の無地の着物に黒地に銀模様の帯をお召しの美しい竜田姫と無言の挨拶を交わします。
蹲で心身を清めて席入りしました。

床の掛物を拝見すると、淡々斎の御筆のようですが、初めて目にする禅語でした。
「心楽五聲和」(心楽しく五聲の和)
ご亭主にお尋ねすると
「五聲というのは、人間には色々な笑い声があって、はっはっはっ、えっへへ、オホホ・・・、笑い声も違い、個性も違う人間が和やかに一堂に集い、心を交わして楽しむと解釈しています。淡々斎の御筆でございます」
・・・竜田姫の茶席にぴったりと思い、素晴らしいお軸を掛けていただき、感謝でした。



炭手前が始まりました。
「炉開きをしたばかりで稽古が追い付かずごめんなさい・・・」
炉縁に寄ると、炉中の灰がそれは美しく整えられ、菊炭3個が赤々と美しく、炉の時期のご馳走を堪能しました。
釜は真形芦屋釜、與斉作、炉縁は松葉文様のある真塗です。

「時分どきで御座いますので、別室にて点心をお召し上がりください」
動座すると、そこは点茶盤や喫架のある立礼席になっていました。
こちらで立礼の稽古をなさっていると伺い、暁庵も9月から立礼の稽古を始めたばかりなので、同志の先輩を得た心地がして嬉しくなりました。


    立礼席の掛物 「和」

点心と煮物椀が運ばれてきました。
前日までお稽古やら会合やらでお忙しくしていたのに、お手作りしてくださり、もうもう感激しました。
相客Mさまとご亭主と3人で相和し、美しく盛りつけられた点心を舌鼓しながら頂戴しました。
点心が苦手な暁庵は何でもさらさらとなさるMさまに点心をお習い出来たら・・・と密かに思いました。


     美しい点心・・・美味しく量もぴったりでした


     こちらも手作りの金団 銘「錦秋」(・・・だったと思う)



     令法(りょうぶ)の照葉と西王母

後座の席入りをすると、床に照葉と椿が竹一重切にいけられていました。
枝ぶりの好い照葉は令法(りょうぶ)、ピンクの椿は西王母。
火相も湯相も宜しく、弘入の黒楽茶碗で美味しく濃茶を頂きました。
続いて薄茶になったのですが、正客なのにうっかりして(というよりすっかりくつろいでしまって・・・)お菓子を頂戴し、薄茶も頂いてから気が付きました。
「ごめんなさい。つづき薄なのにお先に頂いてしまいました・・・」

ご亭主も次客Mさまもにっこりして、少しも動ぜず感謝申し上げます。
茶入と仕覆が拝見に出され、何事もなかったように薄茶の時間が愉しく過ぎていきました。
拝見をお願いし、茶杓と棗が拝見に出されました。
寿棚に置かれた十二角染付水指や竜田川の蒔絵のある青漆の棗に魅了されました。
棗は輪島塗、今治の桜井漆器で入手されたとか、桜井漆器が興味深くいろいろ教えて頂きました。


竜田姫ことご亭主Mさま、次客Mさま、暁庵のために素晴らしいお茶の時間を作ってくださって、ありがとうございました。 お陰様で忘れがたい関西の旅となり、感謝いたします。
足腰が動くうちに、お早めに我が家の茶事へ足をお運びくださると嬉しいです。