暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

稽古で一客一亭 (つづき)

2009年10月09日 | 稽古忘備録
  (つづき)
煙草盆、干菓子をお持ちしました。

薄茶の茶碗、続いて建水を持って出て、建水は上げ下げなしです。
一呼吸おいて、袱紗をさばき、棗(ステキな武蔵野の蒔絵)を清め、
位置は火窓前、茶入より少し下げて置きます。
建水の肩に棗を置いていたので、だいぶ位置が違いました。

薄茶を点て、正客(先生)に服していただき、茶碗が戻りました。
湯を捨てたところで、正客から
「どうぞ、ご自服で」と声が掛かりました。
「ありがとうございます」

もう一服点てて定位置へ茶碗を出してから、客付へまわります。
その間に正客は亭主のために干菓子を道具畳へ運びます。
「お相伴させていただきます」
干菓子と薄茶を頂いて、しばし歓談します。

濃茶も終わり、なごやかに歓談するこの時に何をお話しするか・・・
とても大事ですね。
さらりと行くのか、○○年の思いの丈?を語るのか、
皆さん、どうするのでしょうか?

先に懐石も亭主持ち出しで、歓談しながら頂いていますから、
話が尽き掛けているかもしれませんね。
それとも、茶の話題、茶事、茶会の思い出話が尽きないかも・・。
いろいろな場面を想像してしまいます。

さて、現実に戻りましょう。
続き薄なので点前座に戻ると「茶入、しふくの拝見を」、
水指の蓋で「茶杓、棗の拝見を」のお声が掛かりました。

一客一亭の稽古では、茶事の流れの中いろいろなことを
教えていただきました。
私一人のために朝早くからご準備してくださった先生・・。
「本当にありがとうございました!」

これで、一客一亭の茶事にいつお声が掛かっても大丈夫(かな?)です。

あとは、どなたかぁ・・・。
                (前へ)  
                        

       写真は、藁灰を敷いたやつれ風炉
            (2008年10月 名残りの茶事にて)



稽古で一客一亭

2009年10月09日 | 稽古忘備録
先日、お稽古へ行くと、皆さんお休みで私一人でした。

名残りの月なので、最初の稽古は中置です。
床には小林太玄和尚筆の「吾心似秋月」。
焼き杉の五行棚に小振りな道安の土風炉、
かわいらしい瓢の釜が掛けられています。

「おはようございます。五行棚のお稽古をお願いいたします」
「今日はお一人なので、一客一亭でなさってください。
 初炭、菓子、濃茶、続き薄で、菓子は水屋で召し上がってください」
「はい、ありがとうございます」
一客一亭の茶事形式の稽古なんて始めてです。感激・・!

五行棚の初炭では、羽を地板前に横一文字に置き、
香合を羽先に置きます。
釜を引きつける位置が引き過ぎと、ご注意がありました。
気になっていた灰匙の扱いを見ていただきました。

その間も「釜は?環は?灰器は?」とお尋ねがありました。
香合は山中塗り、黒柿の鈴虫蒔絵です。
「鈴虫の音色が聞こえてまいりました」と先生。

月見うさぎ(吉信製)の菓子を縁高に入れてお出ししました。
私も水屋で相伴です。

濃茶は二人分です。
練り終えて、お出ししてから水一杓汲み入れて、
すぐに相伴席へ入り総礼です。
正客の一口で「お服加減はいかがでしょうか?」と尋ねました。

久しぶりに自分で点てた濃茶をいただきました。
美味しく練れていて、安堵しました。
たまには自服も必要ですね。
茶は小山園の雲鶴です。

拝見がかかり、茶碗を正客へ運んでから、
点前座に戻り、袱紗をつけます。
茶碗が戻り、茶碗についてお尋ねがありました。
湯を入れ捨ててから
「時が過ぎましてはご迷惑と存じますので
 続いて薄茶をさしあげます」

茶巾、茶筅を入れた茶碗と建水を持って水屋へ下がりました。

           (つづく)         これを書いた日 


茶事のサウンド・スケープ (3)  にじり口の戸

2009年10月08日 | 茶事のサウンド・スケープ
お客さまが茶席に入る時、
にじり口より頭を低くしてにじって入ります。
最後のお客さま(お詰)が入り、にじり口の戸を
軽く「音」を立てて閉めます。

茶道口近くで様子をうかがっている亭主は、
この「音」でお客さまが全員席入りしたことを知るのです。

亭主は茶道口の襖の前に座り、
衣擦れや摺り足の音を聞きながら、
座がおさまるのを待ち、ご挨拶の間合いを計ります。
私は、「さぁ、行きます」と、
気合を入れてから一呼吸おき、襖を開けます。

中立で、再びお詰はにじり口を軽く音をたてて閉めます。
その音を合図に亭主は後座の席中の支度にかかります。
後座の席入りが終わった合図もにじり口を閉める音です。

さあ、いよいよ濃茶です。
襖の前に茶碗を置いて心静かに座し、
間合いを計って襖を開けます。

この濃茶前の一時がとても好きで、大事にしています。
支度に追われてゆとりがない時ほど、気持ちを集中して
静かに座す一瞬が必要な気がしています。

茶事が進行し最後の挨拶が終わり、
「どうぞ、お見送りなきように・・・」
「最後までお心遣いいただき、ありがとうございます・・・」
主客はお別れの時が迫ったと、
万感の思いを胸に最後の言葉を交わします。

亭主は礼をして襖を閉め、茶道口で音を待っています。
にじり口の戸を閉めた音で、煙草盆を引き、
すぐに見送りに出て、主客とも無言で礼を交わします。

茶友のYさんは
「茶事の中でこの場面が一番好き!」
 と言います。
「お見送りなきように・・・」と言われながらも、
それでも亭主はお客さまの後ろ姿が見えなくなるまで、
見送らずにはいられない・・・。

茶事の心が凝縮される一瞬でしょうか。

      (2)へ        (4)へ
                       



茶事のサウンド・スケープ (2)  蹲の水

2009年10月06日 | 茶事のサウンド・スケープ
お客さまが腰掛待合で亭主の迎え付けを待っています。

亭主は水桶を運び出し、蹲(つくばい)の横にある湯桶石に置きます。
柄杓で蹲の水を植木や石にかけ周囲を清めてから、
水を一杓汲み、手を洗い、口をすすぎ、身を清めます。

それから、水桶の水を「ザッー」と音高く蹲に注ぎます。
滝のような清浄感、爽快感を思わせます。
この音を腰掛待合のお客さまは聴きつけて、
迎え付けが近いことを知るのです。

茶事でよくお借りする翆晶庵は、ビルの1階を
素敵な茶席に改造しています。
外露地と内露地にそれぞれ蹲があり、
雨のとき、小間使用のときは
内露地にある筧から水が流れ落ちる蹲を使います。

筧のある蹲では水桶を使わないので
水桶の音の爽快感はありません。
その代り腰掛待合で水音を長く楽しむことができます。

二つ蹲があると失敗談もあります。
急に雨が降ってきて、内露地の蹲を使うことに変えました。
頭の方が切り替わらずに水桶を持ったまま出てしまいました。
蹲まで来て、水桶がいらないことに気づき、戻りました。
持って出てしまった場合は、たとえ筧があったとしても
水を入れた方が良かったかしら?・・・あとで思いました。

水の持つ力でしょうか?

ビルの中の腰掛待合でも筧の水音に耳を澄ませると、
世俗の塵が次第に払い落とされ、
深山幽谷の静けさを、あるいは曼荼羅浄土の別世界を
思い起こさせてくれます。

あるお客さまは筧の水音を聞きながら、
「日頃、仕事の忙しさに追われていましたが、
 こんなに心静かな過ごし方があるのですね。
 水音が、忘れていた大事なことを気づかせてくれました」

亭主も客も蹲の水で身を清め、世俗の塵芥を洗い流し、
心新たに席へ入ります。

   蹲の音を待ちつつ腰掛けの
      何処からともなく鈴虫の声

           (夕去りの茶事のお客さま 2008年9月)

      (1)へ        (3)へ                            

茶事のサウンド・スケープ (1)  板木

2009年10月02日 | 茶事のサウンド・スケープ
茶事では言葉ではなく、音で合図する、音で判断する、音を味わう・・・
音にいつも耳を澄ませ、客と亭主は心を添わせています。
  
板木(ばんぎ)の音が好きです。
板木には、欅、桑、楠木などが硬く締まって、
音の良いことから使われています。

お客さまが待合または腰掛待合に集まると、
お詰が板木を打って
「お客さまがお揃いです」と亭主方へ知らせます。

茶事スタートの瞬間です。
水屋で板木の音を聞くと、いつも身が引き締まる思いがします。

禅寺では雲水が托鉢から帰ると、板木または木魚を
叩いてから手を合わせ、入室します。
それに習って・・とお聞きしました。
また、寺院によっては時刻や集会の合図にも使うそうです。

板木の打ち方は指導の先生によって違うようで、
今まで三通りの打ち方をお聞きしています。
きっと流派によっても違いがあるのでしょうね。
私は裏千家流です。

(1) お客さまの人数分を打つ。
 六人以上大勢では五までとし、あとは省略してもよい。
 お客さまの人数は予めわかっているので、揃ったことを
 水屋に伝わればよい・・・とのことでした。

(2) お客さまの人数分を打つ。
 人数が多い時は五または三まで打って、
 後は省略の打ち方(早く続けて・・・早や打ち)をする。

(3) 「これから板木を打ちます」と、水屋へ知らせるため、
  最初に早や打ちをし、それから人数分を打つ。

お習いした茶事の会では客が10名近いので、
(1)または(2)の打ち方です。
私の茶事ではお客さまが3名から6名さまなので
(1)がほとんどでしたが、
横浜開港を祝う茶事で(3)の打ち方を始めて聞きました。

板木を打つ間合いは、ほんの少しゆっくりめでしょうか。
そういえば、早すぎると師匠がよく言ってましたっけ。
「半鐘じゃないんだから、同じ速度で間合いをとって・・・
 打ち方で心のあり様がわかる」と。

雲水が軽く手を合わせる間(ウン)をとって、呼吸を整えてしっかりと・・。

「今日のお客さまはどんな打ち方かしら?」
毎回、板木の音を聞くのがとても楽しみなのです。

     待合の囲炉裏の火相いかならむ
         板木の音に身を引き締めて

              (長屋門公園正午の茶事 2008年2月)
        (2)へ
                             
         
       写真は、ある茶席の入り口にあった「板木」です。