暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

有馬・雅中庵での初稽古 in 2019

2019年01月12日 | 稽古備忘録・・・東京教室の稽古




平成31年1月5日、S先生の初稽古(初釜)へ東京教室のOさまとYさまと参席しました。
毎年、初稽古は兵庫県有馬グランドホテル・雅中庵で行われています。

京都を離れて以来4年ぶり(?)でしたが、先生の初稽古の気合いがひしひしと感じられるお席でした。
それに、久しぶりの同窓会の様に懐かしい方々にお会いでき、嬉しいひと時でした。
なんか、病みつきになりそうですが、忘れないうちにブログに濃茶席の様子を書いておきます。


  「少女羽子揚げ図」 (森寛斎筆  一文字秋石筆)

待合の床には「少女羽子揚げ図」と枝垂レ柳が掛けられ、干支の模様が描かれた羽子板が飾られています。
下には垂涎の炭道具一式とたくさんの箱書、会記もあり、S先生の初稽古への気構えが伝わって参ります。
会記はのちほどゆっくりと拝見することにして、菓子席へ向かいました。


   菓子席の床  「大原女」(森寛斎筆)と蓬莱飾り

菓子席にも床があり、「大原女(柴の上に犬?)」の画が掛けられ、蓬莱飾りが見事です。
2つ(吉野絵と唐松文爪紅)の縁高(六代宗哲と万象造)が運ばれてきました。
袱紗ゴボウの味と歯触りが何とも美味で、垂れないけれど柔らかい味噌餡が入ったはなびら餅(末富製)をぱくつき、京風の味わいを堪能しました。

菓子席隣の書院付広間(16畳台目)が濃茶席になっていました。
広い床には、圧倒するような横物の御軸が掛けられています。
「何処へ座ったら良いかしら?」ウロウロしていると、奥様の鶴の一声がして、なんと!正客席へ座らせて頂きました。
久しぶりに東京から・・・ということで、ご指名してくださったようです(もう汗!!)。


新年を祝う飾り物「ヒカゲノカズラ」(古代の神事に使われていた)

まもなく、襖が静かに開けられ、S先生の濃茶点前がはじまりました。
その瞬間から総勢24名の客が一心同体になりました。
先生の一挙一動を息を凝らして見つめる中、袱紗が捌かれ、茶入、茶杓と清められていきます。
ゆったりとした自然体なのですが、指の先まで神経が行き届いているような所作は美しく、全員が魅入っていました。
そして、茶入から3杓掬いだされた後、サラサラさらさらと滝のように緑の抹茶が回し出され、一幅の絵を見るようでした。

茶筅が最初は静かに小さな輪を描くように、やがてリズミカルに音楽を奏でるように練られ、かなり離れた暁庵の席へも芳香が満ちてきました。
席を立って取りに出て、その時初めて先生と目が合いました。
先生は優しく茶碗を持ちあげて渡してくださって、「座らなくっても良いですよ」と言い、「5人さまで」とおっしゃいました。まだ、膝が完全に回復していないので、気遣って下さったのです・・・。


   天明さび釜 認得斎銘「古狸」、黒柿の炉縁

茶碗は嶋台の亀(12代慶入作)、5人分の濃茶がたっぷり入っています。
総礼して、口に含むと、
「少し伸ばし過ぎたようですが、いかがでしょうか」
「いいえ・・・とても美味しゅうございます」
丁度飲み易い濃さの濃茶をたっぷり頂戴しました。
服加減を聞くと、先生はすぐに2碗目の濃茶に取り掛かり、次々と4椀(24人分)の濃茶を練ってくださいました。
茶碗は、如心斎好嶋台(慶入造)と飴釉嶋台(九代長左衛門造)です。
濃茶は「延年の昔」(星野園詰)、香り佳く、まろやかな甘みを感じる濃茶でした。

4椀を練り上げてから客付に向かわれて
「皆さま、あけましておめでとうございます」とご挨拶があり、私たちも笑顔でご挨拶を交わしました。
正客でしたがこの時まで、この清々しくも緊張感のある雰囲気を壊したくないと、沈黙を守ってヨカッタ!です(ほっ・・・)。



 
その後、先生から寄付、菓子席、本席の掛物や初釜にふさわしい正月飾りについていろいろお話しいただきました。
中でも2間近くある広い床に堂々と掛けられた横物の御軸が圧巻でした。

「別是一家風」

読み下しは、別(べつ)に是(これ)一家風(いっかふう)
雄渾な御筆は、大徳寺116世・万仭宗松禅師です。

「家風」とは「生き方」、この場合は「茶の道」かもしれません・・・。
今までとは違う「茶の道」を自分で見出し、それを発展させていこう・・・という意味でしょうか。
「茶の道」はそれぞれが自由に考え、自分で見出していくもの、それぞれの家風があって好し・・・という意味にも解釈できます。
新年の席にふさわしく、先生の決意表明のようであり、私たちを新しい境地へ導いてくださっているようでもありました。

床の花が素晴らしかったです。
松、衝羽根、水仙が唐銅立鼓(浄味造)の花入にいけられていました(写真がうまく撮れなかったのが残念!)。
香合は、玄々斎好の富士絵蛤です。


  華やかな認得斎好手桶  又みょう斎在判  八代宗哲造

最後に、茶入と茶杓について書いておきます。
茶入は瀬戸破風窯の翁手で銘「玉津島」、落ち着きのある形、味わい深い茶入と嬉しい再会を果たしました。
小堀権十郎箱書があり、書かれている和歌を詠んでくださいました。
茶杓は竹、10代認得斎作で銘「杖(つえ)」でした。

   人問はば知れる翁の夜語りを
        昔にかえす和歌の浦波


先生のお話は面白く、興味深く、お道具も詳しく書き留めたいことばかり・・・ですが、既に夢の中です。
夢の中のような素敵な時間を皆様と過ごさせて頂き、初稽古へ参席できたことを喜んでいます。来年も元気で参加したい・・・と願っています。
その日はOさま、Yさまと有馬グランドホテルで一泊し、有馬の名湯に浸かってきました。