暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

梅月の夜咄の茶事に招かれて・・・(2)

2018年03月06日 | 茶事・茶会(2015年~他会記録)


(つづき)
中立となり、外は寒いので待合にてお鳴物を待っていると、
喚鐘を打つ音が聞こえ、客一同その場にうずくまりました。

5点・・・しっかり間合いを開けて、辺りを払い清めるかの如く鳴り渡ります。
なんと玲瓏な音色と響きでしょうか!
今までこのような喚鐘を聴いたことがありませんでした・・・。
その音は長く美しく心に染み入る響きがあり、夢の中のように後座へいざないます。

後座の席入りをすると、なんと!無床でした。
夜咄なので、なるべく無駄なものは荘りたくない・・・というご亭主の素にして寂びた心持ちを表わしているのでしょうか。私にとって初めての経験です・・・。

濃茶点前が静かに始まり、湯相もよろしいようで、眠りを誘う穏やかな釜鳴りにしばし聞き惚れていました。
やがて濃茶が練られて(裏千家流の練り方ではなく・・・)出され、粗相をしても申し訳ないので次客に取次をお願いしました。
まったりと香りも色艶も好い濃茶を頂戴しました。
濃茶は「長松の昔」(京都・柳桜園詰)、前席で頂いたお菓子は「雪間の草」(赤坂・塩野製)です。



長くなりそうなので炭手前を飛ばしたのですが、釜は玄々斎好みの独楽釜、菊地正直造の和銑(わづく)釜、ご亭主が和銑釜に愛着を持っていらっしゃるのが釜好きの暁庵としては嬉しかったです。

鉄には和銑(わずく)と洋銑(ようずく)の二種類があって、和銑は、日本古来のたたら製鉄によって砂鉄と木炭から作られた銑鉄です。
今でも出雲(島根県)にたたら場(たたら製鉄所)があって、1年に1回だけたたら製鉄が行われていると、TVで見たことがありました。
今年1月の雪降る中、古いたたら場跡を巡ったこと、たたら場跡が棚田になっていたというお話にいたく感動し、雪の出雲路を運転するご亭主の姿が目の前に浮かんでくるようでした。

・・・それで、出雲路にゆかりのある茶道具が満載でした。
初めて伺う陶芸作家さんのお話や作品が興味深く、新しい世界が開けていくようで、これも茶事の醍醐味です。

後入りの時から水指が気になっていました。南蛮かしら? でも形が違うし、備前かしら?
侘びた土味が好ましく端整な形の水指は、三朝焼の森田十雨造、ご亭主一押しの作家さんの作でした。
金海を思わせる濃茶茶碗は萩焼、薄茶を頂戴した乾山写大根絵茶碗は布志名(ふじな)焼の土屋善四郎造です。
鳥取県や島根県の陶芸作家さんの作品はどれも手の中で温かな魅力がありました。
お話を伺っていると、私もそちら方面の窯場やたたら場見学へ出かけて見たくなりました。

名残は尽きず、退席し皆で露地から夜空を見上げると、オリオン座が高い位置にあって夜がすっかり更けていました。




夜咄の茶事から1週間経っても余韻に浸っていましたら、遅ればせながら「ハッ!」と気が付いたことがありました。
それは茶事の間、ひそやかに鳴いていた「うぐいす」のことです。
待合の歌切の「うぐいすの・・・」(和歌を覚えていないのが残念・・・)に始まり、萩焼茶碗に添えられた古帛紗は、開くと一羽の鳥が染められいるバティック、最後の拝見で現れたのは薄器の立ち上がりに描かれていた二羽の鳥、茶杓は紫野・太玄和尚作「初音」でした。

・・・今頃になって、ご亭主の深奥興趣の数々を味わっておりまするぅ(汗)
暗香浮動、梅月の琵琶の音色と鶯の初音が交錯する「夜咄の茶事」を反芻しながら何度も堪能させて頂きました。
ご亭主さま、半東Iさま、ご連客の皆さま、ありがとうございました! 


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