暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

能「泰山府君」と桜の命

2018年03月16日 | 歌舞伎・能など

 横浜能楽堂の舞台にいけられた「桜と松」

ここのところ暖かいですね! 
5月の陽気だそうで、今年の桜の開花が大幅に早まりそうです。
4月8日に”さくらの茶事”を予定しているので、その頃には桜花がどうなることかしら?・・・とやきもきしています。

そんな折、3月10日(土)に「能の花 能を彩る花」第5回「桜」・能「泰山府君(たいさんぷくん)」を見に横浜能楽堂へ行きました。
泰山府君は、道教の聖地である「五岳」の一つ、生死を司る「泰山」への信仰から生まれた神です。
能「泰山府君」は、桜花爛漫の季節を舞台に、万物の生命を司る道教の神・泰山府君に、桜の命を永らえさせてもらおうという願いを歌い上げた曲となっています。
我が願いも同じで、泰山府君に今年の桜の花の命をどうか永らえさせ給え・・・と。


  横浜能楽堂 (横浜市西区紅葉ヶ丘27-2)

2017年(平成29年)は、華道・池坊の開祖と呼ばれる池坊専慶がいけばなの名手として文献に登場してから555年に当たるそうです。
これを記念し、横浜能楽堂では花に関係する5つの能を上演し、次期家元の池坊専好が舞台を花で彩るという企画公演を催しました。

  第1回「菊」 平成29年10月28日(土) 能「菊慈童 酈縣山」(観世流)梅若玄祥
  第2回「紅葉」平成29年11月23日(木・祝) 能「紅葉狩 紅葉ノ舞 群鬼ノ伝」(金春流)金春安明
  第3回「牡丹」平成30年1月13日(土) 能「石橋 大獅子」 (観世流)片山九郎右衛門
  第4回「梅」 平成30年2月10日(土) 能「東北」     (観世流)大槻文藏
  第5回「桜」 平成30年3月10日(土) 能「泰山府君」   (金剛流)金剛永謹

最終回の「泰山府君」は、シテ方五流の中で唯一上演曲としている金剛流でも長らく演じられなかったそうで、1960年に復興されました。
私にとって「泰山府君(たいさんぷくん)」という能の名前も観るのも初めてでした。

既に横浜能楽堂の舞台正面には桜と松が活けられていて、どうやら池坊專好さんが舞台で活けるというパフォーマンスはなさそうです。
第3回「牡丹」の時には白と紅の牡丹を1本また1本と丁寧に石橋の前に活けられていた姿が心に残り、能「石橋 大獅子」への期待がいや増して、能といけばなの新たなコラボレーションを実感したのですが・・・残念!


  京都の紫雲寺頂法寺(六角堂)の白牡丹 (平成30年1月末撮影)

さて気を取り直して、能「泰山府君」のあらすじを記します(パンフ参考)。

桜町中納言(ワキ)は桜の花の命が7日と短いことを惜しく思い、ものの命を司る泰山府君を祀り、延命を祈念しています。
そこに天女(前シテ)が降り立ちました。
天女は、あまりの桜の美しさに、どうにかして一枝持って帰りたいと思います。
しばらく待っていると月が入り辺りは暗くなりました。それに乗じて天女は桜に立ち寄り、ひそかに手折ると、胸に抱えて天上へと帰ります。

そのことに気づいた花守(間、アイ)は、急いで中納言に告げ、泰山府君へ祈るように促します。

やがて、泰山府君(後シテ)が現われました。
泰山府君は通力で天女が桜を折ったことを知ると、天上から天女を呼び寄せます。
すると、天女(ツレ)が桜の枝を持って再び姿を現し、天女之舞を舞い、枝を樹へ戻します。
泰山府君は天女が戻した枝に命を吹き込み、元の通りに接ぎます(舞働)。
そして、花の盛りを愛で、花の命を二十一日まで延ばすのでした。





春になると、美しく絢爛豪華に咲き競う桜に誰でも心奪われます。
けれどもあっという間に散ってしまうはかなさは桜を愛でる人の心を妖しくかき乱します。
桜を一枝折って持ち帰ってしまう天女に大いに共感したり、天女が戻した桜の枝に命を吹き込む泰山府君のおどろおどろした舞にびっくりしたり、21日の延命をうらやましく思ったり、のどかな春を謳歌する舞台を堪能しました。

泰山府君が左右の袂で接いだ桜の枝を覆い、命を吹き込む所作に、思わず「アッ!」と声が出てしまいました。
接いだ枝が再び折れてしまうのでは・・・と心配だったのです。そのくらい舞台と一体になっていました。
大鼓の「イヤッ」という掛け声とともに太鼓や音曲が鳴り止み、泰山府君が舞納めました。



シテやツレの床に吸いつくような足の動きに見惚れ、自分が舞っているようで楽しかった。
ただ、いくつか違和感も感じました。
前シテの天女は金剛永謹、ツレの天女(後半の)は金剛龍謹が演じたのですが、面も衣装も雰囲気もまったく違っているので同じ天女と思えず、何度もパンフを確かめました。
物語的には天女を同じ方が演じた方がわかり易く、二人の天女の違いが違和感として残りました。

それもこれも「桜」の持つ妖気の成せることかもしれませんね・・・・
そう思うと違和感ありもまた良し・・・でしょうか。


  横浜能楽堂近くからランドマークタワーをパチリ


(忘備録)
横浜能楽堂企画講演  能の花 能を彩る花 第5回「桜」
           平成30年3月10日(土) 午後2時開演  
                
  能 「泰山府君」  シテ(天女・泰山府君) 金剛永謹
            ツレ(天女)     金剛龍謹 
            ワキ(桜町中納言)  森 常好
            間(花守)      高野和憲    
        
            囃子方  大鼓  國川 純   太鼓  林 雄一郎
                 小鼓  曽和正博   笛   竹市 学