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昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

540 草津(群馬県)このお湯は誰のものかと湯冷めする

2013-10-28 19:28:52 | 群馬・栃木
子供のころの同級生と草津温泉に泊まり、少年に還った。ホテルは6人まとまると貸し切りにできるというので、6人目は無理に頼んで新潟から駆け付けてもらった。小さなロッジではあったけれど、貸し切りのおかげでリラックスでき、草津の湯を堪能した。草津はその湯量・薬効において、紛れもなく天下の名湯である。しかし温泉とは地中から湧き出す熱湯に過ぎない。つまり大地の恵みなのであって、それがなぜ「私有」されるのだろう。





私は特段の温泉好きというわけではないけれど、そこに温泉があれば喜んで入浴する。それなのに「温泉の使用権」などというヘンな思いにふけってしまったのは、宿泊したロッジで聞いた「草津では、個人の住宅に温泉を引くことは認められない」という決まりに興味が湧いたからだ。だからこの天下の名湯を引き込みたければ、宿泊施設など営業用に使用権を購入する以外ない、ということらしい。そもそも《温泉権》とは何であろうか。



それは民法でもなかなか興味深いテーマであるらしい。温泉を汲み上げたり引き込んだりして利用できる権利のことを言い、利用料の支払いによっては永久に維持される権利のようである。では草津温泉はどうか。町のホームページには「すべて自然に湧出している自噴泉で、湧出ヶ所は10数ヶ所といわれ、個人で所有する源泉もあるが、町で所有または管理している源泉がほとんどです」とあり、代表的な6源泉が列記されている。



そうであるなら温泉の利用料や新たな使用権料は町の収入になっているのだろうか? そしてそれらはいったいどれほどの金額なのか? そうしたことを明記したページは見つからなかった。温泉地に行くと「湯の権利を持つ者と持たない者、そしてそこで働く人々の余りに大きな財の差」を感じてしまう。それは資本家と労働者の、資本主義における当たり前の構図ではあろうが、その財の根源が、大地の恵みであるところが引っかかる。



例えば草津温泉の産みの親は白根山である。地下水がマグマや火山ガスに影響されて強酸性の熱湯に変わり、噴出して来る。草津白根山は硫化水素を噴き出していて、今でも時おりハイカーやスキーヤーの命を奪う。山頂のひとつには「お釜」が不気味な色を湛えて静まり、晴れ晴れとした景観とは裏腹に、地中深く染み込んだ雨水とマグマとの、人知の及ばない激しい営みを思い起こさせる。そうした産物が、誰のものだというのだ。



草津と並んで古い歴史を持つ伊香保温泉は、山の上の神社に源泉があって、温泉は参道の石段脇を流れ落ちて来る。それを引き込む権利は限られた老舗旅館が保有していて、古くから切り込みのある板を使って湯を取り込んでいると聞いた。その切り込みの大小が湯の権利の多寡そのもので、私権の象徴である。日本人が大好きな温泉は、明らかに天与の公共財であって、温泉権など撤廃し、もっと利用税をいただくことにしたらどうか。



別の日、草津温泉を下ってチャツボミゴケ公園に行ってみた。旧六合(くに)村の奥深く、かつての群馬鉄山の採掘跡なのだが、強酸性の水中でこそ生息する希少な苔・チャツボミゴケが群生している希有な沢だ。渓流に洗われる岩に緑のコケがふっくらと密生し、それが茶壺に見えるというのだろうか。水質はPh2.8と強酸性で、動物が沢に転落して死んでいることがあるという。火山が産んだ、美しくも恐ろしい光景である。(2013.7.7-8)












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