今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

537 境港(鳥取県)妖怪とポーズをとって緊張す

2013-10-25 15:36:39 | 鳥取・島根
島根半島とは奇妙な形だと、かねがね思っていた。「半島」とは名ばかりで海に突き出すこともなく、長々と陸地を塞ぐカサブタのような形をしているからだ。古代人は地図を持たなかったけれど、空から大地を俯瞰した姿を想像する能力を備えていたのだろう。だからこの半島の形から「他所から土地を引き寄せて出雲の国を広げた」とする雄大な《国引き神話》を創作したに違いない。私たちはその引き綱の跡、弓ケ浜を北上している。



境港はこの砂州の先端の街なのだが、ここまで来ると私の「岬憧憬癖」がうずき出し、美保関灯台まで車を走らせてもらう。境水道を江島大橋で高々と越えて島根県に入り、半島の東端を目指す。西端の日御碕は荒々しい岩場の上に、私がこれまで登った灯台の中で最も背が高く、最も美しいと見惚れた日御碕灯台が建っているのだが、一方の美保関灯台は、同じ石造りながらずっと小ぶりで、建つ丘も緑に覆われて優し気な雰囲気だった。





岬に付きものの神社にお参りし引き返すと、ようやくこのあたりの地形が理解できた。弓ケ浜の優雅な曲線に縁取られた海を「美保湾」といい、砂州でセパレートされた内陸側が「中海」だ。そしてそこに流れ込む大橋川を遡ると、松江の街を抜けて「宍道湖」に至る。さらにその西の端には八岐大蛇の斐伊川が流入するわけで、何とまあ、出雲は地勢まで神寂びているものよと感じ入っていると、境港の「水木しげるロード」に立っていた。



水木しげるという漫画家は、東京・調布の自宅が近かったことで勝手に親しみを感じている。調布にもゲゲゲの鬼太郎やネズミ男の人形が並ぶ通りがあるけれど、やはり本場は漫画家を育んだ郷里・境港ということになるのだろう。駅前から中心商店街まで、長い妖怪ロードが続く。夏休みとあって、通りは家族連れで溢れている。日本中のシャッター通り商店街がこの賑わいを見たら、奇妙な妖怪たちにジェラシーを覚えることだろう。



歩道を行くと次々と妖怪が現れる。プレートには妖怪の名前と水木プロの著作権印があって、さらに「贈」と個人の名前が彫られている。像の多くが全国の妖怪ファンからの寄贈によるらしい。これなら小さな自治体や商店街であっても整備が可能だ。東京都がニューヨークのセントラルパークをヒントに導入した「思い出ベンチ」と同様の手法で、なかなか賢いやり方だ。ただこれも、熱狂的な水木妖怪ファンがいればこそである。



友人の一人は「孫に約束したのだ」と急に元気になって、妖怪関連の土産を買いまくっている。孫のいない私はそんな必要がないから、早くお昼を食べようとせっついている。漁港らしく海鮮丼が名物のようで、化粧品店の前で掃除をしていたおばさんに「美味しい店はどこでしょう?」と横着な質問をした。おばさんは一生懸命考え、店の奥から地図を探し出していくつか教えてくれた。その親切さが、この日一番のご馳走だった。



境港は水揚げ高が全国10指に入る、日本海側屈指の漁港なのだが、人口は3万5000人程度とごく小規模な街だ。そうした街が植田正治と水木しげるという、ともに個性豊かな写真家と漫画家を産んだことに私は感動している。年齢は20歳程離れているからお二人に接点は無かったかもしれないが、好きな道をひたすら歩み大成したことは、見事に共通している。人間の才能と育つ環境はどう関わるのか、永遠の謎である。(2013.8.1)







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