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「灘」とは「風波が荒く航海の困難な海」のことだそうで、海上保安庁の水路図誌には14ヶ所が挙げられているという。図誌に目を通したわけではないから正確なことは書けないけれど、「鹿島灘」は大洗岬から房総の犬吠埼までの、茨城県の海岸線の南半分ほどを言うらしい。
全国14の灘のうち、最も東かつ北に位している。私はその海を、大洗マリンタワーの60メートル上空から眺めている。「風波が荒く」など想像できない穏やかさだ。
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太平洋に面する茨城県の海岸線は180キロあって、那珂川河口を境に北部の常磐海岸と南部の鹿島灘海岸にほぼ2分される。常磐側は岩場や崖が多いのに対し、鹿島灘は80キロメートル余が砂浜である。近年、全国で深刻になっている砂浜海岸の侵食は鹿島灘でも顕著で、大洗、鹿島、波崎の港湾建設による汀線が変化し、砂の流失が増え、流入する砂の減少が顕著になっているらしい。その灘を北上する鹿島臨海鉄道で、私は大洗にやって来たのだ。
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鹿島灘には思い浮かぶ光景がある。北米のどこかから帰ってきた時のことだ、目が醒めると夜明けの太平洋が陸地に白波を立てている。飛行機は高度をぐんぐん下げ、気圧の変化で耳がキーンとなって何も聞こえない。その静寂の中で、陸の煙突から一筋、白い蒸気が海へたなびいている。視界のすべてが海と陸、すなわち灘である。一筋の煙は人間の経済活動を語っている。なんと美しい世界かと感動していると耳が戻り、成田に着陸したのだった。
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私が鹿島灘を見たのはこの一度きりかもしれない。鹿島神宮駅から太平洋に沿って来たとはいえ、海岸線までは1.5キロの内陸を走り、海は見えない。帰宅してグーグルマップを思い切り拡大すると、さらに海岸近くに国道が通り、集落が点在している。海岸に一定間隔で、キノコのような不思議な形が突き出ている。侵食防止の離岸堤らしい。私が空から見下ろした時はなかったと思う。侵食を無視できず、土木工事が実施されたのかもしれない。
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臨海鉄道は乾いた農地を進み、小さな駅を繋いで行く。連なるビニールハウスは茨城特産のメロン栽培用かもしれない。いささか不思議に思ったのは、無人駅だけの交通不便地帯であろうに、駅周辺には農家ではない、都市近郊の住宅地のような家々が固まっていることだ。どこに通勤し、どこに買い物に行くのだろうかと余計な心配をしてしまう。やがて「大洋」という駅が現れた。その名から、バブル期の別荘狂想曲を思い出し、しょっぱい味を噛む。
大地は惜しげもなく降り注ぐ冬陽に温まり、海が近いから、空気はきっとすこぶる美味いに違いない。今日のような陽気なら、鹿島灘の自然を満喫できる良い土地なのだろう。老後の静かな暮らしに、放棄された別荘を買い求める人がいてもおかしくない。臨海鉄道はすでに鉾田市を走っている。水田が現れ、懐かしい農村風景が広がる。そして大洗に到着する。カジキマグロをあしらった「老人と海」のモニュメントが出迎えてくれる、海一色の街だ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2a/7c/126d5f54c04997ecbdd749c64c98e194.jpg)
マリンタワーで太平洋を見晴らす。眼下には北海道行きだろうか、トラックコンテナがずらりと並んでいる。大洗港はコンテナ基地として重要港湾に指定されて40年、今では北関東の物流拠点だ。タワーの隣りの「大洗温泉」で旅の疲れを癒す。湯に浸かることが楽しみな齢になったのだ。バックパックが入るロッカーはあるだろうかと訊ねると、例によって「常陸のおばさん」が館内を走り回り、親切の限りを尽くして見つけてくれた。(2022.12.8)
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全国14の灘のうち、最も東かつ北に位している。私はその海を、大洗マリンタワーの60メートル上空から眺めている。「風波が荒く」など想像できない穏やかさだ。
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太平洋に面する茨城県の海岸線は180キロあって、那珂川河口を境に北部の常磐海岸と南部の鹿島灘海岸にほぼ2分される。常磐側は岩場や崖が多いのに対し、鹿島灘は80キロメートル余が砂浜である。近年、全国で深刻になっている砂浜海岸の侵食は鹿島灘でも顕著で、大洗、鹿島、波崎の港湾建設による汀線が変化し、砂の流失が増え、流入する砂の減少が顕著になっているらしい。その灘を北上する鹿島臨海鉄道で、私は大洗にやって来たのだ。
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鹿島灘には思い浮かぶ光景がある。北米のどこかから帰ってきた時のことだ、目が醒めると夜明けの太平洋が陸地に白波を立てている。飛行機は高度をぐんぐん下げ、気圧の変化で耳がキーンとなって何も聞こえない。その静寂の中で、陸の煙突から一筋、白い蒸気が海へたなびいている。視界のすべてが海と陸、すなわち灘である。一筋の煙は人間の経済活動を語っている。なんと美しい世界かと感動していると耳が戻り、成田に着陸したのだった。
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私が鹿島灘を見たのはこの一度きりかもしれない。鹿島神宮駅から太平洋に沿って来たとはいえ、海岸線までは1.5キロの内陸を走り、海は見えない。帰宅してグーグルマップを思い切り拡大すると、さらに海岸近くに国道が通り、集落が点在している。海岸に一定間隔で、キノコのような不思議な形が突き出ている。侵食防止の離岸堤らしい。私が空から見下ろした時はなかったと思う。侵食を無視できず、土木工事が実施されたのかもしれない。
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臨海鉄道は乾いた農地を進み、小さな駅を繋いで行く。連なるビニールハウスは茨城特産のメロン栽培用かもしれない。いささか不思議に思ったのは、無人駅だけの交通不便地帯であろうに、駅周辺には農家ではない、都市近郊の住宅地のような家々が固まっていることだ。どこに通勤し、どこに買い物に行くのだろうかと余計な心配をしてしまう。やがて「大洋」という駅が現れた。その名から、バブル期の別荘狂想曲を思い出し、しょっぱい味を噛む。
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大地は惜しげもなく降り注ぐ冬陽に温まり、海が近いから、空気はきっとすこぶる美味いに違いない。今日のような陽気なら、鹿島灘の自然を満喫できる良い土地なのだろう。老後の静かな暮らしに、放棄された別荘を買い求める人がいてもおかしくない。臨海鉄道はすでに鉾田市を走っている。水田が現れ、懐かしい農村風景が広がる。そして大洗に到着する。カジキマグロをあしらった「老人と海」のモニュメントが出迎えてくれる、海一色の街だ。
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マリンタワーで太平洋を見晴らす。眼下には北海道行きだろうか、トラックコンテナがずらりと並んでいる。大洗港はコンテナ基地として重要港湾に指定されて40年、今では北関東の物流拠点だ。タワーの隣りの「大洗温泉」で旅の疲れを癒す。湯に浸かることが楽しみな齢になったのだ。バックパックが入るロッカーはあるだろうかと訊ねると、例によって「常陸のおばさん」が館内を走り回り、親切の限りを尽くして見つけてくれた。(2022.12.8)
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