今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

1136 秦野(神奈川県)水が湧くエクボのような小盆地

2023-11-17 11:41:43 | 埼玉・神奈川
年間を通じて、これほど日照・気温・湿度・風力などの指標が快適に揃う日は何日あるだろう。「揃う」とは、私のような街歩きを楽しむ者にとってである。前日「木枯らし1号」が吹いた関東だけれど、今日は間違いなく「勢ぞろいの好日」である。そのせいもあるだろう、初めてやって来た神奈川県西部の秦野の街がとても心地よい。四囲をなだらかな丘陵に囲まれ、西方から富士山が白く輝いて見守っている。豊かな地下水が湧き出す街だという。



湘南内陸部の、小さなえくぼのような盆地である。人口は16万人を超えているから、地方の街としては決して小さな規模ではないのだけれど、地図上の「名水公園」や「泉」など、湧水の街らしい地点を目指しているせいか、ひたすら静かな住宅地と畑が広がる地域を歩く。おしゃれな新興住宅地の隣では葉物野菜の収穫に忙しく、高い脚立に登って庭木の剪定に余念がないお屋敷が続くといった具合で、歌でも口ずさみたくなる長閑かな散歩だ。



まず今泉名水桜公園に行く。日本名水百選の一つなのだという「秦野盆地湧水群」にあって、最大級の日量2500トンを誇ると説明板にある。水量は数字で表されてもピンとこないものだが、昭和初期にはプールとして整備されたと聞くと、途端に子供たちの歓声が聞こえてくるようで楽しくなる。せっかくのプールだけれど、水温が低すぎるため10年ほどで閉鎖になったという。現在は池のほとりにマンションが建つ、ごく可愛いい公園だ。



住宅地を西へ、富士山に向かって歩く。側溝から勢いよく流れる水音が響いてくる。常に水の気配と共にある街だ。畑に大きな土管のような筒が立っていて、蛇口から水が出ている。南小学校3年1組の「わき水のつかいかた」によると①はたけにははいらない②じゃ口はしめない③きれいにつかう」を守れば、誰がいただいてもいいらしい。この街は明治20年代に、日本初の陶管水道を敷設している。近代水道としては横浜、函館に次ぐ全国3番目だ。



だいぶ歩いて出雲大社の相模分祠だという社に着いた。確かに出雲の大注連縄を縮小したような注連縄が掲げてある。街に陶管水道が敷設されたころ、地元の報徳家が出雲の神様をお招きしたのだという。「関東のいづもさん」を名乗っているものの、なぜ大国主系に来てもらったのかいまひとつわからない。途中でお参りした今泉の鎮守様も諏訪系列であったから、この地は「物部系の歴史」が堆積しているのだろうか。七五三参りの家族連れが多い。



「秦」は始皇帝が天下を統一した古代中国の国名だが、日本語では「はた」と読む。だから古代秦氏が移住した土地なのだろうと誤認していた私は「はたの」と読んでいたのだが、秦野市は明治以前からこの盆地一帯で呼ばれていた「はだの」を採用している。ちなみに「秦」は「成長の早い植物のこと」だと言う。秦野は長く、国内有数の葉タバコの大産地であった。今はタバコ畑に代わってやたらと新興の住宅街や宅地分譲地が目立つ。なぜだろう?



新宿から1時間余、人口は頭打ちらしいけれど、水も空気もいい暮らし良さそうな街だ。この街に、どういう人たちが家を求めて来るのだろう。建設中のマンションは老人ホームかもしれない。そんな街角に、ザルを並べて何かを干している鄙びた店があった。覗き込んでいると「運がいいね、まだ買えるよ、秦野の落花生」と賑やかなお婆ちゃんが登場した。葉タバコ農家は落花生栽培に転換したのか、丹沢ピーナッツの看板を見かけた。(2023.11.14)








































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