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ツツジを「躑躅」とは、随分難しい文字を当てたものだが、いつの時代かの知恵者が考えたのだろう、「数歩行っては止まる」状態を表す「躑躅(てきちょく)」という言葉を、ちょっとひねって「ツツジは人がつい足を止めるほど美しい花だから」と当てはめたらしい。ツツジは庭や公園の植え込みなどで生活には馴染み深い花木だ。見慣れたツツジについて改めて考えているのは、つつじ祭りで賑わう館林の「つつじが岡公園」に来ているからである。
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あいにくの曇天だが、ツツジはそれでも内から光を放っているかのように十分に鮮やかだ。写真に撮る場合、陽光があまりに強いと花びらはむしろハレーションを起こして撮りにくい。それほど確かに、躑躅には散歩者の足を止める力がある。それが50余種1万株の大群落となると、遠来の花好きを集めるパワーになるのだろう、公園は平日らしく、高齢者が押しかけている。花も眩しかったけれど、私がこの日、最も感動したのは「香り」である。
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つつじ祭りの期間中、公園は有料になるのだが、そのゲートに近づくと、ほのかな香りが漂ってきた。とても柔らかく、うっかりすると気がつかないかもしれないほどの匂いである。幼いころから慣れ親しんでいるツツジであるが、薫木であるとは意識したことがなかった。後期高齢者になって初めて知る「薫福」であったものの、園内に入って花に埋もれると、鼻が慣れてしまうのか、むしろ感じない。「躑躅花」は「におう」に掛かる歌枕なのだった。
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万葉集に「‥青山をふり放け見ればつつじ花香少女櫻花栄少女‥」(巻十三 3305)という問答歌がある。「青山を振り仰ぐと咲いているツツジの花のように色美しい少女よ、桜花のように咲き盛る少女よ」(日本古典文学大系)と呼びかける、たわいもない歌だけれど、興味深いのはツツジが「香少女(にほえをとめ)」の枕になり、桜花が「栄(さかえ)少女」の譬えになっていることだ。「にほえ」は丹穂で、「赤い色が表に現れる」意味だとか。
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ツツジは香り立つほど美しい処女、桜は今が盛りの未通女に見立てている。私にはむしろツツジの花の方が「栄少女」的花姿に思えるのだが、万葉びとにとって譬えのポイントは「香り」にあり、ツツジと桜は自ずとこの配置に収まるのだろう。万葉集の古本にはツツジは「茵花」とあるそうだ。「茵」には「しとね、敷物」の意味があり、万葉の時代にも、桜に続いて野山を彩るツツジは、寝床のように密集して咲く花として人々に愛でられたのだろう。
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公園の案内によると、この地は城沼に突き出した岬のような地形で、古くからヤマツツジが群生していたらしい。16世紀半ばの書には「躑躅ヶ崎」と記載されているそうだから、「茵花」を「躑躅花」に変えた知恵者は中世以前に遡ることになる。館林藩は榊原家10万石で始まり、8家がリレーして秋元家で明治の廃藩となるのだが、躑躅ヶ岡は江戸時代を通じて増殖され、藩主交代ではツツジの株数を確認し、目録にして引き継がれたという。
私にとってツツジは、「香り」よりも「ツツジ臭さ」が記憶に残る。誰に教え込まれたものか、「ツツジの花は食べられる」と聞いた幼い私は、母の実家の植え込みのツツジをムシャムシャ食べたことがある。その時の記憶がツツジ特有の、少し青臭い匂いとして残っているのだが、ツツジの花には毒があるとも聞くから、ツツジは蜜を吸うだけに留めておいた方がよい。続々とやって来るマスク姿の元少女たち、香りも楽しめただろうか。(2022.4.28)
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あいにくの曇天だが、ツツジはそれでも内から光を放っているかのように十分に鮮やかだ。写真に撮る場合、陽光があまりに強いと花びらはむしろハレーションを起こして撮りにくい。それほど確かに、躑躅には散歩者の足を止める力がある。それが50余種1万株の大群落となると、遠来の花好きを集めるパワーになるのだろう、公園は平日らしく、高齢者が押しかけている。花も眩しかったけれど、私がこの日、最も感動したのは「香り」である。
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つつじ祭りの期間中、公園は有料になるのだが、そのゲートに近づくと、ほのかな香りが漂ってきた。とても柔らかく、うっかりすると気がつかないかもしれないほどの匂いである。幼いころから慣れ親しんでいるツツジであるが、薫木であるとは意識したことがなかった。後期高齢者になって初めて知る「薫福」であったものの、園内に入って花に埋もれると、鼻が慣れてしまうのか、むしろ感じない。「躑躅花」は「におう」に掛かる歌枕なのだった。
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万葉集に「‥青山をふり放け見ればつつじ花香少女櫻花栄少女‥」(巻十三 3305)という問答歌がある。「青山を振り仰ぐと咲いているツツジの花のように色美しい少女よ、桜花のように咲き盛る少女よ」(日本古典文学大系)と呼びかける、たわいもない歌だけれど、興味深いのはツツジが「香少女(にほえをとめ)」の枕になり、桜花が「栄(さかえ)少女」の譬えになっていることだ。「にほえ」は丹穂で、「赤い色が表に現れる」意味だとか。
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ツツジは香り立つほど美しい処女、桜は今が盛りの未通女に見立てている。私にはむしろツツジの花の方が「栄少女」的花姿に思えるのだが、万葉びとにとって譬えのポイントは「香り」にあり、ツツジと桜は自ずとこの配置に収まるのだろう。万葉集の古本にはツツジは「茵花」とあるそうだ。「茵」には「しとね、敷物」の意味があり、万葉の時代にも、桜に続いて野山を彩るツツジは、寝床のように密集して咲く花として人々に愛でられたのだろう。
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公園の案内によると、この地は城沼に突き出した岬のような地形で、古くからヤマツツジが群生していたらしい。16世紀半ばの書には「躑躅ヶ崎」と記載されているそうだから、「茵花」を「躑躅花」に変えた知恵者は中世以前に遡ることになる。館林藩は榊原家10万石で始まり、8家がリレーして秋元家で明治の廃藩となるのだが、躑躅ヶ岡は江戸時代を通じて増殖され、藩主交代ではツツジの株数を確認し、目録にして引き継がれたという。
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私にとってツツジは、「香り」よりも「ツツジ臭さ」が記憶に残る。誰に教え込まれたものか、「ツツジの花は食べられる」と聞いた幼い私は、母の実家の植え込みのツツジをムシャムシャ食べたことがある。その時の記憶がツツジ特有の、少し青臭い匂いとして残っているのだが、ツツジの花には毒があるとも聞くから、ツツジは蜜を吸うだけに留めておいた方がよい。続々とやって来るマスク姿の元少女たち、香りも楽しめただろうか。(2022.4.28)
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