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昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

1118 室堂(富山県)雷鳥を見たのだろうと言い聞かせ

2023-09-02 02:09:50 | 富山・石川・福井
そろそろ黒部ダムに向かう時刻だなと、室堂のベンチから腰を上げたその時、頭上を鳥が飛んで行った。鳩より少し大きいほどの、ずんぐり太めの体型に見えた。腹の辺りは白いけれど、首から背にかけては黒っぽい。続いてもう一羽が、華麗とは言い難い羽搏きで追いかけ、草原を渡って行く。ひょっとして私は、雷鳥に出逢ったのではないか。雷鳥は「飛ぶべき時は翔ぶ」そうだから、あれは特別天然記念物の二羽に違いないと、興奮して妻に伝える。



この山岳地帯のシンボルを選ぶとすれば、雷鳥がふさわしいだろう。本州中部の標高2200メートル以上の高山帯に生息し、ハイマツの窪みに巣を作り、高山植物の種子や昆虫を食べている雷鳥は、夏羽は黒や茶の斑模様で、冬になると全身白色になる。21世紀に入って国内生息数は2000羽を割り込んだと懸念される絶滅危惧種である。6年前に訪ねた大町山岳博物館では、生態を解明して保護に繋げるための飼育研究がいかに難しいか知った。

(大町山岳博物館に展示されている雷鳥の剥製)

自然保護と観光との調和は常に難しい。ライチョウの生息を脅かす要因として、環境庁はキツネやカラスなど捕食動物の分布拡大と並んで、「登山客等の増加に伴う撹乱」をあげている。それは植物においても言える。観光客が増えれば、その靴によって外来植物の種子が持ち込まれるなど、環境への悪影響の怖れは強まる。室堂平を「みくりが池」あたりまで巡った限りでは、清浄な大平原が維持されているように思えるが、果たしてそれで大丈夫か。



小学生だろうか、赤い帽子の一団が柵の中に入って何か作業している。「外来植物除去中」と書かれた揃いのベストをつけている。地元の子供たちの環境保全活動のようだ。先生は「今日はイタドリを狙い撃ちです」と汗だくだ。室堂平は、チングルマやイワイチョウなど高原の花畑なのだといい、季節はすでに過ぎつつあるようだが、いくつかの種はまだ可憐な花を楽しませてくれる。こうした花畑に、繁殖力の強い外来種が侵入すると影響は大きい。



さて「室堂」である。乱暴に言えば、山岳信仰者らが高地での修行・祈祷の拠点とする、修験者の山小屋のようなものだ。立山では中世に建てられた堂が保存され、国の重要文化財なっている。その奥の室堂平の西端に玉殿岩屋という洞窟がある。立山開山の佐伯有頼少年が、白鷹と熊に導かれて御仏に出会った窟なのだと言い伝えられている。立山修験の聖地なのだろう。近代登山のアルピニストが行き交うまで、山は修験者とマタギの世界だった。



室堂平は緩やかな起伏が広がる見晴らしのいい草原で、ところどころに大きな岩が転がり、ハイマツが点在している。その全てが火山の火口跡なのだという。有頼少年がこの高原に達した時、どれほど晴れやかな思いになっただろうかと想像を膨らます。しかし有頼少年より60歳年上の私は、股関節が悲鳴を上げ始め、室堂小屋と玉殿岩屋は遠望するだけで断念した。少し休むと痛みは消えるのだが、年々、身体の衰えが顕在化する。困ったものだ。



玉殿岩屋付近で湧き出している水が、室堂駅近くまで引かれている。このアルペンルートでは、いたるところで湧水が溢れ、私はそのつど飲んでみた。翌日飲んだ上高地の湧水も美味しかったけれど、格段に美味だったのはこの玉殿の湧水である。剱岳を遠望する魚津は、水がおいしい街を自負しているけれど、やはり山頂付近の湧水には敵わない。多くの登山客が喉を潤している。雷鳥も飲んでいるのだろう、私は何杯もお代わりした。(2023.8.25)


















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