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岐阜市について「賑わいと静寂のバランスが程よく均衡した、暮らし良さそうな街だ」と書いたことがある。JRと名鉄の駅が隣り合う界隈から北へ、金華山通りを行くと柳ヶ瀬の繁華街になり、さらに市役所を過ぎると長良川の清流に行き当たる。長良川橋を渡って金華山を見上げると、陽に輝く稲葉山城が豊かな歴史を語りかけてきて、「いい街だ」と思うのである。ただいつも訪れるのはこのあたりだから、街の全体について語る知識はない。
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今回は中心部から街の西部に行ってみる。県美術館で始まった「走泥社再考」展を観るためだ。年が明ければ東京にも巡回して来る展覧会なのだが、知らない岐阜を歩くいい機会だとやって来た。東海道線の西岐阜駅に降りると、すっかり「郊外」の様相である。遠くに高層ビルが見えて、昔来たことがある県庁だと思い出したが、周囲のことは全く覚えていない。美術館に行きたいのだが、岐阜環状線という広い道路が行く手を阻み遠回りさせられる。
(柳ヶ瀬アーケード街 2009.2.18)
岐阜市は柳ヶ瀬の高島屋百貨店が来年夏に閉店すると発表したことで、全国で4つ目の「デパート不在県」になることが決まり、市民はショックを受けているらしい。私が柳ヶ瀬をゆっくり歩いたのは「市政120年」の旗が揺れる2009年だった。すでにそのころはアーケード商店街の疲弊が隠しようもなかったから、50年近く続いた岐阜高島屋の撤退は、時間の問題だったのかもしれない。この事態を都市計画の失敗だという分析があるようだ。
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全国の県庁所在都市で、県庁と市役所の距離が最も離れているのが岐阜市なのだそうで、県庁と市役所は直線で5キロの距離がある。県庁のある西部地区は新興街区なのだろう、美術館や図書館、科学館、野球場などが整備され、文教地区の趣がある。しかし賑やかさにはほど遠く、「伊吹おろし」が身に染みる殺風景さだ。人口40万人規模の街が県庁と市役所という核を分散してしまった結果、街全体が活気を失ってしまったという批判らしい。
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確かに、昨今流行のコンパクトシティとは逆の構想で街づくりが推進されたのかもしれない。しかし百貨店が撤退するのは、そのビジネスが時代にそぐわなくなったからであり、またコンパクトシティ造りがどこでも成功しているわけでもない。岐阜にはこの街ならではの「住みよい街づくり」があるはずだ。人口減少社会においてその実現は難題だろうが、いい知恵を発揮してほしい。それより私は「走泥社展」である。ようやく県美術館に着いた。
(八木一夫「二口壺」陶芸と彫刻のあいだで展2017年図録より)
走泥社は戦後間もなく、「やきものからの脱皮」を掲げる京焼きなどの若手陶芸家五人が結成した前衛陶芸グループだ。八木一夫や鈴木治らの作品は、概ねどこかで鑑賞しているけれど、何度見ても発見がある。「ああ、10年若返りたい」という思いに襲われながら凝視する。10年若返れたら、もう一度陶芸に挑んで、こんなものを作りたい、こんな工夫を加えたいとトキメク。木や金属ではなく、土を焼くことによってこそ出せる質感が私は好きなのだ。
(辻晉堂「東山にて」辻晉堂の陶彫展2020年図録より)
ただ、子供のころから土や轆轤で遊んでいた彼らは、土の扱いが上手すぎる。「やきもの」から脱皮仕切れていない。彫刻から陶芸に転じた辻晉堂の参考作品は、ざらついた肌に触れてみたくて仕方なかった。これを書いていると、国立人口問題研究所が「2050年には、東京都を除く全道府県で人口が減少する」と発表した。岐阜県は20年比25.8%の減少とある。さて岐阜市はこの激減社会で、どう「賑わいと静寂の街」を維持するか。(2023.12.20)
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今回は中心部から街の西部に行ってみる。県美術館で始まった「走泥社再考」展を観るためだ。年が明ければ東京にも巡回して来る展覧会なのだが、知らない岐阜を歩くいい機会だとやって来た。東海道線の西岐阜駅に降りると、すっかり「郊外」の様相である。遠くに高層ビルが見えて、昔来たことがある県庁だと思い出したが、周囲のことは全く覚えていない。美術館に行きたいのだが、岐阜環状線という広い道路が行く手を阻み遠回りさせられる。
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岐阜市は柳ヶ瀬の高島屋百貨店が来年夏に閉店すると発表したことで、全国で4つ目の「デパート不在県」になることが決まり、市民はショックを受けているらしい。私が柳ヶ瀬をゆっくり歩いたのは「市政120年」の旗が揺れる2009年だった。すでにそのころはアーケード商店街の疲弊が隠しようもなかったから、50年近く続いた岐阜高島屋の撤退は、時間の問題だったのかもしれない。この事態を都市計画の失敗だという分析があるようだ。
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全国の県庁所在都市で、県庁と市役所の距離が最も離れているのが岐阜市なのだそうで、県庁と市役所は直線で5キロの距離がある。県庁のある西部地区は新興街区なのだろう、美術館や図書館、科学館、野球場などが整備され、文教地区の趣がある。しかし賑やかさにはほど遠く、「伊吹おろし」が身に染みる殺風景さだ。人口40万人規模の街が県庁と市役所という核を分散してしまった結果、街全体が活気を失ってしまったという批判らしい。
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確かに、昨今流行のコンパクトシティとは逆の構想で街づくりが推進されたのかもしれない。しかし百貨店が撤退するのは、そのビジネスが時代にそぐわなくなったからであり、またコンパクトシティ造りがどこでも成功しているわけでもない。岐阜にはこの街ならではの「住みよい街づくり」があるはずだ。人口減少社会においてその実現は難題だろうが、いい知恵を発揮してほしい。それより私は「走泥社展」である。ようやく県美術館に着いた。
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走泥社は戦後間もなく、「やきものからの脱皮」を掲げる京焼きなどの若手陶芸家五人が結成した前衛陶芸グループだ。八木一夫や鈴木治らの作品は、概ねどこかで鑑賞しているけれど、何度見ても発見がある。「ああ、10年若返りたい」という思いに襲われながら凝視する。10年若返れたら、もう一度陶芸に挑んで、こんなものを作りたい、こんな工夫を加えたいとトキメク。木や金属ではなく、土を焼くことによってこそ出せる質感が私は好きなのだ。
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ただ、子供のころから土や轆轤で遊んでいた彼らは、土の扱いが上手すぎる。「やきもの」から脱皮仕切れていない。彫刻から陶芸に転じた辻晉堂の参考作品は、ざらついた肌に触れてみたくて仕方なかった。これを書いていると、国立人口問題研究所が「2050年には、東京都を除く全道府県で人口が減少する」と発表した。岐阜県は20年比25.8%の減少とある。さて岐阜市はこの激減社会で、どう「賑わいと静寂の街」を維持するか。(2023.12.20)
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