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おおかみこどもの雨と雪 メイキングセミナー

cg |2012-09-23
「おおかみこどもの雨と雪」メイキングセミナー(受付終了) [株式会社ボーンデジタル]

秋葉原のUDXシアターにて、メイキングセミナーが開かれました。確か、申し込み受付開始してその日のうちに満席とかそんなだったと思います。運良く席が取れたので見にいきました。

メイキングセミナーの主役はデジタル・フロンティアの制作スタッフです。つまりCGパートに責任を持った方々。といっても、その作業の範囲は想像とちょっと違っていました。

デジタルフロンティアの4人の方々によりメイキングの説明が進みます。
まずはデジタルフロンティアという会社がどんな会社なのか、その実績はという話を経て、今回のメインテーマ、おおかみこどもの雨と雪のメイキングに話が及んでいきます。

風の表現
疾走感の表現
雨や雪、自然表現
モブや小道具
コンポジット

という大きな枠が設けられ、それぞれについて細かい話が行われましたが、その前にワークフローが語られました。
普通、「アニメ」にCGがかむ場合、コンテやレイアウトが完了後、作画や背景美術と平行してCG側の作業も行われ、撮影にそれらが回され合成される、というのが普通と言えましょうが、今回の映画では、撮影部分もCG側が請け負い、最終的なコンポジットをすべて行ったことで、全素材がCGに流れてくる事になっていたそうです。これはなかなか大変そうですね。1165カットって数字が出ていました。
そんなワークフローで全体は制作されているわけですが、それぞれのカットが、ではどのように制作されていったのかという話になっていきます。

まず、風の表現に関する話がありました。
これは、言ってみれば背景美術をいかに動かすかというお話でありました。そのために風でどのように草木が動くのか、ロケハンを行い観察を行っています。
そしてこの表現の例として上げられたのが、映画冒頭の花をクローズアップしたカットと、草原に立っている花がFFで写っている少し広い絵のカットです。いずれも花の夢のカットですな。
前者は2つめの特報のラストカットです。



レイアウトが決まって背景美術が手書きの背景を描きます。クローズアップのカットでは背景を3層に分けて描いたようです。通常ですと、これを前景・中景・遠景という形で配置し、それぞれのボケ幅や、横にドリーしているならそれぞれのスクロール速度を変えることで奥行き感を出すといった感じで使う素材だろうと思います。当然ながら、各レイヤーの草花は、その草一本一本が独立して別の動きをするということが出来ません。
そうしたい時、通常ならおそらく背景美術を描いてくれる方には、それぞれの草花を、動かす要素分、別々の素材として描いてもらう事が多いと思います。しかし、この映画では最終的な絵のイメージをより早い段階でつかむためと、絵のトータルとしての完成度を上げるために、あえて一枚の絵(複数の草花が一個のレイヤーに重なって書かれている状態・普通の背景)で描いてもらったそうです。

その上で、その一枚の絵の各草花をそれぞれ別個のレイヤーになるように切り抜いて、切り抜いて絵が無くなった部分はレタッチしてという作業を行い各要素の素材を用意します。そしてmaya上にそれぞれを配置し、一枚絵として書かれた背景画を、3D空間に再構築するという作業を行います。手前の部分はそれなりにちゃんとした立体で、奥の部分は板ポリで。んで、それらをmayaのファーのシステムでシミュレートしたり、デフォームのためのリグを構築したりで、maya上で動かし、風を表現した、という事です。
3D空間に構築し直したことで奥行きの情報を白黒の素材として出力できるので、それを被写界深度の表現に利用したりという事も行えるようになったようですね。

草原の場面は広い絵であることから、中景から遠景は植物が一本一本かかれているわけではありません。だから前景はともかくとして、奥の方は先の手法は使えません。そこで別の方法を考える必要があったそうです。ロケハンで撮影した映像を観察した結果、別のアプローチでの表現を行うことになったとのこと。
背景美術から上がってきた絵を、明度別に分割します。ハイライト部分、中間の明るさ部分、影部分。そこに、フラクタルな感じのもやもやが動いていくマスク素材を使って、中間の明るさの素材の上にハイライトと影を重ね、その要素がマスクによって動いていくような方法をとっていました。ハイライトの動きと影の動きが連動するような感じになっています。

この二つのカットを作ったことで、とりあえず制作手法の方向性は見えたものの、特に最初の植物素材を素材別に切り分け、3D空間に再構築し、動かすための構造を仕込むというのが大変に手間のかかる作業である事が、スケジュール面で問題となります。非常に多くのカットで必要となる表現であるために、すべて手でやっていては現実的では無い。そこで、スクリプトが開発されたそうですね。

背景美術の絵を必要な要素別にレイヤー分けする作業。これは手作業でやらざる得ません。

しかし、手作業で分けられたレイヤーを、各レイヤーごとにsgiファイルとレイヤーの輪郭線のaiファイルで書き出して以降の、maya上に絵を再構築する作業が自動化されました。
スクリプトの内容としては、maya上でaiファイルからポリゴンメッシュを生成し、3D空間に並べていきます。その上で背景美術を再現するためにmaya上に設定されたカメラから、書き出されているsgiファイルを該当するポリゴンメッシュに投影し貼り付けることで、背景美術を3D空間に再現、という事を行っているそうです。もちろん、Photoshop上でのレイヤー名(それはおそらくsgiやaiファイルを書き出す時のファイル名です)で3D空間での重なり順を指定しているために、3D空間に奥行きを持って並べられます。
そして、mayaのヘアーを利用するための、あるいは変形のためのリグの構造を、これも自動的に設定する別のスクリプトが用意されたそうです。
ここまで自動化されることで、以降のメイキングに出てくる要素に普通にこの表現が使われていくことになっているようですね。

ところでなんでファイルフォーマットはsgiなんでしょうね?

おそらくみどりが池を舞台にしたカットの説明もされました。
ここは水面を渡る風をどう表現するかということで、色々と試行錯誤を行った様子が示されました。結果的には草原の遠景のように、普通の水面、ちょっと波立っている水面、激しく波立っている水面を用意し、(その他、キラキラなハイライトととかもあったかな)、フラクタルな感じのマスクでそれらを合成して表現したようです。

続いて、疾走感の表現というところのメイキングです。立体的なカメラワークを行ったカットですね。



雪山を疾走するカット。
まず、カメラが横にドリーする形で、駆けながらおおかみに変身する雪と雨をフォローするところです。
ここはまず作画によってラフ原画が描かれます。それをにmaya上に配置し、木々を配置し、カメラを付けます。これでカメラワークやタイミング等がOKになると作画と背景美術に当たりとなるCGの絵を渡します。
美術には1枚の絵と、必要な樹の素材を描いてもらったそうです。それを切り抜いてレタッチしmaya上に配置、空間を構築する。

雨か雪かの主観の絵のカットでは、これは3DCG側が先行してカメラを付けたそうです。その上で美術に絵を発注し上がってきた素材をmaya上に再構築。カメラの動きはYouTube上のスノーボードなんかの主観映像や制作者の経験なんかを参考に四本足で走る動物の視界の絵を構築したそうで。

ちなみにこれらのカットの作画は井上俊之氏で、CGのスタッフは上がってきた絵に驚愕していた様子が語られていました。

立体的カメラワークの例としてもう一つ上げられていて、それがバスの中のカットです。雪の入学式に向かうバスの中の絵ですね。
カメラはフィックスですが、窓の外の風景が流れていきます。
ここは美術さんは窓外の風景を3枚の絵で描いたようです。そして、これまでのカット同様、そこから素材を切り抜き、3D空間にレイアウトしていくという作業を行っています。
バスは車内のそれも後ろの一部しか必要ないことから、相当省略された形でモデリングされています。バスの車内のイスや窓は3Dのモデルだったってことっすね。しかし、これをトゥーンレンダリングで線を引いてしまうとどうしても表現が硬くなってしまうことから、手書きの素材をパースマップでオブジェクトに貼り付けるということをしたそうです。
一方、3DCGならではという表現部分に、窓外の風景が変わることで車内の光線の状況が変わるという物があります。イスに落ちる影やより明るい光が当たった部分といった感じの表現ですね。3Dオブジェクトで3Dの空間にレイアウトされることで、そんな素材を用意しやすくなるわけですな。このような表現と作画のキャラクターと合成するために、キャラクターは影になっている状態と光が当たっている状態の2つの状態を用意してもらい、それを使い分けてなじませていったみたいです。

ここの部分、映画を観ていて3DCGってのをまったく意識させなかったっすね。驚きました。

んで、自然表現つまり雨や雪や水エフェクトといった物の表現についてです。300カットほどで利用されたそうで。
一部のスペシャルなカット以外の汎用的素材を使うことで構築できるカットを、コンポジット担当の人たちだけで作っていけるように、汎用素材を用意したそうです。雨や雪、波紋、吐く息、煙、虫(羽虫)。雨や雪は、前景・中景・遠景といった複数レイヤーのものを、激しく降っている時やそれほどでも無い時や、そんなシチュエーション別にバリエーションが用意されています。
これら素材はゆっくりめの動きで作られていて、After Effects でコンポジットで利用する時に、速度を調整して利用できるようにしているそうです。
ちなみに、この素材をセミナーで見せてくれるにあたって、Webブラウザでこれら素材のプレビューが表示されたページを示すことで行われました。実際にコンポジターが必要な素材を選びやすいように素材を閲覧するためのWebシステムを構築しているんでしょうなぁ。

それら汎用素材を利用するだけでは無いスペシャルなカットの例としていくつか紹介されました。

まず、嵐の時の雨。これは強風にあおられることで雨の密度がまだらに見えることに特徴があるのだと思います。雨はパーティクルで表現するわけですが、エミッタとなるグリッドに工夫を加えているようでした。グリッドをランダムに変形させることでパーティクルの発生に変化をつけるとか、エミッタオブジェクトから均等にパーティクルが発生するのでは無く、分布に偏りを設けて発生させるといったことをしているそうです。
んで、地面付近に現れる霧というかもやというかそんな表現には mayaの fluidを利用したりmaxのfumuを利用したりしたそうです。

ここの部分は背景美術が上がってきてから作業を行うわけには行かないので(作業を行うパートがコンポジットではなく、エフェクトの開発チームだから)、レイアウトを元に先行してエフェクト表現を作成しOKをもらった上でコンポジットに回しているようです。

なお、ビニールハウスの一部が破けてめくれたビニールがバタバタと風に煽られている表現ですが、これはコンポジットの人が数枚描いてそれをループさせたそうですな。

激しい雨が降っている時の路面を流れていく水の表現もありました。これの表現はAfterEffectsで完結しているそうです。フラクタルを重ね、流れの表現を作り、それを3Dレイヤーとして背景に乗っける、という感じっすね。

小川の表現がありました。ヤマセミが水面に飛び込んでいくカットだと思います。
ここは水のシミュレートでRealFlowを使ったそうです。そしてシミュレートするために、パーティクル粒子を流すための舞台をzBrushで作成したとのこと。水の流れに表情を持たせるために、川底を実際の形状以上にデコボコにしたそうです。こうしてシミュレートされたメッシュをmayaに渡して川の流れの表現の素材を出力したり、やはりRealFlowで作成された飛沫表現の素材を出力したりした上で、コンポジットで背景の風景とCG出力の素材と作画されたヤマセミの表現が合成されます。
水に飛び込むヤマセミが上げる飛沫が作画で行われているために、それに表現を合わせるために、3DCG側で作成された飛沫の表現のハイライトの入り方をおさえてマットな感じに持っていくなど、なじませる手間をかけている事が話されました。

滝の話もありました。滝は当初fumuで作成されていたそうです。しかしこれだけだと水の物質感が薄いことから、さらにRealFlowによる表現も追加されたとのこと。

水たまりの表現の紹介は、ここは花が雨を探して山に入っていったシーンのですね。雨粒(パーティクル)が水たまりに落ちると板ポリが発生しその板ポリに波紋が表現されているそうです。同時に飛沫が上がるわけですが、これはmayaのブロブ表現で行われているみたいですが、コンポジット時にあまりよろしくなかったので、AfterEffects上でたぶんCC Blobbylizeなんかをさらにかますことようなことをしたと話していました。

最後に葉っぱの表現です。これは、まだ3人が東京にいる時、散歩に出た場面で、雪が犬に吠えかかるところ。雪が四つ足でぴょんぴょんと動いて止まる。このとき地面は枯れ葉で埋まっているので雪の動きに合わせて枯れ葉が舞い上がるわけです。ここにThinking Particleが使われたそうです。ロジックで挙動を変える必要があったわけっすね(雪がはねる所とはねない所で葉っぱの動きが違う)

蓮の葉に落ちる水滴や掃除の場面の埃なんかの話もありました。前者はRealFlowで蓮の葉に落ちる水滴が葉の中央のくぼみに溜まっていくシミュレート、後者は埃のもやはfumeで作成して、そのfumeの動きに合わせて大きなチリのシミュレートが行われているそうです(fumeのシミュレート結果にあわせて動かすことができる物を使った?)。

モブや小道具や小動物の話に移ります。

モブシーンの例として、映画冒頭、花が大学に向かって歩いているカットが示されます。
このカット、歩いている人々の正面にカメラが置かれています。その人々の中に花がいる。このカット、花以外、全部CGキャラクターなんだそうです。花は画面の真ん中で全身が写る距離におり、その前後にも人がいるんですが、画面にけっこう大きく映り込んでいるキャラクターも3DCGだったのにちょっと驚きです。すべてのモブに同じディテールを持たせるのでは無く、カメラからの距離に応じて、遠いキャラクターはのっぺらぼうにするなど、アニメの表現としてなじませる工夫を行ってました。
このモブ用キャラクターはデジタルフロンティアのMoColyというモブ用キャラクターを生成するツールを使用しているそうです。しかし、もともとリアル系のキャラクターを作るためのツールなので、吐き出されたキャラクターの手足を細くしたりなど、よりデフォルメする作業を行ったそうです。デザインについては、特にデザイナーによるデザインが起こされているわけでは無いので、過去の細田作品(時かけ・サマーウォーズ)を参考にしているそうです。
また、これらモブのキャラクターにはモーションキャプチャを利用しています。デジタルフロンティアはモーキャプスタジオを所有しているが強いですな。

おおかみこどもの雨と雪のエンディングクレジットを観ていて、作画としてクレジットされている人の数がこの規模の映画としては非常に少ない印象を持ちました。その秘密はもしかしたらこーいうところにもあるのかもしれませんね。

小道具の例としては韮崎のじいちゃんの乗っているサニートラックがあげられました。3DCGでモデリングされているものだけど、2Dの作画の動きと合わせたり、2Dと3Dの昼間を狙った質感といった話がされています。もう一つの例が、花のミシンです。雪の青い服を作っている場面ですね。ここのミシンが3DCGです。

小動物は、これは色々な所のが3DCGだったようです。まだアパートにいた頃のツバメ。引っ越した日に雨が驚いて怖がったヤモリ。同じシーンで雪が見ている蟻。家を修復している時に抜けた天井から落ちてくる虫。あるいはそこかしこに飛んでいる羽虫。蝶や蜻蛉。そんなのですね。特に虫は、田舎だからいるだろうということで、これを出すと出さないとではリアリティにずいぶんと差が出ただろうと話していました。

コンポジットのところでは、花のアパートの窓辺に並べられたグラスの合成の説明。グラスは家族の象徴的に描かれたそうで、しかし、この後の不幸な展開を暗示させるようなシーンになるように。グラスは3Dのモデルなんだけど、その質感はだから割りとクリアなきれいな物になるように、しかし色を落としてこの後を案じさせるような方向性にしたそうです。かなり素材を重ねて絵を作っていることが示されました。
あるいは雪が草平に秘密を打ち明けるシーン。ここで雪は涙を流しますが、その涙は作画だけど、窓から吹き込む雨による顔に出来た水滴はCGなのだそうです(涙をより印象的にするためだそうです)。そこはカーテンもCGで、そのカーテン越しに雪の皮膚が感じられるような微妙な重ね方を行っているそうです。
クモの巣の話はコンポジットの所でされたんだっけな。クモの巣が3DCGで、その背景の草が生い茂る風景は背景美術なのだけど、ほぼぼかしてしまうのに、きっちりと書き込まれた物が上がってきたそうです。しかし、だからこそ、ぼかした時にもそれが生きてくると話していました。クモの巣に水滴がついているわけですが、クモの巣の形が変わるような動きは、AfterEffectsのメッシュワープで2D的に変形したそうです。

そんなわけで、テクニカルな方向なお話のあと、総括として全体的な事が話されました。新しい表現に挑戦したとか、監督・スタッフ間の意識の共有とか。監督との打ち合わせは特定のスタッフのみで行われているから、まずそのスタッフが監督と意識を共有する。そしてそのスタッフがチームのスタッフに伝えるわけだけど、その際、みんなでミーティングを行ったのかな。これにより、自分の担当するカット以外のカットで何が求められているか知ることで、全体的な意識の統一をはかったって感じみたいです。なかなかうまくいったような雰囲気で話していました。

その後質疑応答がありましたけど、時間が押していた関係で一人だけ。
演出について監督からどの程度の指示があったのかと、素材を切り抜く作業の工数はどんなもん?という質問がされました。前者は、まぁざっくりといい感じでって所から始まって、実際に絵が完成してから、細かい指示が来るような感じでしたでしょうか。後者は、背景美術の絵をスキャニングする会社で、ざっくりとある程度抜く作業を行うそうです。その上で、細かい部分をデジタルフロンティアで抜いていったそうで。デモに用意されたカットでは1日程度と言ってましたでしょうか。

そんなわけで、非常に興味深いセミナーであったと思います。おおかみこどもの雨と雪の画面の密度の濃さのひみつの一端が分かったような気がしますし、考え方として非常に参考になる部分もありました。Softimageがまったく使われていないっぽいのが残念ですけどねw
あと、CGのPVで、井上俊之氏の線画が入っていたのもグッドです。くれ。

なお、来場者にはここ限定のカードが配られたり、いいものもらいました。

セミナーを主宰した方々、デジタルフロンティアの方々、どうもありがとうございました。
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