昨日のNHKFM吹奏楽のひびきは岩井直溥特集、その最初に流れたのは「ポップス変奏曲かぞえうた」でした。78年の吹奏楽コンクール課題曲、あまたある岩井作品の中でぼくにとって最も印象に残っている曲です。なにしろ、作曲者である岩井先生の目の前(4~5m先)で指揮をしてしまったのですから。そして演奏後先生から直接アドバイスをいただきました。
関西吹奏楽連盟が主催する課題曲講習会でのことでした。その年の課題曲はジェイガーの「ジュビラーテ」、マクベスの「カント」、上岡洋一の「行進曲砂丘の曙」、そして岩井先生のこの曲でした。講習会では先ず辻井市太郎先生が「ジュビラーテ」を解説、区切り区切りで講習に来ている指導者に指揮をしてもらう、という感じで進みました。それが終わって岩井先生が自らの曲を、最初から細かく演奏をまじえながら解説していきます。モデルバンドは陸上自衛隊中部方面音楽隊、場所はその本拠地である伊丹の駐屯地でした。
ジュビラーテでこちらで聞いている者にも指揮する機会が与えられることが分かって、かぞえうたでは絶対振ってやろうと、狙っていました。でも、ぼくはスコアを見るのがその時が初めてで、それまでに模範演奏のテープも一度も聴いていない。この曲は、変奏曲というだけあってテンポがコロコロ変わります。リタルダンドやアラルガンドもあって、初見で何の打ち合わせもなく初めてのバンド、いくら奏者はプロで十分練習をしていたとしても、かなり勇気のあるチャレンジになります。先生が解説している間、一時たりともスコアから目を離しませんでした。1時間弱、演奏を聴きながら頭の中で一心にシミュレーションを続けます。そして、解説が終了、だれか指揮をしてみませんかと岩井先生が声をかけてもだれも手を上げません。良識ある人なら、こんな曲を練習なしのぶっつけで振るのは絶対無理と思うはずです。そして、おもむろにぼくが手を上げました。それでは、と促されて指揮台に上がります。1時間前に初めて開いたスコアで初めてのバンドを、一切の打ち合わせなしにいきなり振る。無謀な若者の挑戦です。テンポの変わり目は特に気をつけながら無難にこなしていったのですが、最後のブライトロックに入るところではほとんどの奏者がついて来られませんでした。アインザッツの動きが速すぎた上にぼくは白いシャツを着ていて白い指揮棒を持っていたので、目が追いつかなかったようです。ただドラムセットの人だけがちゃんとついてきてくれたので3泊目くらいから全員が入ってきてそのまま続けることはできました。フィナーレのアラルガンドは指揮者と奏者の読みあい合わせあいでいきなりにしてはきれいに合わせられたと思います。フィニッシュの直後、思いがけず奏者のみなさんから大きな拍手をもらってどぎまぎしてしまいました。
今から36年前の初夏の出来事でした。