もう、2週間くらい前になるけれど、「名曲探偵アマデウス」のショスタコーヴィチ、第5交響曲には衝撃を受けた。この曲が、スターリンから大変な非難を受けた前曲(歌劇ムツェンスク郡のマクベス夫人)の汚名を返上するための改心の1曲であることは承知していたけれど、実際はそれだけの曲ではなかった。スターリンや周りのスタッフたちには大いに気に入られて名誉を回復することができたことは事実だけれど、ショスタコーヴィチはそれ以上の意味をこの1曲に込めていた。第4楽章の最初の有名なテーマはラレミファ(ナチュラル)で始まる。コーダの金管楽器の華やかなファンファーレもラレミファ#。このラレミファ#は歌劇カルメンのハバネラの中で使われている。アリアを歌うカルメンに群衆が合いの手を入れる「気をつけろ」。この「気をつけろ」がラレミファ#なのだ。気をつけろ=信じない。そしてコーダのラレミファ#のファンファーレのバックでは全員が「ラ」のユニゾンで8分音符を延々と252回も刻んでいる。「ラ」(A)は古いロシア語で「私」を意味する。作曲者自身もそのことを認めていたという。つまりこの曲の壮大なフィナーレで彼は「私は信じない、社会主義の理想を。私は信じない、スターリンの偉業を。私は信じない、スターリン主義という現実を」と叫び続けているのだ。それでいて、当のスターリンからは大絶賛されるような曲に仕上げた。
指揮者井上道義さんの言葉
「どんな時代に生きてる人でも、その時の枠というか、縛りがある。それを全部取っ払うのがアーティストなんだよね。彼は完全に自信があった。完全に自分の才能に対する自信が揺るぎのないものだった。」
ロシア文学者亀山郁夫さんの言葉
「彼が闘い獲ろうとしたものは、政治的信条、あるいは自分の生きている現実、体制に対する批判、そういうことを超えて、自分の芸術的個性をどこまで拡張できるか、与えられた条件の中で。そういう格闘そのもののプロセスがショスタコーヴィチのいわゆる信念だったと思いますね。」
指揮者井上道義さんの言葉
「どんな時代に生きてる人でも、その時の枠というか、縛りがある。それを全部取っ払うのがアーティストなんだよね。彼は完全に自信があった。完全に自分の才能に対する自信が揺るぎのないものだった。」
ロシア文学者亀山郁夫さんの言葉
「彼が闘い獲ろうとしたものは、政治的信条、あるいは自分の生きている現実、体制に対する批判、そういうことを超えて、自分の芸術的個性をどこまで拡張できるか、与えられた条件の中で。そういう格闘そのもののプロセスがショスタコーヴィチのいわゆる信念だったと思いますね。」