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土佐いく子の教育つれづれ~若者たちに武器より花を 花のある暮らしに癒されて

2022年07月19日 | 土佐いく子の教育つれづれ

■ふるさとの風景

 ふるさとの大河、吉野川沿いの村に生まれた。藍染のふるさとだ。土を耕し、土と共に生きてきた両親のもとで育った。
 桃源郷のように村のいたるところに花が咲く。田んぼの畦道や川の堤防には野の草花が一面に咲く。そこが私のふるさと。
 嬉しい時も淋しい時も、花にまつわる思い出がこの胸にいっぱい詰まっている。花が大好きだった母が、庭にも一面花を育てていた。その一つ一つにも思い出がある。
 そんなわけで、私はいつも季節と共に生き、花と共に生活しているという感覚がある。

■花のまわりに人の輪
 今朝は、ウォーキング帰りにホタルブクロを摘んでいたら、花好きの私にとアザミを3本摘んで走って届けに来てくださる近所の方がいる。ぬくーい気持ちが通い合う。
 帰って早速、すすきの葉を添えて生けるとたちまち心はふるさとへ。新しい風が身体の中に吹いてきて今日も元気!
 夫が畑から野ばらの白い花を持って帰ってくれた。こんな素朴で静かな花が好きだ。ふるさとの俳人、橋本夢道の俳句を思い出す。〝花茨釣れてくる鮒のまなこの美しきかな〟あの吉野川で釣った鮒だ。いっぺんに心が安らぐ。
 コロナ禍で外出が減り、講演などもズームで家から配信している。幸い朝早くからとび出して、夜遅くに帰るという生活でなくなった。朝は起きると鳥の声を聞きながら、育てている庭の花たちにご挨拶。水は足りているか、虫にくわれていないかと。あっ紫陽花につぼみがついた!初雪かずらに白い花が一輪咲いた!信州から連れて帰ってきたカワラナデシコがもうすぐ咲くわとわくわく!こんな一日の始まりで、血の流れが変わったと実感する。花が咲きいつ散ったかもわからぬような多忙な日々から少し放たれ、泰山木の花が咲いているのを見つけたら、とんで行って絵を描いてくる。
 先日、地域の九条の会の皆さんと久々に対面し、緑道をウォーキング。一つずつ花に足を止め、名前を紹介し、花にまつわる話などしながら歩いた。
「この花ね『ベンケイウツギ』って言うのよ。あの源平の紅白に因んでつけられたらしいよ」
 病気の家人の世話をしているという人は、摘んだ花を片手に「こんなに花に癒されたことは久しぶりです。ほんとにいい一日でした」と満面の笑みで帰って行かれた。

■コロナ禍の大学でも
 大学の講師になって14年、週1回大学へ。毎回欠かさずその日は講師室に花を生けて飾っている。時々花瓶の下にラブレターがはさまれている。
「お会いしたことはありませんが、この花と出会えるのが一つの楽しみで大学に来ています。この前のスイカズラ、うっすらとしたピンク色に見とれていました。花好きの仲間と出会えて喜んでいます。一度ぜひお会いしたいです」
 教務の人たちもいつも花を見に来て、花瓶を2つも差し入れてくださった。そんなご縁から、学生たちの話がよくできる関係になり、願ったり叶ったりだ。
 今、大学のキャンパスには珍しいチリアヤメがあちこちに紫の小さな花を咲かせている。一日限りの命を精一杯輝かせている。
 最近、若い人の建てた家を見ると土のない家が増えている。草を生やしたくないのだ。
 大学生もほとんど花の名前を知らない。いや花が咲いていても心が止まらないようだ。私は、大学通信に毎回花の絵を描いて話もし、時には実物も持参して見せている。
 コロナ禍で孤独感に陥り「なんだか生きているのが嫌になり、これから先、どう行きていけばいいのか不安ばかり。ふとした時に死にたくなったり…」こんなことを書いてきた学生が、半年後にはランニングを始め、先日は「公園を走っていたら、この前先生が教えてくれた花が咲いていて、なんか名前がわかると面白いですね」と書いてきた。身体を動かし、命ある花に心寄せ、顔を上げているではないか。
 花が美しいと思えない時、思わせない時、それは、戦争だ。若者たちに「武器より花を」と願う。
(とさ・いくこ和歌山大学講師)

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