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職責の限界に臨んだ職員の取り組みは圧巻だ――『生活保護物語』浦田克己著を読んで

2007年03月31日 | 書評・紹介記事

 「憲法守れ」の声は強くたくましい。聞こえてくる声は平和・人権の二本立てだ。憲法守るべしの声の主流はなんと言っても第9条擁護の運動であることは間違いない。そんな中、声すらあげる力も弱まった階層に長年寄り添い、憲法25条・社会保障の確立を実践してきたひとりの元ケースワーカーが生活保護行政と制度の危機に対して「もう一つの憲法も守れ」の声をあげた。それがこの『生活保護物語―〈落とし穴社会〉半世紀の現実から』である。
 著者は私の大先輩である。氏はこの『生活保護物語』の中でわが国の社会制度が実は「落とし穴社会」であることを看破し、見事に証明している。
 氏は大阪市の生活保護行政に27年間携わった。その間、全国を股にかけて公的扶助研究運動を進めてきた。いつも市民・被保護者側の視点であったため、国・行政との「取っ組み合い」を余儀なくされた。その「取っ組み合い」を通じて、市民・国民生活の「貧乏」から抜きがたい国家「社会保障」システムを小気味よく解明してくれている。それが第5章の「貧乏の責任」であり「貧乏の資格」であろう。貧乏はつくられる、貧乏の罠、貧乏の条件を経て、国家公認の「貧乏の資格」を証明するところは痛快でもある。
 本書は、自分史の体裁を借りてはいるが、副題にあるとおり、戦後の社会保障の凸凹面から新自由主義が台頭する今日まで、半世紀にわたる現実をおさえたエッセイ集になっている。60年を経、短い条文に凝縮された日本国憲法第25条が果たしてきた役割をケースワーカーが、現実の暮らしの中で、どのように行政に活かし、また、支配勢力からの制限とたたかい、跳ね返してきたのか、職責の限界に臨んだ職員の取り組みは圧巻でもある。
 社会保障、とりわけ、生活保護行政の分野の問題を一から学ぶものにとっても、多くの情報を体系的に入手できるという重宝な書物である。同時に社会福祉学、行政学からの理論的分析も加えられている。生活保護行政のみならず、社会保障全般にわたった現状と問題点、今後の改革のあるべき方向についても具体的に示されており、実践的な性格を持っている自治体職員、研究者に限らず、市民にも広く読まれることを切望している。 谷口積善(大阪自治体問題研究所・大阪市研究会)(『宣伝研究』2007年4月号書評欄より)

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最新刊『子どもはどこで生きる力をたくわえるのだろう』*――子どもの発達心理学  佐伯 洋 著

2007年03月21日 | 新刊案内

 佐伯 洋さん、久しぶりの新刊です。長年の教師生活と不登校・登校拒否の相談活動、そして綴り方の活動を通じて出会ったたくさんの子どもたち、父母たちの姿にご自身の体験をくぐらせながら思い至った、今を生きる子どもたちへの応援賛歌を綴られました。
 「閉ざされた心の扉をひらくカギは、閉ざされた心の内側にある。そして、自尊の感情は、他者を鏡として形成される。こうした滋味ある、深く共感する言葉たちを道しるべに、この1冊はうまれました」。(著者まえがきより)

『子どもはどこで生きる力をたくわえるのだろう』
*―――子どもの発達心理学
佐伯 洋 著
A5判 300ページ 定価1500円
2007年4月10日発売予定

●著者紹介
 佐伯 洋 (さえき ひろし)
 大阪市内で小学校教職経験を経て、大阪府立高校満期退職の後、千代田高校で非常勤講師。生活綴方なにわ作文の会委員。教育科学研究会常任委員。「大阪教育文化センター親と子の教育相談」相談員。大阪保育・学童保育運動連絡協議会常任講師。立命館大学文学部・京都府立大学などで非常勤講師。
 著書に『思春期反抗期』(日本図書館協議会選定図書)『たくましく育てる』『作詞法入門』詩集『よく似た日々のくりかえしだけれど』(いずれも日本機関紙出版センター)、『どーんとこい思春期』(たかの書房)、詩集『象の青い目』(編集工房ノア)。
 合唱組曲「光れ中学生」「おーい春」「いま生きる」(いずれも関西合唱団定期演奏会初演)などをはじめとする詩作。

●もくじ
    まえがき

第1章 子どもは途中を生きている
   ・こわい目になっていた
   ・子ども心の居場所
   ・つながりあう
   ・しなやかな心
   ・母と子
   ・水たまりに映っている夕焼け
   ・心の中の風景
   ・自分の存在の意味をさがす
   ・待つ人に与えられる喜び
   ・ほんとうの豊かさとは何だろう
   ・人の死、そして生きること
   ・コミュニケーションの楽しさ
   ・子どもは途中を生きている
   ・子どもの自立のステップは
   ・自己成長を対象化する

第2章 子どもが一歩前に出るとき
  
 ・生きることの味わい
   ・どんなとき生き生きするか
   ・同じ時代を生きる道ずれとして
   ・子どもの息づかい
   ・日々を生きる力と子どもの表現
   ・乳幼児期のあゆみ
   ・人間観をひろげる子どもたち
   ・他者との比較や評価のまなざしではない
   ・生きっぷりは書きぶりにあらわれる
   ・作品をどう読むか 
   ・子どもが表現するとき
   ・生きることへの弾み
   ・時代・歴史との出会い
   ・「いまの自分」は―
   ・子どもが一歩前に出るとき

第3章 子どもに寄りそう、子どもと向きあう
   【いま、新しい「荒れ」の中で見えてきたもの 座談会 Part.1】
   ・「学級崩壊」になりました
   ・教師と子どもとのズレ。私たちの「枠組み」が問われている
   ・新しい「共同」の芽生えをどこに求める
   ・「個」としての存在感を求めている
   ・新しい「荒れ」の背景にあるものは何か

   【「いじめ問題」と子どもたち 座談会 Part.2】
   ・子ども自身の自己イメージが低い
   ・競争原理が内面化してきている
   ・いじめの質が変わってきた
   ・ズボンを脱いで踊れ  
   ・痛めつけられているから痛めつける
   ・強者・弱者の構造はどうしてできる
   ・いじめの根っこに何があるのか
   ・人の心がわかるか
   ・自分を大事にしていない
   ・「お母さん、学校でいじめがあってん」
   ・いじめ克服の道はひらける

第4章 父母・教職員の共同を
   ・「違い」を認める
   ・納得のないところに共同は生まれない
   ・〝5日間連続〟が功を奏した
   ・共同の土壌を作る
   ・受難者が組織者となる
   ・共同の広がる可能性はどこに
    
第5章 子どもはどこで「生きる力」をたくわえるのだろう
    
・子どもたちの「不登校・登校拒否」が、私たちに語りかけるものは― 
  
 ・日本の子ども―国連子どもの権利委員会からの勧告
   ・人と関わる力、つながりあう力
   ・子どもの自己決定力
      ・ゆったり、ゆたかに光をあびて―   
   ・内面にイメージを描く力
   ・生き方を模索する力

    あとがき

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問合せ

 

 

 


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