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土佐いく子の教育つれづれ~若い看護師に元気をもらう 5日間の入院生活で

2020年12月23日 | 土佐いく子の教育つれづれ

 大型台風のニュースが飛び交うなか、私にとっても人生初の小型台風が飛び込んできた。

 なんと足を骨折したのだ。「左第五中足骨近位端骨折」という診断だった。大げさな病名だが、大したことはなかった。しかし、この部位は繰り返し骨折しやすいところなので、金具を入れて補強する方がいいというので、人生初の手術を受けることにしたのだ。担当医が、少年のような目をしているのが良かった。しかも男前だし…。

 入院、手術と言うので、周りはあっと驚いていたが、一応麻酔はしたが、簡単なものだった。目覚めたときは点滴につながれ、ギブスで固められていた。自分はあかんたれで、怖がりだと思っていたが、初めての体験に好奇心で興味が湧くから、我ながらおかしかった。

 多くの方とかかわって生活、仕事をしているので、いろいろご迷惑もおかけし、私の手術のニュースでずいぶん驚かせた。しかし、大したことなかったと知ると「松葉杖生活しばらく続きますね、松葉杖を振り回している姿が目に浮かびますよ」なんていうメールが届く始末。よし、それなら松葉杖振り回してる姿をラインで送ってやるか。

 4人部屋で5日間入院生活を送った。二人は認知症の80~90歳の方で、ずっと寝てばかりだ。自分の老い先のことなどもいろいろ考えさせられた。病室には、入れ替わり立ち代わり看護師がやって来る。その認知症の方のところには、三度の食事と下の処理。それに訓練士がマッサージにやって来る。親でもためらう下の処理を若い看護師が実にさりげなくやっている姿を見て頭が下がる。めまぐるしく一日中立ち働いている。看護師には流早産が多いというのも頷ける。

 私は、彼女たちの働きぶりをずうっと見させてもらい、多くを学ばせていただいた。

■患者の名前よび声をかける
 さて、その認知症の方は、寝てばかりで食事を口にしないのだ。一口二口無理やり口に入れられたものを飲み込むでなく、またすぐ眠ってしまうという始末。ところがある日の若い看護師の時は、いつもと違って食事が進むのだ。

 「山本さん、山本さん、おはよう、山本さん目開けて。聞こえる?山本さん朝ごはんだよ」と何回も耳もとで澄んだ声で呼びかけると、うっすら目を開け反応しているではないか。

 「山本さん、ごはん食べようね。じゃがいもだよ」と一つずつ食べ物の名前を言い「ハイ口開けて。ハイ噛んで。ほら飲み込んで。そうそう食べられたね」と繰り返し、根気よく呼びかけては食を促している。ずいぶん時間をかけ、単なる仕事の一つという風ではなく、この人に食を届けようと心から励まし続けている。うわあ山本さん、今日は自ら口を開け、食事をしているではないか。ほっぺたがうっすらピンク色になり血が通い始めたようにさえ思う。

 思わず私も「山本さーん今日よく食べたね。顔が元気になって、ほらあかーくなってきたよ」と声をかけると、目を開けて私の方に手を差し出すではないか。若い看護師に言った。

 「人間の声とか、言葉の力ってすごいよね。こんなに食べたの今日初めて見たよ。あなたが何回も名前を呼んであげたでしょ。その度にうっすら目を開けてた。食べ物の名前も言ってあげたから自分がこれから食べる物がイメージできて、その気になったのよね。口開けて、噛んで、飲み込んでと一つずつ動作を呼びかけ、根気よく誘いかけてあげたからよね。自分の親にこんなふうにしてくれてたらと思うと涙が出そうやったよ。あなたの声がとっても良かった。言葉も優しくて患者を元気にする魔法の力があったよ」

 若い看護師は笑顔を残して部屋を出て行った。爽やかな風が病室に吹いていた。

 人間の教育のありようを学ばせていただいた。

 この入院生活は、おかげで大した病気ではなかったので、ゆっくり読書し、絵も描き、この原稿も書いていて、初めての体験から多くを学ばせてもらった。健康自慢はせず、今も難病で苦しんでいる人の辛い日々に心寄せて生きたいと思う。

(とさ・いくこ和歌山大学講師)

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