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■科学技術ニュース■東大と農工大、光の電場の向きと波形の自在な制御に世界で初めて成功

2013-08-22 10:24:08 |    物理

 科学技術振興機構(JST)の課題達成型基礎研究の一環として、東京大学 大学院理学系研究科 五神 真 教授および東京農工大学 大学院工学研究院 三沢 和彦 教授らは、光を用いて、物質を分子原子レベルで操作するために重要な、光の持つ電場の向きと大きさの時間変化を自在に制御できる手法を、世界で初めて実現した。

 光は電場と磁場の振動が空中を伝わる波。一方、物質はイオンや電子からできている。光が物質に当たると、物質中のイオンや電子は光の電場に沿った方向に動かされる。

 この電場の向きや大きさを自由に変化させられれば、イオンや電子の運動を自在に操作できると考えられている。このような光を当てることで、物質の組成や構造を精密に分析したり、物質を光で変化させたりすることが可能となる。

 ところが、光の電場の向きと大きさの時間変化を完全に自在に制御するのは、技術の進歩が目覚ましい可視光の周波数領域においてすらこれまで前例がなかった。

 今回、研究グループは、テラヘルツ光を発生させるために結晶に照射する可視光レーザーの振動方向と振幅の時間変化を制御することで、目で見える可視光よりも100分の1ほど低い周波数を持つテラヘルツ光の電場の向きと時間波形を自在に制御することに成功した。

 また、目的のテラヘルツ波を得るために可視光レーザーパルスに必要な条件を求める逆問題を解くアルゴリズムも新たに考案した。

 今回の成果は、光を自在に制御する手法を開拓するという基礎的意義にとどまらず、テラヘルツ光の応用の可能性を大きく広げるもの。

 同研究は、東京農工大学の佐藤 正明 氏、東京大学の樋口 卓也 氏、神田 夏輝 氏の3名の博士課程大学院生(当時)が中心に連携協力のもとで研究を進めたもの。農工大で開発された、光波形制御技術を佐藤 正明 氏が東京大学に持ち込み、神田 夏輝 氏が開発したテラヘルツ波の偏光解析装置と組み合わせ、2人が中心になって実験を行った。東京大学の樋口 卓也 氏は、この研究の重要な要素である波形制御法の理論の構築と、波形制御アルゴリズムの開発を担当した。

 今回の成果は、光を自在に制御する新しい手法を考案し、それを実証したという基礎的意義にとどまらず、テラヘルツ光の応用の可能性を大きく広げる成果。電場の向きや時間波形が自由自在に設計されたテラヘルツ電磁波を使うことで、材料科学・生体分子計測・電波天文学などの基礎学術分野から情報通信・環境計測・医療診断などの実用分野に至る幅広い分野で活用の自由度が飛躍的に広がるものと期待される。現在、光パルスの極短化の研究が加速して進んでおり、この手法はテラヘルツにとどまらず、可視光までの広い周波数帯域に、今後活用されると期待される。


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