何度も台風の文字が飛び交った日。ワンシーンを思い出した。兄たちは雨漏りを見つけては競って洗面器やバケツを置いた。母は、急いで晩御飯を作った。幼い私は「お父ちゃん~」と何度も格子戸を開けて叫んだ。
父は、雨戸に板を打ち付けたり植木を縛ったりして激しい台風に備えていた。次第に雨が横殴りになり雷が鳴り始めた。
落ちないだろうか。飛ばされたらどうしよう。落ち着けない私に父は「家の中にいなさい」と促した。暴風雨の度に古い家はガタガタと揺れて恐ろしかったが、父が傍に座っているだけで、安堵感の方が大きかった。
宮崎市 津曲久美(61) 2019/11/14 毎日新聞鹿児島版掲載
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