はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

その日まで

2016-08-18 04:54:18 | はがき随筆
 心筋梗塞になったのは4年前。東日本大震災の翌年のことだった。胸に激痛があり、救急車で搬送され命を救ってもらった。まさか自分が、と戸惑った。東北の被災者に対し同情があったが、どこか他人事であった自分が、命の瀬戸際までいった。それからはいろんな風景の見え方がちがう。いつか自分にも終りが来ると、今は実感できる。予告なく突然くるその日まで、一日一日充実させようという気持ちになれた。これは家族といえども健康な人には分かってもらえない。仕方がない。幼い娘には言葉ではなく、日々の過ごし方で示せればと思っている。
 出水市 山下秀雄 2016/8/16 毎日新聞鹿児島版掲載

豊かさとは

2016-08-18 04:44:27 | はがき随筆
 ふるさと紫尾の麓は、見上げれば真っ青な空とギラギラの太陽。おばあさんが「こら学校がなくなって、プールからコドンの声がヒッキエテトゼンネなったな~」と話し掛けてきた。活気に満ちていた母校はこの春閉校し、若い人が子育てできる環境がさらに遠のいた。仕事を求めて町に移り住む人が相次ぎ、店も若者の姿も消えた。あと何年集落はもち続けることができるのか。地方再生と子育て支援を掲げているが、学校が消えてはムイかな~。本当の心豊かな地方再生が、ほしいが、ここにはコンド~? ウンダモシタ~ン、ウンダモシタ~ン。
 さつま町 小向井一成 2016/8/13 毎日新聞鹿児島版掲載

消し炭

2016-08-18 04:37:04 | はがき随筆
 「たかこー、すみを食おうや」。2歳上の従妹ははんてんの袖の中に炭を忍ばせて私を誘った。小学校に上がる前だった。1人で留守番をしている時が炭を食べられるチャンスで、従妹は見計らったようにやってきた。炭と言っても木炭は貴重品であったから、台所の煮炊きに使った残りの消し炭である。
 薪に使う木の種類によって堅さ柔らかさの違いこそあれ、味らしきものはなかったと思う。歯や口の周りが黒いままのとき、親に見つかったら叱られた。
 時は流れ、世間で炭を料理に使っている。私たちは既に食の先端を行っていたのだ。
  薩摩川内市 森孝子 2016/8/14 毎日新聞鹿児島版掲載

風が好き

2016-08-18 04:28:05 | はがき随筆
 今や冷房なしには生活できないが、長時間の冷房で体調を崩すこともある。こまめに温度調節しないと夏風邪もひくし……。
 3月から高架橋化されたのに伴い、冷暖房完備、エレベーターも設置された慈眼寺駅を利用した。外は熱いので冷房の利いた階段下にしばらくいたが、列車の到着時刻が近づいたのでプラットホームに出た。
 まあ、涼やかな風が吹いている! 二階建の家をも見下ろせる高い場所で、四方の風が相乗して醸し出した、いい風に巡り合った。やっばり自然の風が最高。
  鹿児島市 馬渡浩子 2016/8/15 毎日新聞鹿児島版掲載

「屋」の技で

2016-08-17 21:03:28 | 岩国エッセイサロンより
2016年8月16日 (火)
    岩国市  会 員   片山 清勝
 「今の時代『や』ではやっていけん」という店主。「や」を聞き返すと「屋」だという。
 本屋、肉屋、呉服屋、薬屋、時計屋、傘屋、まだいくつもあるが、昔からの店は商売内容の次に屋をつけて呼んでいた。そんな商店街をひっくるめた大型店舗が郊外にいくつも進出する。それに連れて客は減り閉店は相次ぎ寂れていく。
 動かなくなった時計を持ち込む。しばらく眺めて「修理、やってみましょう」と店主は笑顔。「屋」ならでこその積み重ね磨き上げた技術が戸閉(とだて)の奥に潜んでいる。これをシャッター開けの鍵にして盛り返せ。
  (2016.08.16 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

命日の墓掃除

2016-08-15 16:53:20 | 岩国エッセイサロンより
2016年8月15日 (月)
      岩国市   会 員   片山清勝

 私は両親と祖父母の命日前に墓掃除を欠かさない。墓参りも年に十数回は行く。ことしは祖母の命日の前に都合がつかず、当日の朝早く出掛けた。「おばあさん来たで」。墓に向かって語りかけて掃除を始めた。蒸し暑い日で、すぐに額から大粒の汗が流れ出て目に入る。拭っていると、あの日に大汗をかいたことを思い出した。
 それは60年以上前のこと。小学6年だった時、病気で伏せていた祖母の容体が急変した。私は、仕事から帰っていた父の言い付けで、出先にいた母に連絡するため出掛けた。ようやく乗れるようになった父の自転車をこいで急いだ。
 私から祖母の様子を聞いた母は出先の車で家まで送ってもらったが、私は来た道を再び自転車で帰った。家に着くと、「雨に降られたか」と言われるほど、汗で全身はびっしょり。往復とも夢中で自転車をこいたためだ。その晩、私は初めて、人の臨終に直面した。
 祖母のことしの命日に掃除を終えた時、黄色いチョウが墓の上を飛んだ。祖母が「ありがとう、安心した」と伝えによこしたのだろう。家を継いで半世紀。父の享年を20年超えた。先祖の墓守は、私ら夫婦の当たり前の日常になった。

     (2016.08.15  中国新聞「洗心」掲載)

カヌー銅 感動の光景

2016-08-15 16:52:33 | 岩国エッセイサロンより
2016年8月14日 (日)
   岩国市   会 員   片山清勝

 リオデジャネイロ五輪で日本選手のメダルラッシュが起きている。中でも興味が湧いたのは、日本の五輪カヌー史上初めて表彰台に上がった羽根田卓也選手だ。
 羽根田選手は北京五輪では予選敗退、ロンドンでは7位、そして今回、男子カナディアンシングルで銅メダルを手にした。3位決定の瞬間か印象深い。
 羽根田選手は、カヌーの上で感無量の涙を、はばかることなく拭い始める。他の競技のように、祝福に駆け寄る人はいない。
 すると幾艘ものカヌーが静かに近づき、羽根田選手を笑顔で祝福した。
 これまで、五輪で多くの場面を見てきたが、今回の外国人選手たちの祝福の場面には胸が詰まり、これぞ 五輪と感じた。
  カヌーの本場スロバキア に単身で渡って苦節10年、世界中の多くの選手と交流を重ね競い合ってきた。
 そこで培ったパドルさばきが初のメダルをもたらした。今後の日本カヌー界の流れをつくってほしい。

     (16.08.14 中国新聞「広場」掲載)

葉月

2016-08-12 07:11:57 | はがき随筆
 手塩にかけて育てたトウモロコシを収穫して、うなぎ温泉に出かけ、知人のスメ(温泉の蒸気釜)に入れてもらう。待ち時間は共同温泉へ。手足を伸ばせば「ヒヤー、よか風呂じゃー」。近ごろは年のせいか、湯水が体の中に染み込んでくるようなあんばいがする。かの大西郷どんも、狩りをしながら県内の温泉地を訪ね歩いたとか。なんだかわかる気がするなあー。
 湯上りにトウモロコシをいただく。神秘の湖面をホトトギスの声が渡る。年に一度の幸せな時が流れる。
 「森と湖のうなぎの里はお湯と人情と山ホトトギス」
  指宿市 有村好一 2016/8/12 毎日新聞鹿児島版掲載

落選

2016-08-12 07:05:15 | はがき随筆
 返信はがきが届いた。「抽選の結果落選」とある。あ~あ、がっくり! 「NHKラジオ深夜便のつどい」の公開収録が霧島であると知り、早速観覧希望のはがきを出したのですが……。希望者は800名を超え、申込番号48番とある。この数字から推察するに、なんと眠られない高齢者の多いことか。かくいう私も、2.3時間ことに目覚めてしまう。若い頃はどこででも寝られ、一旦眠りにつけば朝までグッスリだったのに……。生きるとはよく食べよく眠ることだとすれば「やんぬるかなわが老年よ」である。うまい物食べてフテ寝でもしようっと。
  霧島市 久野茂樹 2016/8/11 毎日新聞鹿児島版掲載


米とぎ

2016-08-10 06:13:29 | はがき随筆
 あちこちに、米のおいしい食堂がある。私は「この米の産地はどこですか?」とか「何回米をとがれるんですか?」と、よく尋ねる。たいがい教えてもらえる。地元産が多いようだ。とぐ回数はそれぞれ違う。
 私は10回とぐ。妻は4、5回とぐ。「あなたがといだ方がうまい」とニヤッとした妻は言う。妻の作戦か……。米とぎの回数は短歌や卓球の仲間でも一人一人違う。10回は多いのかな。栄養面では何回がいいのだろう。
 米とぎの回数は、各家庭で違い、家庭の歴史や、文化ではないだろうか、と私は思う。
  出水市 小村忍 2016/8/9 毎日新聞鹿児島版掲載

田んぼ談義

2016-08-10 06:04:55 | はがき随筆
 自宅近くに祖先から譲り受けた7㌃の迫田がある。超湿田で、4~5回排水工事をしても乾田にならない。6月、田植え準備で大型トラクターを入れ耕耘しようとしたが深みにはまり、引き上げるのに多くの人から手助けをもらった。
 毎年人に世話をかけると夫婦喧嘩です。農道から見ていた故生駒則雄さん、そん田んぼは夫婦の「喧嘩坪」じゃと命名したのです。今年もその様子が実現した。全くじゃ、字名を「喧嘩坪」に直したらよかどなー。
 人の声のしない静かな田んぼ、今年は休耕になってしまいました。
  湧水町 本村守 2016/8/10 毎日新聞鹿児島版掲載

こころの日記帖

2016-08-10 05:08:34 | はがき随筆
 私が初めて「はがき随筆」へ投稿したのは平成15年1月である。最初は不慣れで、毎月投稿してよいことも知らず、その年は2本しか投稿していない。
 翌年からは要領が分かり、毎月投稿していたところ、8月に投稿した「母の日記」が月間賞に選ばれ盾をもらい、初受賞を家族みんなで喜んだ。あれから14年、「はがき随筆」に魅せられて掲載されたのが先月まで123本になった。平成22年には「つれづれに」と題して冊子にし、教え子たちに贈呈した。作品を読み返してみると、どれもこれも私の「こころの日記帖」となっている。
  志布志市 一木法明 2016/8/8 毎日新聞鹿児島版掲載

石文

2016-08-10 04:58:40 | はがき随筆
 洗濯前にはポケットをひっくり返しているが、急いでいると忘れてしまう。そういうときに限って子供のほポケットには何かが忍んでいる。木の実や折り紙、友達からのプレゼント。それぞれに理由があり、物語があり、宝物である。 ひところ息子のポケットには石が詰め込まれていた。何の変哲もない路傍の石だったが、あれは一種の石文だったのかもしれない。まだ言葉もままならず、伝えるすべのなかった息子は、感じたことを小さな石に託したのかもしれない。腹立ち紛れにプランターに捨てた石たちを、今は懐かしく眺めている。
  鹿児島市 堀之内泉 2016/8/7 毎日新聞鹿児島版掲載

太郎とオバマ

2016-08-10 04:52:35 | はがき随筆
 JR渋谷駅を出た連絡通路にその壁画はある。10年前の設置に若干の支援をし、思い入れが強い岡本太郎氏の「明日の神話」。東京出張は日帰りが多くここまで足を延ばせず、5月上旬に初めて作品の前に立てた。
 縦5.5㍍、横30㍍の巨大なスケールで迫ってくる。中心部の白い骸骨図が、原爆の凶々しい破壊力を印象付ける。同時にそれと拮抗する、人間の誇りと燃えあがる憤りを感じさせる。
 「広島と長崎は核戦争の夜明けではなく私たちの道義的な目覚めの地」。5月27日のオバマ米大統領所感をテレビで聞きながら太郎の壁画を思い返した。
  鹿児島市 高橋誠 2016/8/6 毎日新聞鹿児島版掲載


理髪店

2016-08-10 04:33:59 | はがき随筆
 主人の長年行きつけの理髪店。惜しまれながら廃業された。
 黙って座ればほどよい刺激と心地よいハサミの音で、肩をたたかれるまで熟睡。「おまかせ」と言って座り、眼を覚ますと、流行のもみあげつるつる。恥ずかしいと思ったのか両手で隠し気味に帰って来た。さすがプロ。年や髪の量に合わせた髪形に仕上がっている。
 本人は少し不眠気味だが、昔から職人にたたきあげられた腕の持ち主はいないものか。カミソリを、革のベルトで裏表すべらせたり、顔一面せっけんの泡と熱い蒸しタオルでふきあげた光景がなぜか懐かしい。
  阿久根市 的場豊子 2016/8/5 毎日新聞鹿児島版掲載