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はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

2号と共に

2007-10-08 15:32:37 | はがき随筆
 吹く風に心が揺れる。D・Mと別れようか、関係を続けようか、と。D・Mには多少お金がかかるが、容姿は端麗で性能もいいので愛着がある。妻に「D・Mはどうする?」と聞くと「私はもう……。でも……あなたに任せる」と小声で言って寂しく笑う。
 身障者の妻の真意を察し、D・Mを古巣で診てもらう。翌日帰ってきたD・Mのヘッドライトが「ありがとう」と言っているように見える。磨かれた車に妻の顔がほころぶ。
 ダイハツ・ミラは、妻の心の支えとして、私の2号車として活躍するだろう。車検に出して本当に良かった。

   出水市 清田文雄(68)2007/10/8 毎日新聞鹿児島版掲載

川の流れと共に

2007-10-07 18:46:27 | はがき随筆
 畑でいぶかしそそうに女性が私を見ている。「こんにちは。川ん写真撮いげ来ました」と話すと、安心してくわの手を休めた彼女は橋の名を教えてくださった。「元気そうで、よか顔色ですね。失礼ですが何歳ですか?」と聞くと「82にないもした。今、水害はなかんが、前ん湯之元じゃ大雨んとき、水ぃ浸かっ大変じゃした。いっまっ生きらるっか分からんが、畑作いをしっ、川でん眺めっ暮らしもそ」と語られる。私はキュンとなり「心配じゃしたな。いっまででん、長生きしゃんせ」と言葉が出た。川と共に生きた人生と、土の香りが、彼女から漂っていた。
   出水市 小村 忍(64) 2007/10/7 毎日新聞鹿児島版掲載

母の味

2007-10-07 14:36:47 | はがき随筆
 子供のころの懐かしい味は、やはり母の手作りのみそ汁だ。9月中旬、風が涼しくなったら1週間にわたるみそ作りのはじまり。蒸した麦と麹を混ぜ、木箱いっぱいに広げ発酵させる。3日ほどすると独特の甘い香りが部屋いっぱい漂ってくる。発酵が進むと表面が真っ白になり、麹の花がつく。この花次第で味が決まるため、母は夜中も起きて布団をかける。最後は大豆をつぶし、塩と混ぜてできあがる。
 「みそが良くできました」と氏神様に合掌する母。小さな手で母と一緒に拝むわたし。あの懐かしい味にもう一度会いたい。
   出水市 橋口礼子(73) 2007/10/6 毎日新聞鹿児島版掲載

暑さ寒さは…

2007-10-05 22:56:14 | アカショウビンのつぶやき
 「暑さ寒さも彼岸まで…」と我慢してたのに、今年の暑さは何時まで続くのだろう。
温暖化の影響なのだろうか、公園の桜が咲いて驚いていたら、我が家では「はなもも」が咲き始めた。
春は濃いピンクだが、なぜかうすいピンクの花が開いた。

夏のはじめ「はなもも」の鉢にトレニアが芽を出し、ちょっと油断してる間に「はなもも」よりも伸びてしまった。かきわけて見ると葉が落ちてひょろひょろになっている。慌ててトレニアを引き抜き肥料を与えて様子をみていると、葉っぱだけでなく蕾までつけてくれた。春のように枝にびっしり咲く様子はないが、葉のかげに楚々と咲く姿が奥ゆかしい。

彼岸花も盛りを過ぎて、葉っぱがそろそろ芽を出し始めた。昼間は30度を超す真夏日だけれど、季節はもう秋…、今日は「ジョウビタキ」らしい声も聞こえてきた。「サシバ」の渡りも始まったのだろうか。
かすかに聞こえる虫の声が秋を呼んでいる。そろそろPCの壁紙も秋に模様替えとしよう、さてどこの紅葉を選ぼうかなあ……。


学友との出会い

2007-10-04 12:44:05 | はがき随筆
 2泊3日の充実感あふれる旅行だった。大学の通信教育でのスクーリング時の学友二十数名。琵琶湖での再会であり、琵琶湖とは初めての出会い。自分自身の感動が今でも続いていて、不思議に脳裏に焼き付いている。
 誕生日祝いにとハンチングと広い葉にサイン入りのプレゼント。葉には丹念に「昭ちゃんと出会えてよかったです」「昭ちゃんいつまでも元気でね」。一言一言が私を勇気づけてくれる。
 帽子は愛用としてずーっとかぶっている。葉は宝物として仏壇においてあり、朝夕読むたびに、次の再会に心を一層弾ませてくれる。
  出水市 岩田昭治(68) 2007/10/4毎日新聞鹿児島版掲載

彼岸花の咲く頃

2007-10-03 17:18:47 | はがき随筆
 庭に彼岸花が咲き乱れ、秋を告げる9月の末。いつものように4時前に起き新聞を読んだ後、投稿のはがきを持って外に出る。この時期の5時半はまだ薄暗く、星がいくつか空にまたたいている。しばらくすると東の空が少しずつ明るくなる。海の向こうの空を見たくて海岸まで車を走らせる。雲がほとんどなくて、空が虹のように美しく染まる。
 西空を見ると立待の丸いふくらんだ月がまだ黄色に光っている。風がさわやかで波がにぶい藍に染まる。秋の夜明けのひととき。いつもながら美しい自然を満喫する。
   志布志市 小村豊一郎(81) 2007/10/3 毎日新聞鹿児島版掲載

生きてますよー

2007-10-02 23:14:38 | 女の気持ち/男の気持ち
 毎日新聞の「みんなの広場」で、他人からおばあちゃんと呼ばれ不快だったとの投書を読んだ。思わず笑ってしまったが、確かに孫からは「おばあちゃん」でも、他人からは言われたくない。同じ言葉でも意味が違う。
 子のない私たちは、当然のことだが爺、婆と言われたことがない。孫もどきの甥の子供たちも、甥夫婦と同じく「伯父さん、伯母さん」と言う。近所の子供たちには「うえにっちゃん」「おじちゃん」と呼ばれている。したがって、いつも若々しい気分になれてうれしい。
 ところが1人だけ、私を「ばあちゃん」と呼ぶ人がいた。ご近所T家のお姑さんである。
 会えば、「ばあちゃん、元気してたあ」と声をかけてくれる。当初はびっくりした。が、ご自分がお孫さんからそう呼ばれるから自然体で同世代の私にそう言うのだと、あきらめた。
 ゴミ出しの日の朝、私は台所で洗い物、夫は外回りを掃いていた。そこへ通りかかったお姑さんの声。
 「もうだいぶばあちゃんと会わんけど、元気かねえ」
 「あ、ばあちゃんねえ……死にました」
 私のこととは思わず、先ごろ逝った母と勘違いした夫にうれしくなり、飛び出して叫んだ。
 「わたし、生きてますよー」
   北九州市 上西愛子(77) 2007/10/2 
   毎日新聞鹿児島版「女の気持ち」掲載

歌声に抱かれて

2007-10-02 22:58:19 | はがき随筆
 夫が逝ってから一層、不眠症に悩まされてきた私だが、最近、石原裕次郎のCDを聞きながらだと、いつしか眠りに落ちることを発見した。というのも、夫の声と裕次郎の声が似ているのだ。夫はいい声の持ち主であった。お見合いの時に、その声にひかれたような気がする。よく響くすがすがしいこえだった。裕次郎と共にあった私たちの青春。夫とよく「夕陽の丘」を歌った。その時には、裕次郎の声と似ているなど思いもしなかった。だが今、夫だか裕次郎だか分かちがたい声に抱かれて恍惚となって眠りに入ってゆく。
   霧島市 秋峯いくよ(67) 2007/10/2 毎日新聞鹿児島版掲載

ハーモニカ

2007-10-01 16:09:09 | はがき随筆
 ハーモニカに魅せられたのは中学1年の時。担任のN先生が2本も使って〝ドナウ川のさざなみ〟を演奏されたのだ。その美しい音色に感銘し、いつか自分も吹いてみたいと思った。
 あれから43年。市民講座で学び、N先生のようにはいかないがハ長調の楽譜ならいろいろな曲を吹けるようになった。うれしくて兄に〝赤とんぼ〟を吹いてみせると「自分も吹ける」と童謡から演歌までいとも簡単に吹く。兄にそんな芸があったとは……。
 上手下手はともかく、誰にでも吹けるハーモニカはいい。
 N先生ありがとうございました。
   鹿屋市 田中京子(56) 2007/10/1 毎日新聞鹿児島版掲載