はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

月影

2007-10-30 08:03:26 | はがき随筆
 縁先のお供え物を、百日草の枝越しに十五夜の月影が照らしています。彼岸花の茎元から鈴虫の競演が聞こえてきます。思い巡らせば昭和23年、就職列車にゆられ北九州の履物問屋に住み込み店員として就職、夜は夜間部の高校に通学していました。行き帰りの道でいつも疲れた体を優しくつつみ癒してくれた月影。倉庫の屋根裏の小窓から差し込む月影を眺めて、ふるさとが恋しく懐かしく涙ながら口ずさんだ歌の数々。五十余年過ぎた苦境の日々が昨日のごとく思い浮かんで参ります。今夜この名月に庭先の桃源郷で浸れることに改めて感動することでした。
   鹿児島市 春田和美(72) 2007/10/30 毎日新聞鹿児島版掲載