面白いこともあるものだ。息子が家を離れるたびに小動物が現れる。最初は6年前だった。
就職で彼が独り立ちした4月のある朝、入れ替わるようにツバメの若夫婦がやってきた。1人暮らしの家の玄関先だけが急ににぎやかになった。
「新しい入居者を紹介します」
写メールを送ると、すぐに返信があった。
「仲良く暮らすように」
そして今回。突然の移動で慌ただしく出発することになった前夜のこと。帰宅するなり、靴も脱がないうちに息子が弾んだ声で言った。
「夕べ、とってもいいものに会った」
深夜の風呂場で、小さなヤモリに遭遇したのだという。
「どんなの」
「灰色のかわいいやつだよ」
何気なく視線を動かした息子が、小さいけれど、はしゃいだ声をあげた。
「あっ、あれだ、あれだよ」
つられて玄関の天井の隅の暗がりに目を凝らすと、小指ほどの大きさのものが逆さまになってゆっくり歩いている。
「ヤモリがいる家に、悪いことは起きないっていうからね」
息子は安心したように顔をほころばせた。
うちにもちゃんといたんだね。ヤモリ君、末永くよろしくね。私も嬉しくなって、一緒に笑った。
鹿児島市 青木千鶴 2010/10/30 毎日新聞女の気持ちより 写真はフォトライブラリより
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