水俣病の被害者救済を巡って先週「熊本県内の救済対象地域の外に住んでいた3761人が救済された」という生地が載っていた。熊本県は「大概地域の外側でも申請を呼びかけ、1人でも多く救済しようと取り組んだ結果だ」と、この数字を肯定的にとらえている。これに対し、被害者団体は「水銀に汚染させた魚は海の中を自由に動き回るのだから、そもそも対象市域かどうか線を引くこと事態がおかしい」と反論していて、議論がかみ合っていない。
「救済対象地域」とは何か。2009年に成立した水俣病被害者救済特別措置法(特措法)に基づく救済制度は、原因企業・チッソ水俣工場のあった熊本県水俣市を中心に、熊本県内の3市町の全域または一部を「対照し地域」に定めた。これらのエリアでは水銀汚染魚を通じて、通常以上の水銀を体内に取り込んだ可能性があるというのが理由。具体的には過去に水俣病認定患者が存在した地域が対象になった。
地域外からも申請はできるが、水銀に汚染された魚を多く食べたことょ証明しなくてはならない。1956年の水俣病公式確認から来年で60ねん。当時の食生活を証明するのは簡単ではなく「半世紀前の魚屋の領収書を持ってこいということか」などと新生社が反発したのも無理からぬことだろう。熊本県内では、対象地域内の申請者の90%が救済されたが、地域外は64%だったという。
御名町病は被害がどこまで広がって、患者が何人いるのか、実はいまだにはっきりしていない。今の救済制度から漏れた住民1001人がいま国や熊本県、チッソを相手に熊本地裁で裁判を起こしているが、この中には鹿児島県内の原告348人が含まれている。私はたまたま特措法が成立したころ水俣で勤務したが、水俣病問題は解決から遠いという気が今もしてならない。
鹿児島支局長 西貴晴 2015/8/31 毎日新聞鹿児島版掲載
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます