はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

必達

2015-07-26 17:51:04 | ペン&ぺん

 東芝の水増し会計問題で先週、歴代3社長がそろって辞任した。記者会見で現社長は「140年の歴史の中で、最大ともいえるブランドイメージの毀損があった。一朝一夕では回復できない」と述べ、事態の深刻さへの認識を示した。
 「140年の歴史」というのは1875(明治8)年、電信機の受注拡大に伴い、銀座に工場を設けた旧田中製造所の創業が始まり。やがて「芝浦製作所」と改称し、同じ三井財閥の中野東京電気と合併して「東京芝浦電気」へ、さらに1984年に「東芝」に社名を変更した。グループ売上高6兆5000億円超、従業員約20万人というから、日本を代表する大企業の一つには違いない。
 かつて日本一といわれた三井三池炭坑があった福岡県大牟田市で私は勤務したことがあるのだが、鉱山機械を作る地元の三池製作所と並んで東芝の名前は知られていた。石炭で日本のエネルギー供給を担った三池炭坑と、同じ三井グループの中で炭車製造や電気部門を担当した〝東京・芝浦製作所〟。こんなイメージで周囲の人は親近感を抱いていたように思う。
 そんな歴史のある企業でなぜ巨額の水増しが起きたのか。第三者委員会は「長期的な視点ではなく、当期利益至上主義から『チャレンジ』という収益改善の目標値が示され、損失先送りなどを行わざるを得ない状況に追い込まれた」などと指摘している。記者会見で社長は「チャレンジという言葉ではなく『必達目標値』という言葉を使っていた」と述べたが、社長から「必達」と言われて誰が逆らえようか。
 「組織の三菱、人の三井」と言われることがある。今回の第三者委は提言で「上司の意向に逆らえない企業風土を改革する」ことを挙げている。トップの暴走を止める人材を誰がどう育てるのか。今回の問題はこんな問いを投げかけているようにもみえる。
 鹿児島支局長 西貴晴 2015/7/26 毎日新聞鹿児島版掲載


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