はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

大賞

2015-07-11 11:54:15 | ペン&ぺん

 九州・山口の毎日新聞地域面に掲載している投稿コーナー「はがき随筆」で、鹿屋市の森園愛吉さん(94)の作品「愛妻」が最高賞の大賞に選ばれ、このほど北九州市で表彰式があった。掲載総数は各県・地域合わせて年間7000編以上。採用されなかった作品を含めれば膨大な数に上る投稿の中で、昨年のナンバーワンに輝いた。
 森園さんの作品は、26年前に病に倒れた妻への思いがテーマだ。再掲をお許しいただきたい。
 《61歳で倒れ、右半身重度まひ。孫子と平穏円満に暮らそうとした初老の妻はその時、人生の全てを失った。16年間みてきたが、体力の限界を感じ「すまん」と思いながら施設にお願いした。施設に遺し、別れに人知れず目頭の潤むのを覚えた。それから26年、87歳。施設の暮らしも10年が過ぎた。語らいも笑いもなく、心通う潤いもない砂漠に呻吟起居する妻の病状は静に信仰。誰だかも分からず、ただ生命があるだけ。子どももそれぞれ安定してこれからこそが本当の人生であったが、一瞬にして暗闇に転落した妻。限りない不憫の情、その果てを知らない。》

 審査にあたった芥川賞作家の村田喜代子さんは「『苦』も語らず、『悲』も語らず、病妻への不憫に凝縮した文体の格調に心打たれる。老いて揺るがぬ人間の尊さが短い文章に光っている」し評した。老いや病は誰もが通る。長い夫婦の道のりを正面からつづった作品だ。「その果てを知らない」という最期の一行に私も強い印象を受けた。
 はがき随筆はわずか252文字(14字×18行)の中で、暮らしの中の印象的な出来事や、人生の喜怒哀楽をつづるコーナー。表現技術も大事だが、なにより心のこもった作品を期待したい。どなたでも参加できます。多くの方の投稿をお待ちしています。
  鹿児島支局長 西貴晴 2015/7/6 毎日新聞鹿児島版掲載

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