病院の待合室で

　テーブルマジックを少々たしなむ私は、先日病院の待合室で、母親に連れられた隣の男の子が退屈してぐずり始めたので、思い切って話かけてみた。「マジックを見せようか」。男の子は私の顔を見上げてから、母親を見た。「よかったわね、見せてもらいなさい」。私はポケットから五百円玉を取り出し、右手の親指と人差し指にはさんでみる。「よく見ていてよ」。五百円玉を左手に渡して手を広げるが空。左手の裏をみせるがない。そして男の子のポケットから出してみせた。男の子は笑顔で手を振り診察室に向かった。何かいい事をした気分。

　鹿児島県西之表市　武田静瞭(８２)　2019/10/10　毎日新聞鹿児島版掲載

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