はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

いつかいいことが

2009-11-12 22:59:53 | 女の気持ち/男の気持ち
 「オレは子供は作らん。オレみたいな子やったらかなわんから」
 そう言っていた息子から
 「子供ができました」と電話がかかってきた。そうか、君も人の親になるか……。さまざまな出来事が胸をよぎる。
 登校拒否、昼夜逆転の生活、高校中退、引きこもり……。彼は全く予想もしなかった方向に進んでいった。親としてどう動けばいいのか、夫婦げんかもしたし、公的機関に相談に行ったこともあった。
 後に息子が「あのころ、いつお母さんが殺しに来るのかと不安だった」と語った。意外だった。敵意むき出しの眼光で親をにらみつけていた息子が…。
 幸運だったのは、恋人であり、一番の友達である女性と出会えたことだろう。
 通信制の高校を経てコンピューター専門学校に通い、資格も取った。でも自分はやはり肉体労働が向いているからと、さらにクレーンの国家資格を取り、現在の会社に正規採用されるに至った。そばにはいつも彼女がいてくれた。今は息子のお嫁さんとなった彼女の母性が、きっと私より勝っていたのだと思う。
 「あのころの自分の心がよう分からん。違う人格に乗っ取られていたようだ」と当時のことを恥ずかしそうに話した息子。
 さて、これからは彼の子育てぶりをとくと拝見させていただこうか。ちょっぴり意地悪心さえ起こる余裕まで出てきた私である。
 長崎県東彼杵町 杉本共子・56歳 2009/11/12 毎日新聞の気持ち欄掲載


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