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はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

薩長戦

2020-05-15 20:37:22 | はがき随筆
 今を去る30年ほど前にその戦いは始まった。いえ薩摩と長州じゃなく薩摩と長野の文化戦。
 始まりは白みそと赤みそ。薩摩の白みそに対し家内は長野の赤みそ。激しい口論が毎日……。やっと和解したと思いきや絹と木綿に飛び火。夫の木綿に対し絶対に豆腐は絹と言い張る長野。戦いは双方とも疲労に負けて休戦模様。
 しばらく小康状態が続くも昔、薩摩になかった豆腐で再燃。今度は黙って食卓に納豆を出し、黙々と手のついていない納豆を下げる家内の戦術。決裂も妥協もできない薩摩夫の解決策、納豆は嫌いで収束させた。
 鹿児島県 湧水町 近藤安則(66) 2020/5/15 毎日新聞鹿児島版掲載

飛行機雲

2020-05-15 20:29:21 | はがき随筆
 夕方の暗がりが迫る前、ふうっと息を吐き帰路につく。空はまだ明るい。薄紅色に染まるであろう西の雲がきれいた。
 ふと東の方角から3本の飛行機雲が視界に入ってきた。同じ地点を中心にゆっくりとまっすぐ伸びてゆく。なんて見事だ。
 家に着くころにはきっと消えてしまう。すぐに電話をかけ、家族に知らせた。離れていたが、子どもたちの「うわあ」と言う声が聞こえてきた。
 妻がその時の空をSNSに載せた。すると、知人からフレームの違った同じ飛行機雲が寄せられた。空はつながっている。心もどこかでつなかっている。
 宮崎県都城市 平田智希(44) 2020/5/14 毎日新聞鹿児島版掲載

手仕事

2020-05-15 19:51:40 | はがき随筆
 マスクが届いた。姉が丁寧に縫った布マスク。シャツを裁ったダンガリー生地、優しい肌触りのガーゼ。ブラウス地はやわらかい。色柄も多彩でピンクのうさぎ、お握りとタコウインナー柄は和み系。リバティプリントの青は端正で爽やかだ。型を決めて裁断し、ひと針ひと針縫っていく姉の手先、おそらくあの大きな食卓に長い時間座っていたのだろう。その椅子の淡い茶色の木質が目に浮かぶ。首都圏のコロナ緊迫は私の想像を超えている。払えぬ不安を鎮めるためにやっているのよと姉は言うけれど、静かに人を思いながら運ぶひと針は美しく尊い。
 熊本県八代市 廣野香代子(54) 2020/5/13 毎日新聞鹿児島版掲載