はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

磨崖仏

2018-07-26 18:22:23 | はがき随筆
 ひょんな散歩から知った茂頭の観音さまには4.5年前から月初めに必ず詣でている。何故そうするようになったか不明であるが、確かお礼詣でより続いている気がする。
この観音さまは天然の凝灰岩に刻まれた磨崖仏であり、そこに在すると、なぜか心落ちつき、自分がいかされていることを感じる。
 先日、阿多火砕流の現地見学会があり、講師が市南部地区では石に刻まれた仏像が多いことを話されていた。最近の殺伐とした時世に昔の人が石仏に刻んだ願いを思い、皆さまもぜひ詣でて欲しい磨崖仏である。
  鹿児島市 下内幸一(69)2018/7/26 毎日新聞鹿児島版掲載

ツバメは縁起物

2018-07-26 18:12:46 | はがき随筆


 今年もツバメが我が家の納屋で巣作りを始めた。私が嫁に来たずっと昔かららしい。親鳥は泥土や枯れ枝をくわえて、一度電線に止まり危険が無いのを確かめ、一直線に巣の所に飛んで行く。じっと見ている私は天敵ではないようだ。不幸や災いが起こる家には入らない。巣作りは縁起が良いと聞く。つらい時の助けが何度もあった。ツバメは縁起物の気がしてきた。
 育児に悩み、生活に追われていた頃、「久美さん、今日やっと最後のツバメが巣立ったよ。ツバメの世界も手のかかる子はいるもんじゃね」。亡き義父の30年前の言葉を思い出した。
 宮崎市 津曲久美(59)2018/7/26 毎日新聞鹿児島版掲載

珍姓ドライバー

2018-07-26 18:05:35 | はがき随筆
 よく乗るバスで珍しい姓のドライバーが気になっていた。
 先日、最前列に座れたので信号待ちの際、声をかけた。「50年ぐらい前、松橋に勤務していたけど、貴殿と同性のドライバーによく乗り合わせた」
 すると驚いた顔で「それ、おやじですよ」。「納得。接客のよさは父子相伝なんですねぇ。お元気ですか」「昨年、交通事故で……」想定外の答えに絶句した。
 ほどなく下車する停留所に。複雑な気持ちを抑えながら「また乗り合わせたいですねえ」とお礼を言ってカードをタッチした。
 熊本県東区 中村弘之(82)2018/7/26 毎日新聞鹿児島版掲載

つばめ

2018-07-26 17:58:27 | はがき随筆


 地上スレスレから舞い上がり巣に戻る、を繰り返す。巣の完成をつばが喜んでいる。ヒナを蛇から助けてもらい、網を張り烏から守ってもらったことを忘れず今年も飛来した。床屋のマスターが喜んでいる。彼の喜びに感染し約4週間、抱卵、子育てにおつき合いをする。
 餌受け渡しの素早さに感嘆。舌を巻き、お尻を突き出してフンをするかわいさにフフフと笑い、網に止まりひと休みしているけなげなつがいに「お疲れ様、偉いね」と声をかける。
 ヒナが巣立ち、つがいは2度の子育ての準備中だ。一生懸命生きるつばめがいとおしい。
 鹿児島県鹿屋市 伊地知咲子(81) 2018/7/26 毎日新聞鹿児島版掲載

遠い電話

2018-07-26 17:49:49 | はがき随筆
 「S子さんが死んだ」。ひとしきりおしゃべりを済ませると、電話の相手は付け加えるように言った。3人は四日市の短歌仲間。「私も赤毛のアンが好きよ。文学少女だった」。S子さんは目をくりくりさせて表情豊かに良く通る声で言った。「30半ばでアンが好きって恥ずかしい」。私の言葉に同調してくれた。
 「若く見えたけど80だって」「嘘お」「いい声してたでしょ。前に詩吟もされてたから。読み聞かせの会では狼男やお婆さんが得意だったそうよ」「可愛い人だったわ」「そうね」。電話は1時間を超えた。
 宮崎県延岡市 佐藤桂子(70)2018/7/26 毎日新聞鹿児島版掲載

命という舟

2018-07-26 17:40:42 | はがき随筆
 「命は目では見えません。でも見ることはできます」。びっくりして読み返しました。日野原重明先生の本の中の言葉です。その答えは「命は時間です」。
 1分1秒と二度と帰らない時の流れは誰も止めることはできません。時の流れの中で命の舟をこいでいるかのようです。
 舟を無事にこいでいくにはかじ取りが大事で、そのかじは心ではないかと思います。雨の日も風の日も待ってくれない時の流れを、明るく楽しく感謝の心で突き進むところに命の舟が安全に行けるように思います。時間こそ命。自分に言い聞かせています。
  熊本県八代市  相場和子(91)2018/7/26 毎日新聞鹿児島版掲載

あぜ道

2018-07-26 17:32:00 | はがき随筆

 「お前が先に行きなさい」
 田んぼのあぜ道を母は、私を先に歩かせた。幼稚園に路線バスで通っていたころのことである。黄色バッグを肩に毎朝、停留所へ向かって母と歩いた。
 ある日「なんでぼくが先?」
と聞くと「ヘビが出るから」との答え。あぜ道は一尺くらいの幅。左右は草が生い茂っている。飛び出てくることはないけれど、道を塞ぐように、でぇーんと横たわっててることもある。
「最初の人には気がつかず、2番目の人にかみつくんじゃないの」と屁理屈を言って見た。すると母は前を歩き始めた。始めて母を可愛らしいと思った。
  鹿児島県出水市 山下秀雄(49)2018/7/26 毎日新聞鹿児島版掲載

二役のババ

2018-07-26 17:16:23 | はがき随筆


 小2と4歳の孫は両親の仕事の関係で我が家で風呂と夕食を済ませる。お迎えが来る前の時間に宿題やままごとをする。
 最近、夕食後の一時をトランプで過ごすことにした。初めに教えたのはババ抜きであるが孫にはババとばあばのイメージがつながらないようである。ババは疫病神、悪役だからである。しばらくして教えたのは七並べではババはカードのない窮地を助ける切り札の役目として登場するので2人とも大いに納得。
 孫はカードの魔女みたいな絵とばあばの顔を不思議そうに見比べているが、私にはカードにある絵柄の妻も納得できる。
 宮崎市 杉田茂延(66)2018/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載