はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

精霊トンボ

2015-08-15 06:23:28 | 岩国エッセイサロンより


2015年8月11日 (火)

岩国市  会 員   角 智之  

 夏から秋にかけて太陽が西に傾く頃、道路や河原の上に群がって飛ぶ様は、風情がある。図鑑には「薄羽黄トンボ」で載っているが、知っている人はほとんどいない。実家のすぐ裏の石垣に茅が生えていて、夕方にはこれがねぐらとなり、池に突き出た細い葉にたくさんぶら下がる様子が面白く、寝ころんで暗くなるまで眺めていた。盆には、このトンボが大切な人の御霊を乗せて家々を回るという。昆虫などは、正式名よりも通称の方がよく知られていることも多い。このトンボは、なじみ深いあかトンボと同様に広く知られて精霊トンボいるお盆の使者、精霊トンボ。   
  (2015.08.11 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロン より転載

実家を売却 古里遠く

2015-08-15 06:20:52 | 岩国エッセイサロンより
2015年8月13日 (木)

    岩国市   会 員   山本 一

 今年もお盆を迎えた。実家は島根県吉賀町で、墓も当地にある。
 いつもは妻と2人で墓参りをするが、今年は4歳の孫も一緒だ。暑い日が続き熱中症対策など、あれこれ考えなければならない。
 実家は一昨年、売却した。兄弟4人とも遠方に住み、近所に迷惑を掛けられないと、管理の負担が気になっていた。幸いにも買ってくれる人が現れ、大変に幸運だったと思う。
 しかし、たとえ廃屋になっても実家があるのとないのとでは随分と勝手が違う。実家がなくなって何より寂しいことは、古里に帰っても身を寄せる所がないことだ。廃屋でも、実家があると心が落ち着く。
 何だか古里が遠くなったというか、自分から離れた感じがする。
 古里で出会う人たちとの距離も、実家がない後ろめたさのようなものがあり、自然に自分の方から遠ざけているような気がする。
 墓の前に立つと、父母の悲しむ姿が見えるような気がして、心が騒いだ。

    (2015.08.13 中国新聞「広場」掲載)岩国エッセイサロンより転載