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はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

私の避暑地

2022-09-11 05:33:40 | はがき随筆
 今年の夏も数回、熊本県北にある岳間渓谷に出かけました。渓流沿いの駐車場で車を降りると、涼気がふんわりとまとわりつき、カナカナとひぐらしのやさしい声が、林のあちこちから聞こえてきます。
 少しのぼって、河原におりると、巨岩のわきに小さな滝があります。私は少し下流まで歩き、渓流の中にある、いつもの岩にとび渡り、おしりをつけて座ります。
 そして、苔むした巨岩と、しぶきをあげる小滝に相対し、清流、濃い緑の木々、ひぐらしの声につつまれ、ぼんやりとしたひと時を過ごします。
 熊本市北区 岡田政雄(74) 2022.9.10 毎日新聞鹿児島版掲載

孫との2人暮らし

2022-09-11 05:24:50 | はがき随筆
 3泊4日の予定で小学2年の孫がやってきた。ところが、その間に保育園児の弟がコロナ感染。当然ながら親も陽性反応が出てしまった。孫か帰るに帰れず、2人暮らしはそれから2週間に及んだ。夜は抱きついてくる孫と手をつないで眠った。電話やメールで親と交信できるとはいえ、「帰りたい」とは一言も言わず、よく辛抱できたと思う。夏休みも終わりの土曜日、晴れて両親と迎えに来た弟とハグして喜ぶ姿がいじらしかった。「大変お世話になりました」「いいえ、ぱあちゃんは楽しませてもらったよ」「僕こそ……」と頭を下げて帰っていった。  
 熊本市中央区 渡邊布威(84) 2022.9.10 毎日新聞鹿児島版掲載

軍歌と映像

2022-09-11 05:16:52 | はがき随筆
 私が生まれてすぐだった。真珠湾攻撃で勃発した太平洋戦争。4歳にみたないうちに終戦となった。私世代より少し上だと戦争の悲惨な記憶もお持ちだが、80歳の私には幸か不幸かそれがない。
 施設訪問をしていた頃、「軍歌」を聞くと号泣が止まらなくなる人や軍歌の演奏そのものを拒む人がいた。
 「軍歌」が引き金となり、悲惨な戦争がよみがえり苦しませる状況を直に見聞きした。が今、ウクライナの戦況を露骨にテレビが映し出す。その映像が後々「軍歌」のように当事者を苦しませることのないように祈りたい。
宮崎市 日高達男(80) 2022.9.10 毎日新聞鹿児島版掲載

幸多かれ!

2022-09-11 05:08:03 | はがき随筆
 7月14日午前7時40分、ひ孫がこの世の生まれ出ました。普通なら何はさておき産院にすっ飛んで生き、ご対面となるのでしょうが、新型コロナの再燃でそうはいきません。
 しかし、便利な世の中で、生まれたばかりの女児が両手両足をばたつかせ、生まれ出た喜びを全身で表現した動画がスマホで送信されてきました。
 今、碧い地球が戦禍によって赤く染まりつつあります。ウクライナの罪のない子供が殺されています。こんなことが起こらないように日本が、いや世界が平和であり、この子に幸い多かれと強くいのる曽爺です。
 鹿児島県肝付町 吉井三男(80) 2022.9.10 毎日新聞鹿児島版掲載

おばちゃんありがと

2022-09-11 04:55:33 | はがき随筆
 友だちから「EXILE(エグザイル)」のコンサートに行くよ、と誘われた。会場に着き看板を見ると、別の歌手の名前が。? と思ったが、そのまま入場した。1曲目が始まると、皆、一斉に立ち上がり手拍子。その時私は斜め前の「おばちゃん」から、目が離せなくなった。
 年の頃は70代。手拍子と共に大きく体を動かし踊りだした。まさに踊っているのだ。それが曲に合っていて面白く、素晴らしい。メンバーを知り尽くしているなと、うらやましかった。
 私は一曲も知らないまま「ゴスペラーズ」のコンサートは終わった。メッチャ、楽しかった。
 宮崎県日南市 永井ミツ子(74) 2022.9.10 毎日新聞鹿児島版掲載


追憶の写真

2022-09-08 07:52:59 | はがき随筆
 2006年7月、横浜市の社会保険労務士会で首相官邸見学会があり、20余名で参加した。中を1時間ほど見学したら、ごあいさつがあると言われた。突然安倍晋三官房長官が現れたので驚いた。すらりと背が高くて、とても気さくな方だった。集合写真を撮ると、「次は一人ずつ撮りましょう」と、ツーショットに応じられた。2カ月後には総理大臣に就任された。
 安倍さんの訃報に接して呆然となった。政治と宗教の関係、国葬の是非なでさまざまな意見が出ているが、安倍さんとの写真を取り出し、官邸でお会いした日を思い出している。
 鹿児島市 田中健一郎(84) 2022.9.8 毎日新聞鹿児島版掲載


健康でいたい

2022-09-07 17:21:20 | はがき随筆
 傘寿の同窓会をして、もう4年の月日が流れた。
 なにせ小学校当時の同窓会だから、顔つきもさまざまに変わり、酒のつまみにしあうのが愉快だ。
 同窓会では、いつも会の最後に次回の幹事を選んできた。
 4年前は女性のTさんと私の2人で2回目の幹事を務めたのだった。それから終盤近く、やれやれ無事済んだね、とTさんと顔を見合わせたと同時にS君が叫んだ。「次回は米寿同窓会をやるからね」。え、キョトンとした皆の顔、誰も返す言葉はなかった。驚きすぎて、幹事を決め損ねたまま、時が過ぎた。
 宮崎県延岡市 前田隆男(84) 2022.9.7 毎日新聞鹿児島版掲載

赤とんぼ

2022-09-06 21:12:56 | はがき随筆
 今日から学校は2学期を迎え、小学生たちが元気な姿で登校していきます。
 萎えていた私は小学生に元気をもらい、10時から歩きに出ました。日差しは強く、汗が出ます。健軍川添いの遊歩道にさしかかると、目の前を小さな物体が横切りました。私は蜂かと思い、思いっきり手で払いました。立ち止まり、落ち着いて周りを見渡すと、遊歩道から川面に赤とんぼが飛び交っていました。
 「わあー赤とんぼだあー」。大声を出してしまいました。
 今日は気温35度の予報が出ている中、自然界は秋を運んでくれています。感動! 感謝!
 熊本市東区 川嶋孝子(83) 2022.9.6 毎日新聞鹿児島版掲載

笑顔のバイバイ

2022-09-06 20:09:42 | はがき随筆
 妻と立ち寄ったスーパーの通路で、私の右手に何かが触れた。柔らかくて、暖かくて、小さくて……。それは心を穏やかにするもの。安心感をくれるもの。何十年も忘れていた感触。見知らぬ老人の手をいきなりぎゅっと握ってきたのは、まだ人を疑うことを知らない二、三歳の男の子だった。
 「ママ、どっかへ行っちゃったのかな。じゃあ、じいちゃんに抱っこして探してみよう」。184㌢の高みでその子を肩車して二、三歩行くと「あっ、ママだ!」。ぼくたちは一瞬マスクを外し、満面の笑みでバイバイをした。
 鹿児島県霧島市 久野茂樹(73) 2022.9.5 毎日新聞鹿児島版掲載

縁あって応援

2022-09-06 10:33:21 | はがき随筆
 昨年の秋、毎月ガスメーターの検針の来るガス屋さんに「台所のガス台を新しく取り換えませんか?」と勧められた。
 35年前に据えたオープンと一体化したガス台。使い勝手が良く何より頑丈だ。高い壁掃除の時、ガス台に乗っている私だ。「35年前のガス台を見た事がない」とガス屋さんは言う。
 熟慮の末、新品と入れ替えた。その時、抽選券を頂く。そして今春、当たりましたとガス屋さんがン万円の商品券を持参。
 今夏、その商品券を頂いた会社のチームが都市対抗野球に出場していた。勝ち進み優勝だ。私は勿論、心から応援した。
 宮崎県延岡市 源島啓子(74) 2022.9.4 毎日新聞鹿児島版掲載



合掌祈念

2022-09-03 16:34:07 | はがき随筆
 昭和20年8月11日、私は旧制加治木中の教室にいた。突如、米軍の空襲・空爆、機銃。無我夢中で近くの田へ逃げ込んだ。
 頭を水に突っ込み、泥にまみれて、ただ逃げた。弾ける音、銃射の響き。どう走ったか記憶にない。やがて、道に迷いながら、隼人の町へ。途中、心配して迎えに来た母と偶然出会い、無事を喜んだ。
 校門横に「殉難学徒の碑」が16名の御霊をまつっている。77年がたつも、当時中学1年の記憶は薄れない。人が生み出す戦争は、いまだに治まらない。願望むなし。ちなみに孫3人は加治木高の後輩である。
 鹿児島県姶良市 宇都晃一(89) 2022.9.3 毎日新聞鹿児島版掲載

手紙

2022-09-03 16:21:18 | はがき随筆
 夜寝付けずにラジオを聞いていたら由紀さおりの「手紙」が流れてきた。聴くうちに亡き友のさつきさんを想いだした。
 カラオケに行ったとき、この曲を歌った姿が浮かぶ。高音できれいな歌声でうっとりしたものだ。それから、よくこの曲をリクエストしていた。♪死んでもあなたと~お別れの手紙♪と聴き入るうちにジーンとなり涙が流れ落ちた。生前一緒に過ごした日々の思い出が次々とよみがえる。
 7月末で3年忌を迎えた。月日の経つのは早いね。もう一度「手紙」をあなたの歌声で聴きたい。
 宮崎県串間市 林和江(66) 2022.9.3 毎日新聞鹿児島版掲載

空も風も

2022-09-03 16:14:27 | はがき随筆
 日曜日の6時半。いつもは数珠つなぎになった車の横、30㌢の横ぶれも許されない狭い道路で歩行器を進めなくてはいけないのに、今朝は「あれ」と思うほど車の数もまばらで、風景までも違って見える。
 深く澄んだ空と吹き渡る風はすっかり秋の色に変わっている。ご近所の庭の花々も露をふくんでいきいきと輝いている。
 老いの活力となっている「はがき随筆」を託すポストさんとはすっかり仲良くなった。早朝から仕事に出る人たちで活気のあるコンビニの横にひっそりとたたずむポストさん、今日もよろしくね。
 熊本市東区 黒田あや子(90) 2022.9.3 毎日新聞鹿児島版掲載


夢はめぐる

2022-09-03 15:29:00 | はがき随筆
 小学6年生の頃、どういうわけか、傾いた家に住んでいた。2階が私の部屋だった。家賃が安かったのか、玉を転がすとコロコロ転がる。家の前に料理屋があった。夕方になると、鰻の蒲焼の匂いがしていた。家の裏には川が流れ、向こう岸に料理屋の屋形船がつないであった。川の水は水前寺公園から江津湖に流れる冷たい水だった。よくホタルがとんでいた。屋形船に腰掛け足を水につけ、友達のバタバタやる。おしゃべりも続く。日が暮れて屋形船に赤い提灯がついて、お客を乗せ江津湖にこぎ出す。本当に絵のようだった。昨日のように思い出す。
 熊本県八代市 相場和子(95) 2022.9.3 毎日新聞鹿児島版掲載

暗に乗じて

2022-09-03 15:21:52 | はがき随筆
 手の届くほどの軒下に蜂が巣作りを始めた。小型スズメバチだ。女王バチは一匹でせっせと巣材を運び少しずつ大きくなってきた。ひと月ほどでとっくりを逆さにした形となった。にぎりこぶし大になると4.5匹の蜂が飛び始めた。門番らしき蜂もいる……と観察はここまでにして処理することにする。夜中2時、近づいてライトをつけるや否や一気に巣をたたき落としライトを消して即避難する。
 翌朝、蜂のいないのを確認して巣を回収、幼虫を油炒めとする。蜂が低い所に巣作りすると台風が多い……という話を気にしながら……。
 宮崎県延岡市 太田充(68) 2022.9.3 毎日新聞鹿児島版掲載