妻と立ち寄ったスーパーの通路で、私の右手に何かが触れた。柔らかくて、暖かくて、小さくて……。それは心を穏やかにするもの。安心感をくれるもの。何十年も忘れていた感触。見知らぬ老人の手をいきなりぎゅっと握ってきたのは、まだ人を疑うことを知らない二、三歳の男の子だった。
「ママ、どっかへ行っちゃったのかな。じゃあ、じいちゃんに抱っこして探してみよう」。184㌢の高みでその子を肩車して二、三歩行くと「あっ、ママだ!」。ぼくたちは一瞬マスクを外し、満面の笑みでバイバイをした。
鹿児島県霧島市 久野茂樹(73) 2022.9.5 毎日新聞鹿児島版掲載
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