以前記事に書いたかもしれないが、一九八〇年代に以下のような経験をした。近所の公園に子供を連れて行くと、労働組合が大きなロケットらしき、張りぼての模型をかついで、大きな声を出している。看板もある。パーシングⅡミサイルを西ドイツから撤去せよ、と言うのがその主旨らしいのである。
当時東西に分かれていた、西ドイツにアメリカ製のパーシングⅡミサイルが配備されたのである。いわゆる戦術核ミサイルで、戦争が起きると敵の軍隊に向けて発射する小型の核弾頭を積んでいる。ICBMが大都市に向けて発射されるもので、核抑止のためのものであり、一般市民の被害も計り知れないので、実際に使われることはまずあり得ない、とされている。
これに比べると、戦術核ミサイルは、大型の大砲のようなもので、相手が軍隊に限定されるから、比較的実戦に使うことがあり得る、とされている。だからこそ、核戦争の引き金になる危険な兵器であるとされている。そんなものを、冷戦下のNATOとワルシャワ条約機構軍が対峙する、西ドイツに配備するのは危険だから撤去せよ、というまっとうな主張に聞こえるのである。この運動に参加している労働組合員は本気でそう信じて運動しているのである。
ところが、事実は、ソ連がNATOの正面に戦術核ミサイルSS21を先に配備していて、それに驚いた西ドイツがアメリカに頼み込んで、SS21に対抗すべく、パーシングⅡミサイルを配備したのだった。そのことを隠していれば、パーシングⅡミサイル反対運動が起ってもおかしくはないのである。このように、情報は一部だけ知っていると、判断に狂いが生じる、と言う見本である。本来はパーシングⅡミサイルとともにSS21も撤去せよ、と言わなければならないのである。
情報の偏りというのはそれにとどまらない。労働組合にパーシングⅡミサイルの配備だけを知らせて、反対運動をさせたのは、日本の某政党である。小生が知っている位だから、某政党がSS21の配備を知らないはずはない。故意に知らせなかったのである。それは某政党がソ連の味方をして、偏った情報を流したのは、長い目で見れば日本の共産化に役に立つと考えたからに他ならない。
そんなバカな日本人がいたのか、と思わないのは、小生が当時、ソ連とその衛星国を理想の国家と本気で信じる某政党員でもある労働組合員に知己があったからである。某政党にとっては、偏った情報で人々を騙そうと、日本の共産化という目的が正しいと信じていたから、騙すということは悪徳であろうと方法論としては正しい、というロジックが成立するのである。この記事に「正しい判断のための情報」というタイトルをつけたが、このように正しい情報を知っていたとしても、正しい判断ができるとは限らない。いや、人によって正しい情報から導かれる正しい判断と言うのは、ひとつであるとは限らない。人の世の中は、そう単純ではないのである。まして政治の世界も単純ではない。