毎日のできごとの反省

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映画スリーハンドレッド

2020-04-11 15:00:00 | 映画

 本稿は映画をネタにしているだけで、絵画評と呼べるものではないことをまず、一言しておく。この方面の歴史に詳しくはないが、「スリーハンドレッド」はギリシア対ペルシアのテルモピレーの戦いを描いたものだそうである。注目されるのは、映画の内容そのものよりも、その背景である。戦いは、ペルシア帝国とギリシアのスパルタとの戦いである。ペルシア帝国と言えば、エジプトを含み、アラビア半島を除く現在の中東諸国を統一した世界帝国である。これに比べればギリシアなどはちっぽけな存在である。現在もこれらの地域の住人はペルシア帝国の末裔を持って任じている。

 一方でアメリカ人はギリシア人の末裔ではない。しかし、この映画では、わずか3百人で、百万のペルシアの大軍と戦争するに当たって、王レオニダスなどに何回か「自由のため」と言う戦争の意義を語らせている。すなわち、自由のための戦争、と言うのは現在までのアメリカが掲げている戦争の大義である。実際に国王が自由のため、と言ったかは知らない。映画は、自由を戦争の大義に掲げることによってギリシア人をアメリカ人に擬しているのである。

 このような事はアメリカ人が古代ギリシア・ローマの戦争の歴史を映画にするときに、よく行われることである。例えば、ブラッド・ピット主演のトロイなどである。するとペルシア帝国とは何か。現在で言えば当然アメリカに敵対している、アフガンのゲリラやイラン、イラクであろう。その事は作られた時期でも分かる。作られたのは2007年である。それ以前から現在に至るまで、旧ペルシア帝国領にいるイスラムのゲリラやイランの核開発はアメリカを悩ませている。

 北朝鮮の核開発より何よりも、現在のアメリカを悩ませているのは、これら中東の地域である。9.11の自爆テロ、湾岸戦争、イラク戦争、アフガンでのテロリストの掃討作戦などがその象徴であろう。この映画は、アメリカはこれらの苦難を戦い抜く、という決意の表明でもあろう。もちろんこれは国策映画ではない。しかし国策映画ではない事自体が、アメリカの民間にもそのような気分を受け入れる素地がある事を示していると言える。

 ベトナム戦争の後には、戦争関連の映画と言えば、トム・クルーズ主演の「7月4日に生まれて」のような、反戦あるいは厭戦気分に満ちた映画ばかりだった。この映画のように、自由のためには命を賭けて戦うなどという映画はついぞ作られた事がない時期が長く続いた。アメリカはベトナム戦争の後遺症を脱却したように思われる。そのきっかけは湾岸戦争であると私は考えている。もちろん強硬派と考えられるトランプ大統領ですら、イランなどとの地上戦を忌避しているのは、世界的流れでもあろう。

 湾岸戦争が始まったのは、ソ連の崩壊の直後であった。あるいは冷戦に勝利した事による自信の回復が、間接的にはアメリカが湾岸戦争に踏み切る事ができた理由のひとつであろう。日清日露の両戦争の指導者が幕末の戊辰戦争などの実戦に前線で戦った経験があったように、湾岸戦争の指揮官の父ブッシュは大東亜戦争に艦上機パイロットとして参戦している。このこともブッシュ大統領の積極性に関連しているのかも知れない。

 ちなみに父ブッシュはアベンジャー雷撃機に搭乗して日本軍に撃墜され、ようやく救出されるも同乗者を喪失している。他にもケネディーが魚雷艇の艇長として日本軍に撃沈されて、終生も戦傷の後遺症に悩まされた。ジョンソン元大統領も太平洋戦線で爆撃機に搭乗し、撃墜王坂井三郎にあやうく発見され撃墜されそうになった経験がある。このように3人もの元アメリカ大統領が日本軍との戦いでからくも助かった経験がある、というのは偶然ではない。それに対して欧州戦線で際どい戦いを経験した元大統領はいないから、巷間言われているように、日本軍との戦いも楽ではなかったのである。

 閑話休題。湾岸戦争はアメリカ得意の圧倒的な機械化兵力で、イラク軍を蹴散らしてしまった。この時の損害が僅かであった事が、ベトナム戦争で喪失したアメリカの戦争に対する自信を回復させたのだろうと私は思っている。何よりも有力な兵器を惜しみなく使って兵士の損失を減らすと言うのが米軍のポリシーなのだから。それに引き換えベトナム戦争は敵地に進攻できないという足かせの元、ジャングルのゲリラ戦という白兵戦に頼らなければならない戦争に引き込まれてしまったのである。私はSF映画ですらアメリカの戦争映画では、弾丸を惜しみなく打つのを見ると、日本軍にもこんなに豊富に弾薬があったら、と悔しい思いにかられる。

  付言するが、大東亜戦争で陸軍は根本において補給を軽視したわけではない。悪評高い牟田口廉也ですら、最初は補給の困難のためインパール作戦に反対したのである。これにひきかえ海軍は、日露戦争以後、そもそも装備において補給線の保護と言うことに着目した形跡がない。これは、艦隊決戦至上主義であったため、戦闘に必要な弾薬物資は、基本的に戦闘艦艇に搭載していればよいから、補給と言うことを考慮する必要性が少ないと考えられたからである。



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2 コメント

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コメントありがとうございます (猫の誠)
2020-04-14 15:51:20
 「南京事件」についての貴殿の論考、十分読み解いてはいないのですが、感心している次第です。
 おっしゃるような話は、小生も受け売りですが知っています。ソ連崩壊以後に、反戦運動をしていた俳優たちが、自分たちはソ連・中共・ベトナムなどのプロパガンダに乗せられていたとアメリカ国民に謝罪した、という報道があったのは記憶しております。
 ただし、小生の意見は、プロパガンダに乗せられていたのは事実としても、すくに勝てると思っていたうちは乗らず、いつまでも勝利が得られる見通しがなく、犠牲者だけが増えているのに嫌気がさしたというのが本音だと思います。勝てる見通しがあれば彼らも反戦運動などしなかったというのが現金な現実だと考えます。
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よくは知りませんが、 (南京渋多(プロテスティア))
2020-04-14 15:22:06
ベトナム戦争の米国の厭戦感情は、ベトナムの巧みな戦時宣伝と民主党系の共産主義・社会主義に好意的感情を持つハリウッドなどとベトナム・ソ連・中共の共同宣伝キャンペーンという話を耳にしましたな。
明確な史料が無いので、くららの受け売りですがね。
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