今、日米露の三国で、商業ベースで第二次大戦機のコピーがさかんに行われている。米英機は、実物のレストアがあるから、対象となっているのはあまり聞かない。そこで対象となるのは、日独露の第二次大戦機が多い。手法としては、実物を分解して、内部構造まで寸法を測って再現するリバースエンジニヤリングというものが使われているものが多い。しかも本物のエンジンを積んで飛行可能なのが原則である。
中には、ほとんど壊れている機体の一部を流用しているものさえある。特にロシアの場合は、販売目的でコピー機を造っているから趣味の領域ではない。何年もかけてコピーしては売るのだが、計器などの小物部品を別として、絶対コピーできないものがある。それはエンジンである。
機体は、相当精密にコピーしているにも拘わらず、エンジンはコピーできないのである。そこで使われるのは、米国製エンジンで大量にレストアされているエンジンである。Me-262のようなジェットエンジン機などは、新しいエンジンでも現在でも生産されているから、寸法さえ合えば使える。当時のエンジンより小型、大推力だから外形にフィットできる。
問題はレシプロエンジンで、レストアされているものから、寸法の合うものを使うしかない。現在では小型機用のレシプロエンジンは作られていても、大馬力の空冷星形や液冷のV12エンジンは作られていないのである。
零戦のエンジンはP&W R-1830が使われている。大東亜戦争末、零戦に金星エンジンを搭載する際に、直径が大きいことやエンジン袈の寸法構造が違うことが問題にされたごとく書く記事を見かけるが、R-1830は金星より直径は大きく、エンジン袈の寸法構造が全く異なる。
それを米国人は何の問題にもせず、平気で取り付けている。零戦の榮エンジンは、馬力向上後も、直径は変わらないので、幅に関しては二一型でも五二型でも直径は同じであるが、側面形は大分異なっているから面倒そうであるが、再生機は二一型でも五二型でも同じR-1830をつけて、直径の差はカウリングの形状処理で誤魔化してしまい、あまり違和感なく、済ませている。零戦の金星エンジン換装には、その程度の困難さもなかったのである。
問題は、エンジンのコピーの困難さである。メカニズムのコピーができないのである。機体のメカニズムの部分とは何か。要するに動く部分の事である。機体で動くものと言えば、風防と舵とフラップ、引込み脚位である。この四つの要素はシンプルかつ相互に関係がない。舵やフラップはヒンジとピンで回転し、それをワイヤで引っ張って動かすだけである。スライド風防は、レール上を動きぴたりと閉じれば良い。サッシの窓枠と変わることはない。
これらは、概ね寸法さえ大差なければ機能する。一発勝負で作っても、調整が可能である。実機でも試作機をいじくり回すことが多いから、一機の機体で調整が可能である。引込み脚は、それよりずっと精度が高いだけで、同様であろう。脚カバーがぴたりと主翼にフィットするかが問題だが、想像するに外板の厚みの3分の1程度以下にフィットすれば機能上支障ないと思う。正確にコピーしてうまくいかなければ、ボスあたりを削って調整し、ダメなら一部部品を作り直せばいいのである。
ところがエンジンはそうはいかない。飛行可能にしなければならない。シリンダとピストンの嵌合は、数値で正確に表せない、経験的なものがある。その他の多くのパーツがそうである。そうしなければ、エンジンの外観だけは再現できても、エンジンとしての性能を発揮できない。それは、経験に基づく工作精度が必要だが、コピーではその経験の積み重ねがない。実機のエンジンは何台も試作して、各種の運転をして、ようやく実用化に至る。開発と言う過程が必要で、一台限りというわけにはいかないのである。
それには素人集団の集まりではできない。一台のコピーエンジンを作るのに、エンジン開発を行っていては、技術の習得から始めなければならないから、コストも時間もべらぼうになる。ラジコン用模型エンジンですら、うまく動かすには、そうは簡単にいかないのである。ましてや現在製造されていない、大馬力の空冷星形エンジンには、多くの設計製造ノウハウが必要である。ところが、ノウハウは既に失われている。図面や実物だけでは実用エンジンは作れない。機体の複製はできても、複製第二次大戦機のエンジンのコピーはできない、という次第である。
小生の経験をしよう。河川流水で水車を廻し、コンプレッサで圧縮空気を発生させて、水中に気泡を発生させて、河川水の浄化をしようというプロジェクトがあった。ある企業が新発明の特殊コンプレッサを使うことを提案したが、問題はその会社がコンプレッサの製造経験がないのである。しかもクランク機構が新発明である。
担当者が小生にアドバイスを求めてきたので、コンプレッサの製造経験のない会社が新規開発するには、何台か試作機を作って試験しなければ実用機は出来ないから、コストがかかり過ぎる。失敗するから、汎用のコンプレッサを買ってきて使えと言ったが聞かなかった。強引に試作機を現場に持ち込んで使ったら、横置きしたピストンの重みでピストンリングが片減りしてすぐ交換する羽目になったのと、圧縮空気が高熱を発して漏れて、コンプレッサ室に充満し、火災を起こす寸前で発見されて止まった。それで交換部品もなかったことから、その設備の開発は放棄された。たかがコンプレッサでさえ製造ノウハウが必要である。まして大型星形エンジンにおいておや、である。
ついでに補助機器類の話をしよう。機体にもエンジンに計器などの各種補助機器類という汎用品がある。これらの補器類は精密機器で到底コピーできる代物ではないし、当時のものはない。だから複製機では現代の類似品を流用していることを付記する。
複製第二次大戦機はエンジンのコピーはできない
今、日米露の三国で、商業ベースで第二次大戦機のコピーがさかんに行われている。米英機は、実物のレストアがあるから、対象となっているのはあまり聞かない。そこで対象となるのは、日独露の第二次大戦機が多い。手法としては、実物を分解して、内部構造まで寸法を測って再現するリバースエンジニヤリングというものが使われているものが多い。しかも本物のエンジンを積んで飛行可能なのが原則である。
中には、ほとんど壊れている機体の一部を流用しているものさえある。特にロシアの場合は、販売目的でコピー機を造っているから趣味の領域ではない。何年もかけてコピーしては売るのだが、計器などの小物部品を別として、絶対コピーできないものがある。それはエンジンである。
機体は、相当精密にコピーしているにも拘わらず、エンジンはコピーできないのである。そこで使われるのは、米国製エンジンで大量にレストアされているエンジンである。Me-262のようなジェットエンジン機などは、新しいエンジンでも現在でも生産されているから、寸法さえ合えば使える。当時のエンジンより小型、大推力だから外形にフィットできる。
問題はレシプロエンジンで、レストアされているものから、寸法の合うものを使うしかない。現在では小型機用のレシプロエンジンは作られていても、大馬力の空冷星形や液冷のV12エンジンは作られていないのである。
零戦のエンジンはP&W R-1830が使われている。大東亜戦争末、零戦に金星エンジンを搭載する際に、直径が大きいことやエンジン袈の寸法構造が違うことが問題にされたごとく書く記事を見かけるが、R-1830は金星より直径は大きく、エンジン袈の寸法構造が全く異なる。
それを米国人は何の問題にもせず、平気で取り付けている。零戦の榮エンジンは、馬力向上後も、直径は変わらないので、幅に関しては二一型でも五二型でも直径は同じであるが、側面形は大分異なっているから面倒そうであるが、再生機は二一型でも五二型でも同じR-1830をつけて、直径の差はカウリングの形状処理で誤魔化してしまい、あまり違和感なく、済ませている。零戦の金星エンジン換装には、その程度の困難さもなかったのである。
問題は、エンジンのコピーの困難さである。メカニズムのコピーができないのである。機体のメカニズムの部分とは何か。要するに動く部分の事である。機体で動くものと言えば、風防と舵とフラップ、引込み脚位である。この四つの要素はシンプルかつ相互に関係がない。舵やフラップはヒンジとピンで回転し、それをワイヤで引っ張って動かすだけである。スライド風防は、レール上を動きぴたりと閉じれば良い。サッシの窓枠と変わることはない。
これらは、概ね寸法さえ大差なければ機能する。一発勝負で作っても、調整が可能である。実機でも試作機をいじくり回すことが多いから、一機の機体で調整が可能である。引込み脚は、それよりずっと精度が高いだけで、同様であろう。脚カバーがぴたりと主翼にフィットするかが問題だが、想像するに外板の厚みの3分の1程度以下にフィットすれば機能上支障ないと思う。正確にコピーしてうまくいかなければ、ボスあたりを削って調整し、ダメなら一部部品を作り直せばいいのである。
ところがエンジンはそうはいかない。飛行可能にしなければならない。シリンダとピストンの嵌合は、数値で正確に表せない、経験的なものがある。その他の多くのパーツがそうである。そうしなければ、エンジンの外観だけは再現できても、エンジンとしての性能を発揮できない。それは、経験に基づく工作精度が必要だが、コピーではその経験の積み重ねがない。実機のエンジンは何台も試作して、各種の運転をして、ようやく実用化に至る。開発と言う過程が必要で、一台限りというわけにはいかないのである。
それには素人集団の集まりではできない。一台のコピーエンジンを作るのに、エンジン開発を行っていては、技術の習得から始めなければならないから、コストも時間もべらぼうになる。ラジコン用模型エンジンですら、うまく動かすには、そうは簡単にいかないのである。ましてや現在製造されていない、大馬力の空冷星形エンジンには、多くの設計製造ノウハウが必要である。ところが、ノウハウは既に失われている。図面や実物だけでは実用エンジンは作れない。機体の複製はできても、複製第二次大戦機のエンジンのコピーはできない、という次第である。
小生の経験をしよう。河川流水で水車を廻し、コンプレッサで圧縮空気を発生させて、水中に気泡を発生させて、河川水の浄化をしようというプロジェクトがあった。ある企業が新発明の特殊コンプレッサを使うことを提案したが、問題はその会社がコンプレッサの製造経験がないのである。しかもクランク機構が新発明である。
担当者が小生にアドバイスを求めてきたので、コンプレッサの製造経験のない会社が新規開発するには、何台か試作機を作って試験しなければ実用機は出来ないから、コストがかかり過ぎる。失敗するから、汎用のコンプレッサを買ってきて使えと言ったが聞かなかった。強引に試作機を現場に持ち込んで使ったら、横置きしたピストンの重みでピストンリングが片減りしてすぐ交換する羽目になったのと、圧縮空気が高熱を発して漏れて、コンプレッサ室に充満し、火災を起こす寸前で発見されて止まった。それで交換部品もなかったことから、その設備の開発は放棄された。たかがコンプレッサでさえ製造ノウハウが必要である。まして大型星形エンジンにおいておや、である。
ついでに補助機器類の話をしよう。機体にもエンジンに計器などの各種補助機器類という汎用品がある。これらの補器類は精密機器で到底コピーできる代物ではないし、当時のものはない。だから複製機では現代の類似品を流用していることを付記する。
このブログに興味をお持ちの方は、ここをクリックして小生のホームページも御覧ください。