サウジアラビアは、イエメンの反政府側に対して空爆を続け、多数の一般人が犠牲になり、イエメンは深刻な人道的危機状況下にありますが、反政府側は、今回、それに対する反撃的報復行為としてサウジアラビアの国内深部に達するドローン攻撃でその主要石油施設に痛烈な損害を与えました。
9月24日の国連演説で安倍首相は「サウジアラビアの石油施設に加わった攻撃は、国際経済秩序を人質にする卑劣極まる犯罪でした」と発言しました。
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2019/0924enzetsu.html
手元の辞書には、「卑劣」とは「品性や行動が卑しく、下劣なこと(さま)」とあり、形容詞としては英語で【さもしい】mean; 【軽蔑すべき】contemptible; 【汚い】dirty; 【意地の悪い】nasty. と出ています。
荒れ狂う戦乱の中で、サウジアラビアとそれを支持する米国に対する反政府勢力側の乾坤一擲の反撃であり、戦闘行為として卑劣さはありません。国際的に卑劣極まる犯罪をいうならば、それは現在米国が強行しているベネズエラ国民に対する卑劣極まりない“食糧攻め”です。
R2P(Responsibility to Protect) という標語をご存知でしょう。この「保護する責任」は、前にも問題にしましたが、再度、ウィキペディアを引用すれば「自国民の保護という国家の基本的な義務を果たす能力のない、あるいは果たす意志のない国家に対し、国際社会全体が当該国家の保護を受けるはずの人々について「保護する責任」を負う」ことを意味します。この概念の発祥の時点では、何がしかの善意が含まれていたかもしれませんが、現実には、リビアの場合に最も明白に示されたように、米欧による独立国の政権変換(regime change) の口実に化してしまいました。その化けの皮が剥がれて、醜悪極まりない正体が露呈されているのが、米国の対ベネズエラ政策です。
無能で非道な独裁者マドゥロ大統領の下で苦しめられているベネズエラ国民を救うために、R2Pの錦の御旗を掲げてレジーム・チェンジをやり始めた米国は、ワシントンでお膳立てしたクーデターが見事に失敗して手詰まりになると、厳しい経済封鎖、貿易封鎖を行って、一般国民の生活状況を極端に悪化させることを始めました。日常雑貨のみならず、医薬品、必需的な食糧の輸入まで阻止することを試みています。これは、ベネズエラ国民一般に対して、「マドゥロを支持していると病気や飢餓で死んでしまうぞ」と脅しをかけているという事です。これがR2P政策の成れの果てです。医薬品や食糧の不足で失われた人命は、すでに数万人に及ぶと推定されています。
米国の、この“卑劣極まる犯罪”に対して、ベネズエラはワシントンにドローン攻撃を仕掛ける選択肢はありません。しかし、その代わりに、ベネズエラには、国内での食糧自給を目指して懸命の努力を行っている何百という自治的な農民コミューンが存在して、それぞれに民兵組織を持ち、国外からの侵入勢力から国土を守る意識を高揚させています。もし米国の権力層がベトナムの記憶を喪失して、ベネズエラに対する直接の軍事侵略行動に出れば、第二のベトナム戦が南米で展開されることになるでしょう。
藤永茂(2019年9月28日)
藤永先生、空虚な独裁者が自分で書くことはできないだろう漢字をふりがな読みした言葉にわざわざ辞書を・・・ご親切に感じ入りました。
ヴェネズエラの政権転覆を公言したボルトンが9月10日に解任されて以降、香港の惨状に対応するような卑怯卑劣の断末魔がヴェネズエラの人びとをこの世の地獄に陥れているのではないかとその不幸に同情に堪えません。
2019年3月26日付けの田中宇氏記事によれば、3月24日にロシアは100人の特殊部隊要員をヴェネズエラに送り、空軍基地にS300迎撃ミサイルを配備したとのことです。
すると3月25日に国土の6割近い地域で大規模な停電が起きたそうです。ロシアとそして、ヴェネズエラに石油代金の前払いというかたちでの融資をしている中国とが、無辜の民衆を犠牲にする、この卑劣な停電攻撃に協同して対処しているそうです。
ヴェネズエラとイエメンはむろん、香港にせよ韓国にせよ温暖化煽動にせよ、アベノマトペの四流マンガ政治にせよ、世界の不幸の根源である人びとの行状は目に余ります。
そろそろ、来年あたりをよい転機として風向きを変えなければならないと思います。
エルドアンが開始したクルドに対するジェノサイド軍事侵攻は、世界のなかの卑劣に卑劣を重ねるものです。
その直接の背景は、エルドアンの危機をはらむ国内的な立場の卑劣で歴史のなかで飽きるほど見た打開策だと思います。
こういった軍事行動や他民族敵視は大日本帝国における日本の民族的体験になっているわけですが、名古屋の市長や滑稽で空虚で危険な国家独裁者が掘り崩そうと躍起になっているものです。
もう一つは、欧米の軍事産業のための軍事消費であろうと思います。
お気の毒にトルコの大多数の人びとは戦争の遂行による国民経済の疲弊と事態の泥沼化の危機を目の前にしています。
もし、クルドを再びトルコ国内外でのゲリラ戦争に追い込む事態になった場合、トルコの民衆はクルドによる抵抗活動、エルドアンとトルコ・メディアの言う「テロリズム」にさらされることになるでしょう。
支配者の卑劣は民衆の悲劇とコインの表裏一体です。エルドアンは靴のデザートで結ばれた39歳の独裁者によく似ています。
イランもロシアも、そして見棄てたトランプも、一応エルドアンに対する批判的コメントを出していますが、この侵略に対して実践的対抗する可能性はありません。
アサド政権はクルド側に共闘を呼び掛けていますが、どれ程の共闘関係が築かれるかは未知数です。アフリンの時のようなレベルでは、アフリンと同じようにクルド自治区も壊滅するでしょう。
エルドアンの仕掛けには、国内でのAKP の凋落傾向に歯止めをかけ、有無を言わさぬ戦時強権体制を敷きたい狙いがあるように窺えます。ただ、クルド側の抗戦が持続し、トルコ国内の経済的苦境が更に深まり、戦争続行不能にまでなれば、クルド側の生き残りもあり得るのかも知れません。
アサド政権との共闘関係の深浅とともに、国際世論が、どれ程エルドアンに圧力をかけられるのかもクルドのサバイバルにとっての重要な要因になるでしょう。
米国との関係を断ち切った上で、もしクルド自治運動が生き残り勝利するなら、本当の意味でロジャバ革命が開花することになるでしょう。それは、中東をも変え、世界をも変える別の世界の可能性に、我々の指先が実際に触れることを意味します。
エルドアンの思惑をささえる信念には、ロジャヴァのデモクラティック・コンフェデラリズムに対する敵意があると想像します。
そしてそれが、政党代議制による国民国家の領土支配者たちからなる「国際社会」が、エルドアンに真っ向から立ちふさがるのを妨げているのだろうと推測します。
「1%に対する我らは99%」のデヴィッド・グレーバーがデモのハンドマイクを握っています。エルドアンによる、まつろわぬ民に対する民族浄化の暴力を糾弾するだけのものではないように思えます。すみません、ヒアリング苦手に難聴が手伝ってユーチューブから聞き取ることができません。
デヴィッド・ハーヴェイがおりからアンカラで開催される社会学の学会をボイコットすると言っています。
日本の青壮年世代からは想像がつかないほどポジティヴであるらしい欧米のミレニアル世代の知性を信じたくなります。彼らはオジャランを理解することができるのでは、と。トルコの若者たちはどうなのでしょう。
あてずっぽうとのお叱りを受けるのを承知で・・・苛烈決死の抵抗に遭うトルコ地上軍の前進はそうそう思うようにゆかないのではないでしょうか。
「クルドとISと戦う」とうそぶいたエルドアンが、トルコ内部のさまざまな困難が加わって、キープしているIS戦闘員を対クルド戦闘の前面に投入するようになり、それが暴かれたときに国際世論の風が吹きはじめるのではないかという予感があります。ありふれたストーリーではありますが。
荒唐無稽の推論ですが、あのトランプおじさんは、これを読んで待っているのではないかと思ったりします。プーチンはなおさら。
デモクラティック・コンフェデラリズムを、ロジャヴァ・ローカルなめずらしいものだというのではなく、普遍性を持った未来への思想として理論化する動きがあらわれることを期待します。ロジャヴァの奮闘を真に生かすために。
あれこれ見てみましたところ、中東関係の専門家や識者で論壇メディアにエキスポジュアのある人びとがすべて一貫してロジャヴァに対して冷淡であることを見て驚きました。ある種の踏み絵とされているような感じさえします。
同時に彼らはISと戦う米国/米軍がロジャヴァの存在を可能にしていたという虚構を立てて恥じてはいないことに驚きました。米軍にみならずエルドアンがISに対する武器提供や訓練を含む兵站/補給を提供していたことを知らないのでしょうか。まさか。
いずれにせよ、ロジャヴァに内在する光に対してカタロニアのような讃歌は不要である気がします。
ANFニューズを見ますと、SFDの兵士は外国人傭兵と戦っているという言い方をしていることが気になります。すでにIS要員が前面に出ているのか?!と。別のソースですが、コバニに米地上軍が戻ってきているという映像まで出ていて、混乱してしまいます。
ロジャヴァが成立するという理論的可能性を、経済学的に、政治学的に、実証研究を含んで追求するというのは、きわめて高い人類的価値を持つような気がします。
が、現在の日本の学究の気の毒な実態からしてそのような動きが出てくるとは想像がつかないことです。おそらくロジャヴァのなかから生まれてくると思います。
エルドアンがトランプを急き立て、北東シリアから米軍の撤退を促した背景には、二つの理由があると考えられます。
一つは国内の政治事情です。与党AKP の党内にはエルドアン不満へのもくすぶり、新党設立に動く連中も現れています。イスタンブール市長選再投票の敗北の痛手は、エルドアンに相当な危機感をもたらした模様す。彼は、このままで行けば、世俗ケマル主義のCHPやクルド系のHDP に押されて与党の立場が危うくなるという恐れを抱いたと思われます。エルドアンの狙いは、戦時強権体制を敷いて党内の結束を図り、ライバル政党の勢力拡大を阻止することにあります。CHP が与党の時もそうでしたが、政権党が衰退に陥ると、決まって分離主義者クルドの危機を訴え国民の目を逸らします。クルド問題は、時と場合により、政権維持に利用できる好都合な問題でもあるのです。
二つ目は、イドリブ・北東シリア問題にあると考えます。イドリブのスンニ派原理主義者は、アサド・ロシア連合に叩かれじり貧状態にあり、このままでは、劣勢を覆すことも出来ず一掃されるかもしれないという危機感を持っています。そして、背後で彼らを支えるエルドアンも同じく、自己の手駒が失われれば、シリアへの影響力行使に重大な支障が出てくるという危機感を持っています。また、エルドアンが、スンニ原理主義者をイドリブに温存した最大の目的は、北東クルド自治区を掃討するための要員として利用するためでした。彼らを地上戦の先兵として使わなければ、北東シリアは攻略できません。彼らを必要とする理由は、トルコの正規軍だけではトルコ人の死傷者が増大して、国内世論の反発を買うことは必至だからです。つまり、エルドアンには、スンニ派ジハディストの温存とその利用は目的達成のための必須条件でありながらも、彼らジハディストはイドリブの戦況において存亡の危機に立たされているという矛盾の深化のその解決が求められていたのです。以前から、旧ヌスラ戦線さえもトルコの北東シリア攻略に参加する用意があるとの意志表示をしてきました。ジハディストにとっても、トルコの軍事力を背景にイドリブから北東シリアに移り政権を獲得出来るなら、このシリア戦争で生き残り勝利を収めたことになるのです。彼らがすでにトルコ軍の先兵としてクルド自治区の攻撃に加わっているのは、エルドアンとジハディストの利害に一致、その流れに乗った行動だといえます。。
エルドアンがイドリブのスンニ派ジハディストを北東シリアに送り込み、クルド自治区を乗っ取り、背後から操りながらその地を彼らに委ねようとしているのではないかというのは、私の推測です。また、イドリブは、アサド政権にくれてやれという算段ではないかというのも推測です。北東シリアにはクルド人を追放してシリア難民を入植させれば、クルド戦闘員のトルコとシリアの交通を遮断することもできます。エルドアンの狙いは、北東シリアからクルド勢力を一掃して、スンニ派ジハディストの傀儡政権を作り上げようとしていると見なす以外の考えは、今のところ浮かびません。
プーチンの思惑がなかなか判りませんが、すでにエルドアンと了解済なのかも知れません。イドリブはアサド政権に明け渡し、北東シリアはエルドアンの意に委ねると。プーチンによるエルドアンの取り込みは、シリア問題を超えて、より大きな戦略に基づくものと見なせます。つまり、NATO からトルコを引き離し、米・ヨーロッパ軍事同盟の力を削ごうというのがプーチンの戦略であるといえます。そのためには、シリアにおいてクルドを見捨て(以前のロシアとクルドの関係は想像以上に親密だったっといえる。ロシアはクルド自治に踏み込んだ憲法草案まで起草している)、トルコの利を計るという選択をするつもりなのかも知れません。
クルドロジャバ革命派は、極めて深刻な危機の中に置かれています。国際世論では、エルドアンを支持するのはパキスタンくらいしか見当たりません。しかし、批判するヨーロッパにしても難民を送り込むというエルドアンの脅しに腰が引けています。アサド政権側からのクルドに向けた発言も記事によって錯綜しています。アサド政権との共闘関係が築かれなければ、ロジャバ革命派の生き残りは、はなはだ困難であるといえます。
クルドに共闘を呼び掛けるアサド政権
https://www.islamicinvitationturkey.com/syria-says-ready-to-welcome-kurds-back-into-fold/
怜悧なご洞察をいただきまことにありがとうございました。なるほどと深くうなづき、強者がかたちづくる現実への絶望感に駆られました。
難民を恫喝の道具に使い、戦争を支配の手段とする機会主義政治屋に容易に左右されることから、強国の地政学というものが政治とは言えないものであることを痛感いたしました。
賢者の肩越しに景色を見て云々する、愚かしい無邪気さへのお叱りを承知で申しますと、御見を繰り返し拝読すればするほどエルドアンの足場の微妙な脆弱さが浮かび上がるような気がいたします。
(1)ロジャヴァ・クルドに対する非対称的な戦争がトルコ国内に戦時危機感による団結をもたらすとは思えないこと。
(2)ロジャヴァ・クルドに対する勝利が、トルコの国民に経済的な利益をもたらすとは思えないこと。
(3)散兵戦術をとる歩兵に対する機械化された部隊による戦闘はクルドの戦意が挫かれない限りきわめて効率がわるく、補給のリスクが高いこと。
(4)そこでクルドと同一平面で戦うことができるイドリブのスンニ派兵士を利用することになるわけですが、この高度な政治的術策がトルコ国内において理解され支持されるという前提は成り立たないのではないかと思われること。
(5)機械化部隊の侵攻によって、ロジャヴァ・クルドをひとり残らず一掃するというのは軍略として成り立たないであろうと思われますし、政略としては破綻するのではないでしょうか。エルドアンの帝国主義衝動と言いますかショービニズムがもたらす人類的惨禍となるわけです。
(6)民衆の海のなかでトルコ正規部隊への反撃に集中することがロジャヴァ・クルドの方針となるだろうと思われます。それをイドリブ・スンニが妨害すると。
(7)アサドがイドリブを投げ与えられることですべて満足するのかどうか、到底よくわかりません。
たしかにプーチンは米軍産勢力に対するポジション確保の一環としてエルドアンを利用しています。米軍産勢力への対抗という点では、意図せずトランプとかさなるわけですが、アルカイダからISまでと、あくまで武器消費としての戦争の火を熾しつづけたい軍産勢力がエルドアンをどのように利用するのか、よくわかりません。
Yokooさまをして、エルドアンの意図は推測するしかないと言わしめるところに、エルドアン政略の脆弱さを見ております。
ありがとうございました。