私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

キューバは奇跡です

2020-04-22 22:04:57 | 日記・エッセイ・コラム

 このブログを読んでくださる方々から貴重なコメントを頂いても、然るべくご返事することを怠っているこの日頃ですが、本日は、前回(4月15日)の記事の末尾に掲げた英文記事:

https://dissidentvoice.org/2020/04/cuba-from-aids-dengue-and-ebola-to-covid-19/

の翻訳の通知を頂いたので、ここに紹介し、感謝の意を表します:

『キューバ:エイズ、デング熱、エボラからCOVID-19まで』

http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-246.html

この寺島メソッド 翻訳NEWSというサイトでは、私が最大の尊敬を捧げる「マスコミに載らない海外記事」と同様に、読み応えのある翻訳記事を多数読むことが出来ます。例えば4月18日付けのセルビア首相の発言の記事です。米欧が過去にセルビア、広くは、旧ユーゴスラビアに対して行った言語道断の行為を忘れてはなりません。

 キューバについては、異端(セコイアの娘)さんから頂いた「キューバは奇跡です」の一言も、私にとって、貴重です。題名にお借りしました。キューバという国が実際に存在を続けていること、それが、コロナ禍という篝火の下で、米国という国の醜悪さをまざまざと照らし出していること、イニャシオ・ラモネのいう「別の世界」が実際に可能であることを我々に告げてくれているのですから。

 去る4月7日にNHK衛星の『世界ふれあい街歩き』でキューバの革命発祥の地でキューバ第二の都市サンティアゴ・デ・クーバが取り上げられていました。語りは高橋克美さん。

https://www.nhk.or.jp/sekaimachi-blog/400/426513.html#deai

心を打たれた場面がいくつもありました。キューバでは、手のひらにほっこり乗る大きさの丸っこい食パンが、一日一個あて配給されて、誰も餓死することはないようですが、馬にオンボロ荷車を曳かせて運送の仕事をしている中年の男性が配給所にやって来て、記録ノートに記名してパンを二つもらうと、その一つをあっという間に馬の鼻先へ、馬も慣れた様子でムニャムニャ、ペロリ。「これに働いて貰っているからね」と答える声の明るさ!「動物愛」などという言葉の入り込む隙間もありません。

 もう一つ、NHKの解説に「ラテンのリズムに乗せてエアロビクスをする女性たち。キューバでは果実のようなプリプリでジューシーな体形が好まれるのだそうです。歌って踊って汗かいて、ストレスをためないことが美しさを保つ秘けつなんだとか」とある場面です。元気にあふれた女性たちの豊満な肢体には空腹の影は全く認められませんが、これがキューバの男性たちの好みなのかというやや不躾な質問に対して、「男たちの目なんか気にしていない」という答えが女性たちから一斉に跳ね返って来たのには驚きました。ここにはある意味での嘘が隠されているに違いありませんが、笑い声に裏打ちされたこの返事に、私は、キューバの女性が占めている社会的地位の健康さを確認しました。

 日本ではコロナの軽症者をホテルナなどの建物に別離収容して病院の負担軽減を試みていますが、キューバでは、医者が住民の一人一人の健康状態を尋ねてまわっています。現在、キューバは3万人の医師を海外援助に繰り出していますが、国内では7万人の医者が住民の日常生活に密着して活動しています。単位人口当たりでは、米国の2倍以上です。少し大げさに言えば、誰にもかかりつけの医者が近所にいて、何かがあれば、すぐに往診してもらっているようなものです。

 ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス(NYR)ととい書評誌のウエブサイトに「ハンデミック日誌」というのがあって:

https://www.nybooks.com/daily/2020/04/20/pandemic-journal-april-13-20/#lindsay

その中で、Reed Lindsayという記録映画作家がキューバの首都ハバナから、4月17日付で、その有様を報じています。その一部を原文で引用させてもらいます:

**********

My confidence in Cuba is not rooted in numbers. Cuba has 862 cases, giving it an incidence rate 265 times lower than that of Blaine County, Idaho. (Cuba is at an earlier stage of contagion and cases are expected to increase at a more rapid pace in the coming weeks.) Instead, my assurance is based on the country’s public health system and its extensive network of dedicated, community-based doctors. Even with so many doctors abroad, 70,000 physicians remain in Cuba, giving the country one of the highest doctor-to-patient ratios in the world—more than double that of the US.

On March 31, I followed one of these doctors, Liz Caballero, as she went door-to-door with two second-year medical students in the El Carmelo municipality of Havana. Dr. Liz, as she introduces herself, and her students hustled down alleys and up narrow stairways, knocking on dozens of doors, polling and educating residents on symptoms and best practices to avoid contagion. During dengue outbreaks, a small army of health professionals and students knock on every door across the country. This has become a daily routine in recent weeks—I received a check-in the other day from a pair of students while a doctor examined my ninety-five-year-old neighbor.

“They come every day around this time,” one resident told me. “I’m so grateful for what they’re doing,” said another.

Even in normal times, house calls are common in Cuba, where “family doctors” living in the same communities as their patients are the lynchpin of the country’s free healthcare system.

“The family doctor is playing a crucial role in fighting coronavirus because we have the community in our hands,” said Dr. Liz. “We’re working hard not just to avoid the worst-case scenario, but to alter the course of the disease.”

In El Carmelo, I asked the two medical students following Dr. Liz if they were optimistic about the possibility of Cuba’s containing the virus. They laughed as if I’d posed a stupid question.

“Always,” said nineteen-year-old Talía González. “What kind of doctors would we be if we were pessimistic?” ■

**********

これは私のいい加減な推測ですが、キューバの医者の収入は日本のそれの数十分の一でしょう。社会現象として、キューバは「赤ひげ」でいっぱい、ということになります。

 米国のあらゆる企てにも屈せず、どうしてキューバは存在し続けているのか? 前掲のサイト「マスコミに載らない海外記事」にしばしば登場するAndre Vltchek(アンドレ・ヴルチェック?)という哲学者、小説家、映画製作者、調査ジャーナリストがいます。この人の2016年の論説『キューバは決して屈しない!(Cuba Will Not Fall!)』を読むと、優れた文学者の感覚で捉えたキューバ不滅の理由が読み取れます。

https://libya360.wordpress.com/2016/05/09/cuba-will-not-fall/

 

藤永茂(2020年4月22日)


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1 コメント

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奇跡の国キューバ (セコイアの娘)
2020-04-23 05:42:57
藤永先生、おはようございます。
左翼政権と言われる国々でさえ、新自由主義国家である今、キューバがこうして健全に国家を営んでいるのは、本当に奇跡と言わざるを得ません。地政学上の議論では、米中だの、米露だのかまびすしいですが、結局どこの国も新自由主義経済であることを鑑みれば、それは大国間の横の力学を語っているにすぎません。今このコロナ禍で一番苦しんでいるのは、今日働かなくては明日食べていけない人達であることを考えると、地政学的議論はどこかむなしく、むしろ上下(富める者と持たざる者)の問題と捉えるべきではないかと思っています。

医療は誰のものなのかという哲学。これがキューバの奇跡を支えている柱の一つだと思います。アメリカの医療は、金融機関、医療機関のものであり、人々のものではありません。さらに、保険会社が定める標準医療行為以外、保険金がおりない、即ち、医者、患者が受けたい医療サービスを選択出来ないという、医療行為の金融機関による支配が続いています。しかも医療保険があればまだしも、無保険者は、高額な医療費を払えるはずもなく、それこそ死にそうになってやっと緊急病棟に駆け込むのが現状です。

今、アメリカでは、新型コロナが完璧に政治問題化していて、国民そっちのけで、大統領選を睨んで対立が先鋭化しています。
自宅退避という贅沢ができる富裕層や大企業の社員とそんな贅沢はできない、今日働かないと明日食べていけないクラスとの対立。マスメディアには黙殺されていますが、先週ミシガンで後者による反ロックダウンデモが起き、トランプがそれを支持したことからデモが全米に飛び火、各地でデモが起きています。
ここで注目したいのは、本来左が担うべき言論(働かなくては食べていけないから、何とかしてくれ)がアメリカでは右が担っているという事実。もう、アメリカでは(日本でも)健康な左は存在しないということでしょうか。私は決してトランプ支持者ではありません。バイデンだって、トランプだって、結局は同じだということを嫌というほど見てきました。ですが、自宅退避という贅沢ができない人達を切り捨て、パラノイアの如く強硬な感染阻止策に突き進む民主党、NIH、マスメディアには全く共感できません。
また、こうしたデモの背景に、パワーエリートに対する根強い不信があることを忘れてはなりません。メディアはこの不信を「陰謀論」「フェイク」と認定し、フェイスブックやグーグルはネット空間から削除することに躍起になっています。このコロナ騒ぎも、ビルゲイツ、アンソニーファウチ、ワクチン、といったワードと共に検索すれば、まだ削除されないこうした「陰謀論」が出てきます。それを信じるかどうかは個人の自由ですが、言いたいのは、もし人々が政治やメディアを信頼していれば、こうした「陰謀論」は出てこないはずだということです。
それと、最後に、私は権力が故意に新型コロナウィルス危機を煽っているとの感触を拭えきれません。最近、スタンフォード大と南カリフォルニア大で注目すべき調査結果が発表されました。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58251390Q0A420C2EAF000/

https://medical.jiji.com/news/31149

もしこの結果が正しいとすると、このウィルスは感染力は大変強いものの、死亡率はさほど高くない、季節性のインフルエンザみたいなものということになります。だとしたらいくら自宅退避、ソーシャルディスタンス、経済活動自粛は妥当な政策でしょうか?経済活動を永遠に自粛し続けることは、自殺行為です。発想の転換をしないことには、プラクティカルな対策は出てこないということになります。新型コロナの政治利用は、やめるべきです。
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