「横道世之介」吉田修一 毎日新聞社 2009年(初出毎日新聞2008年4月1日~2009年3月31日)
世之介は大学合格とともに長崎から上京してきた。なんとなく流される日々。時はバブル真っ盛りの80年代半ば。なんとなく入ったサンバ・サークル。なんとなく始めたホテルのバイト。なんとなく始めた恋愛。そんな流され世之介なのに、周囲をどういうわけかポジティブな気分にさせる。そんな世之介の大学時代プラス以後の人生は…
おー。いい本だ。いい本という言い方は、面白くなかってこと?いや、むしろとても面白かった。爆笑するわけじゃないけれど、あちこちでじわじわとくる。
ああ、そうか、世之介は思う。誰かを傷つけたことがないんじゃなくて、傷つけるほど誰かに近づいたことがなかったんだと。(386頁より引用)
ドラマティックじゃないドラマ。淡々としていてそれでいで感じ/考えさせてくれる。実は途中で、世之介が死ぬことは書いてあるのだけれど、どうやって彼がそこまでの人生を歩んできたのか非常に気になる。それが、この先どうなるのだろう?と頁を進めさせる。一番考えさせられるのは、天然お嬢様の祥子との恋愛?の件。私自身の体験とオーバーラップすることも含めて、彼らの恋愛の展開、そして行く末には目を離せない。そしてその結末… うーむ。吉田修一、実に巧い。
大切に育てるということは「大切なもの」を与えてやるのではなく、その「大切なもの」を失った時にどうやってそれを乗り越えるか、その強さを教えてやることではないかと思う。(364頁より引用)
新聞連載小説は単行本になると、広げた風呂敷が収納できなくなったり、構成がおかしかったりするけれど、本作にはそんなことが一切ない。そもそも大風呂敷を広げてもいないんだけれど、最後まで読むと全体の構成がうまーく出来ていることに驚く。
彼らに同情したり悲しんだりしてくれる人なら世界中にいる。でも私たちは同情したり、悲しんだりするためにここにいるんじゃない。じゃあ何のためにここにいるのか?それを自分で探すのだと。(379頁より引用)
この最後に引用した箇所。誰の独白だろうか。読んでいる途中ではまさかこの人がこんなことを思うだなんて…絶対予想できないよ。バブル期の大学生のチャラチャラ人生活を描くのだと思って読むと、襟元に冷や水を入れられるような意外な展開にやられることになる。
では、また。
ふるちんさんがここで紹介された本を追いかけ読むことも多々あり、有効に活用させて頂いてます。
「横道世之介」は既読でしたが、正に、ふるちんさんが引用されている箇所。
正にその箇所を手帳に書き残してました。
なんか嬉しかったです(笑)。
これからも楽しみにしています。
過分なお言葉ありがとうございます。
まさかこの小説がと思うような、意外なストーリー展開、魅力的な人物造形、いい言葉。全てが詰まっているいい小説でしたね。